Ⅰ:気候変動への取り組み

気候変動への取り組み


KADOKAWAグループは、気候変動が社会の喫緊の課題であると認識し、温室効果ガス削減や省エネルギー化に取り組んでいます。
従業員がオフィスだけでなくサテライトオフィスや在宅での勤務を選べる、自律的に行動する働き方であるABW(Activity Based Working)の導入により、従業員がオフィスに必ず出勤するルールをなくし、従業員の通勤や移動にともなう温室効果ガス排出の削減につなげています。
また出版の編集過程においては、タブレット端末の導入を進めており、取引先(印刷会社)とのルール整備を進めPDFでの入稿・校了を可能にしたことで、印刷所に紙の校正紙を運送するプロセスを削減しています。
当社グループでは気候変動に関連した情報の開示を進めながら、これからも環境負荷を減らしたサステナブルな事業活動を推進していきます。




TCFD提言への対応


気候変動の影響は年々深刻さを増しており、経済・社会・環境に大きな影響を及ぼしています。国際社会は低炭素・脱炭素社会の構築に向けた動きを加速しており、企業が果たすべき役割の重要度が増しています。
当社グループは、ESGの3つの要素である、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の観点から、時代とともに変化する社会課題の解決と事業成長の両立を図り、お客様、株主、取引先、地域社会など様々なステークホルダーの皆様の期待に応えながら、より良い社会の形成と持続的な企業価値の向上を目指しています。
気候変動への対応につきましては、社会の喫緊の課題であると認識し、温室効果ガス削減や省エネルギー化に取り組んでいます。
当社グループでは「気候関連財務情報開示タスクフォース(以下、TCFD)」が公表した最終報告書(以下、TCFD提言)へ賛同し、このたびTCFD提言に沿った情報の開示をいたしました。今後もTCFD提言に沿った気候変動関連情報の開示を拡充するとともに、環境負荷を減らしたサステナブルな事業活動を推進していきます。


(1)ガバナンス


● ガバナンス

世界的な課題となっている気候変動リスクへの対応は当社グループとしても重要な課題の1つと認識しています。
気候変動への対応については、取締役会の監督の下、取締役 代表執行役社長 CEOを委員長としたリスク管理委員会が、気候変動関連を含むグループ全体のリスク分析と対応を行っています。
気候変動に関するリスクについては、リスク管理委員会(年2回開催)において、全社的リスクマネジメントの中で審議・検討し、特定されたリスクへの対応策検討、CO2排出量の削減等の取り組みを推進しています。
取締役会は、リスク管理委員会で審議された重要事項について報告を受け、気候変動課題への実行計画等についても審議・監督を行っていきます。


(2)戦略


● シナリオ分析の概要

当社グループは、TCFD提言にて例示されている気候変動がもたらすリスク・機会を元に、シナリオ分析を実施しました。
シナリオ分析においては、2℃以下シナリオを含む複数の温度帯のシナリオを選択、設定していく必要があるため、移行面で影響が顕在化する1.5℃シナリオと物理面での影響が顕在化する4℃シナリオの2つのシナリオを選択しました。分析対象の範囲は、主力事業であるKADOKAWA(単体)を対象としております。

<世界平均地上気温変化予測(1986~2005年平均との差)>

世界平均地上気温変化予測(1986~2005年平均との差)

※出典:IPCC AR5 WGⅠ SPM Fig. SPM.7(a)


【1.5℃シナリオ※1】
気候変動に対し厳しい対策が取られ、2100年時点において、産業革命時期比の気温上昇が1.5℃程度に抑制されるシナリオ。
気候変動対応が強められ、政策規制、市場、技術、評判等における移行リスクが高まるシナリオ。
※1 インパクトを試算する際のパラメーターは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、IEA(国際エネルギー機関)の情報を参考にRCP2.6シナリオを使用。

【4℃シナリオ※2】
気候変動への厳格な対策が取られず、2100年時点において、産業革命時期比4℃程度気温が上昇するシナリオ。
自然災害の激甚化、海面上昇や異常気象の増加などの物理的リスクが高まるシナリオ。
※2 インパクトを試算する際のパラメーターは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、IEA(国際エネルギー機関)の情報を参考にRCP8.5シナリオを使用。


● 気候変動に関する主なリスクと機会

<気候変動1.5℃シナリオ>


気候変動リスク/機会の項目 世の中の変化 想定されるシナリオ リスク 機会 発生時期
移行リスク・機会 政策・法規制 GHG排出量に関する環境規制強化 再生可能エネルギー価格の上昇によるエネルギーコストの増加 - 中・長期
炭素税、排出権取引の導入 炭素税、排出権取引の導入によるコスト増加 - 中・長期
市場・技術 低炭素(省エネ)、脱炭素、再生可能エネルギーへの移行が急進 電力消費量を削減するための設備投資の増加 - 中・長期
調達コストの増加 炭素税や環境規制対応によって、紙資源など原材料への価格転嫁が進み生産・調達コストが増加 - 中・長期
出版業界の環境対応要請の強化 紙書籍における当社独自のデジタル製造・物流工程にかかる需要の増加 - 中・長期
電子書籍等のデジタルコンテンツのニーズ増加 出版事業の電子書籍需要の増加 - 中・長期
評判 気候変動に関するステークホルダー評価の変化 気候変動をはじめとする環境への取組みの遅れによるステークホルダーからの企業評価や信頼性の低下 - 中・長期

