ところざわサクラタウンから発信されるKADOKAWAのSDGs

KADOKAWA 松原眞樹 取締役副会長 インタビューところざわサクラタウンを拠点に業界の新スタンダードを創っていく

以下インタビューは『MITテクノロジーレビュー[日本版]Vol.2 / Winter 2020』(発行:株式会社角川アスキー総合研究所)からの転載です。文中の肩書きなどは2020年当時のものとなります。

ところざわサクラタウンでは、出版のすべての工程をデジタル化。また、オフィスのデジタル化も推進し、テレワークが可能な環境を実現している。デジタル化の先にあるものとは? 松原眞樹社長に話を聞いた。

出版デジタル革新で実現する持続可能なコンテンツ・ビジネス

「持続可能」というキーワードから見ると、従来型のコンテンツ・ビジネス、とりわけ出版産業には課題がある。従来の製造・流通システムは大量製造、大量の返本により過剰な在庫を抱え、最終的に大量廃棄に至り、紙もインクも水資源もエネルギーも、さらに人的資源についても無駄が出るためだ。

持続可能なコンテンツ・ビジネスを実現するにはどうすればいいのか──。KADOKAWAが出した答えが「出版のデジタル革新」だ。同社は現在、ところざわサクラタウンを中心に、出版のフルデジタル化に取り組んでいる。松原社長は次のように語る。

「1つは、企画から制作、印刷、物流、データ管理に至るまで、すべての工程をデジタル化することです。ところざわサクラタウンに自前の製造設備を持っているからこそ、私たちには全工程のデジタル化が可能です。現状、校了というラストワンマイルが残っていますが、これも2年以内に移行できると考えています。製造のフルデジタル化により、今までの見込み製造と大量返本の悪循環から脱却し、需要に応じた最適な数量を提供して、足りなくなればプリントオンデマンドでスピーディに補うことができます。読者やユーザーの多様な要望にタイムリーに応えながら、次々に新しいものを生み出していく体制が作れます」

ところざわサクラタウンに導入された出版事業のデジタル・トランフォーメンション設備「BEC(ベック)」。すべての工程をデジタル化し、制作から流通、在庫まで管理する。書店の注文に対して在庫がある商品はスピーディーに出荷、なければオンデマンドで製造する。

ただし、印刷をすべて自社でカバーすることは考えていない。印刷会社が得意とするボリュームや仕様の商品の製造については印刷会社に依頼し、引き続き「共存共栄」のスタイルを取っていくという。

「それでも、デジタル化した製造工程のプラットフォームを自前で持つことは、これからも出版事業を持続していく上で重要になると考えます」

また、KADOKAWAは、DXによりIPやサービスの新たな付加価値創出を推進しているが、出版においても製造工程と共にプロダクトのデジタル化を進めている。グループ会社が電子書籍ストア「BOOK☆WALKER」を運営するほか、NTTドコモとの協業によって「dマガジン」を展開。他社のコンテンツも扱い、業界のデジタル化にも貢献する。

安全環境と安定供給の確保でビジネスと顧客を守る

KADOKAWAがところざわサクラタウンに工場・倉庫とオフィスを作ることになったきっかけの1つには、2011年の東日本大震災もあるという。

「BCP(事業継続計画)の観点から、仮に大きな災害があっても社員および働いている人の安全確保を大前提に、商品の安定供給も続けられるようにしていかなければならないと考えました。そのためには、かなりの耐震構造を持った建物が必要になる。また、社員については、2割程度は常時テレワークで働けるような体制を作っていこうという流れもありました」

テレワークでも出社時と同様にコミュニケーションを取り、円滑に業務を行うためには、やはり「デジタル化」がカギとなる。KADOKAWAにとって幸いだったのは、傘下にドワンゴやグループ内のICTサービスを担うKDX(KADOKAWA connected)があったことだ。通信環境の整備など、ところざわサクラタウンのデジタル化推進にとって、万全の協力体制が備わっていた。

「ところざわサクラタウンの計画時には、当然ながら2020年のコロナ禍は想定していませんでした。しかし、テレワークを前提に働く体制を整えていたことで、結果的にはコロナ禍でも普段通りいきいきと仕事をして、テレワーク率7割を維持したままコンテンツを生み出し続けることができています。産休や育休、介護休暇も取得しやすくなりました。デジタル化は、私たちKADOKAWAの『働き方改革』の回答でもあります」

松原社長は、出版を含むコンテンツ・ビジネスを「文化産業」と位置付ける。文化産業は、持続可能な社会にとって不可欠な存在であり、まさにSDGsそのものだと言う。

「出版業界には『資源の無駄遣い』に代表されるようにSDGsに逆行する部分もありましたが、出版デジタル革新でそれは解決に向かっています。また、デジタル化によって今後は自社内でできる事業の幅ももっと広がっていく可能性もあります。コンテンツ・ビジネス業界全体の発展に貢献するのが、上場企業としてのKADOKAWAの使命であり、ところざわサクラタウンの完成で、その使命を果たすためのスタート地点に立てたと感じています。私たちが、業界の新しいスタンダードを創らなければならないと感じています」

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『MITテクノロジーレビュー[日本版]Vol.2 / Winter 2020』(発行:株式会社角川アスキー総合研究所)より転載。
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