:影響が大きい :やや大きな影響 :影響は軽微


<気候変動4℃シナリオ>


気候変動リスク/機会の項目 世の中の変化 想定されるシナリオ リスク 機会 発生時期
物理リスク・機会 慢性 降水・気象パターンの変化(平均気温の上昇) 主要拠点において、災害対策に関する設備投資コストの発生 - 長期
平均気温の上昇により、空調にかかる電力使用量が増加 - 長期
急性 異常気象(台風、山火事、洪水、暴風雨)の激甚化および増加 森林火災が増え、紙の原材料の安定供給の悪化、紙の調達コストの増加 - 長期
生産、調達における操業停止・サプライチェーンの断絶が発生 - 長期
自然災害が原因となる停電により、コンテンツ配信の中断 - 長期

:影響が大きい :やや大きな影響 :影響は軽微


● 移行リスク・機会:脱炭素シナリオ(1.5℃)

移行リスク・機会については、1.5℃目標達成に向けて、様々な規制などが導入される脱炭素シナリオに基づいて検討しました。
1.5℃以下シナリオにおいては、政府の環境規制強化にともなう炭素税導入や、再生可能エネルギー需要の増加による価格上昇など費用の増加、電力消費量を削減するための設備投資の増加が想定されます。
また、環境問題をはじめとしたサステナビリティ意識の高まりもあり、紙書籍の需要が減少する一方で、デジタルコンテンツニーズの高まり等、消費者の嗜好が多様化し、電子書籍等のニーズが高まることも想定されます。当社は、リアルとデジタルの融合によりIPの世界観を新たなUXで提供していくことで、IPの価値最大化に取り組み持続的な成長を目指しています。電子書籍市場では、世界的な成長市場であるWeb漫画分野への投資を強化し、グローバル展開を推進しており、縦スクロール漫画の制作・多言語化、販売、プラットフォーム開発への投資を行っております。
また、当社グループでは良質なコンテンツとサービスの提供、従業員の生産性向上を目指し、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進と実践に取り組んでいます。出版のデジタル革新においても、書店への専用発注端末導入や、ところざわサクラタウンへ最新鋭デジタル印刷設備を備えた書籍製造・物流工場を構築するなど出版のフルデジタル化の取り組みを率先して進め、紙の余剰消費の削減につなげています。環境意識の高まりにより、このような当社独自の取り組みがより一層加速し、製造物流の新基準として出版業界に浸透し、他社需要を取り込んでいく可能性があります。今後も製造・流通・販売面でも環境の持続可能性に配慮した活動を推進していきます。


● 物理的リスク・機会:温暖化進行シナリオ(4℃)

物理的リスク・機会では、異常気象による自然災害の発生にともなう、事業活動の停止やサプライチェーンの断絶が大きなリスクとなります。自然災害は、発生の予測が難しく、一度発生すれば、甚大な被害をもたらします。現在においても、温暖化の進行により、災害をもたらす大雨などの極端な気象現象の発生が増加していますが、温暖化進行シナリオでは、この傾向はさらに強まることが想定されます。また、温暖化進行により森林火災が増加し、紙の原材料の安定供給の悪化や紙の調達コストの増加も予想されます。
当社では、出版のフルデジタル化の取り組みを進めるとともに、全従業員が時間や場所にとらわれず、自律的に行動する働き方=ABW(Activity Based Working)を導入し、「どこで仕事をしても同質の業務を行うことができる」環境の実現を目指しています。また、気候変動リスクを含む大災害に対応できるよう、BCP(事業継続計画)体制を整備し、気候変動にともなう災害対応やサプライチェーンマネジメントを強化していきます。


● 炭素税の導入による影響

気候変動リスクによる財務的影響については、政府の環境規制強化にともなう炭素税の導入によるものが考えられます。そのため、GHG排出量が2020年度と同等の場合の4℃シナリオおよび1.5℃以下シナリオにおける2030年および2050年の炭素税導入にともなう影響額を試算しました。また、試算にあたっては国際エネルギー機関(IEA)のシナリオや国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のシナリオ、現在の炭素価格(排出量取引制度、炭素税、エネルギー課税)を用いて試算しています。なお、いずれのシナリオにおいても、現状の当社業績に鑑みますと炭素税導入に伴うコスト増は軽微なものとなると見込まれます。また、今後、再生可能エネルギーの導入等によりGHG排出量を削減していく予定のため、実際に炭素税が導入される時点では、この影響は軽減される見込みです。


  1.5℃以下〜4℃シナリオ
炭素税価格
(円/t-CO2
炭素税導入に伴うコスト増
(万円)
2030年 約2,500〜11,000円 約950〜4,200万円
2050年 約4,800〜18,000円 約1,800〜6,900万円

(前提条件)
・参照シナリオ「STEPSシナリオ(導入済みもしくは公式発表済みの政策が実施された場合のシナリオ)、IEA(2020)「World Energy Outlook 2020」」
(試算データ)
・当社 温室効果ガス排出量(2020年度):約3,783t-CO2


(3)リスク管理


● リスク管理

当社グループではリスク管理規程を制定し、同規程に基づいてリスク管理委員会を組成しております。委員長は取締役 代表執行役社長 CEO、委員は各部門のチーフオフィサーから構成され、内部統制を担う部門が事務局となっております。委員会は年2回開催し、活動内容は取締役会に報告しております。
当社グループのリスク管理活動は、内部要因(経営資源、事業特性等)と外部要因(感染症、気候変動リスク等)の観点から、各部門が重要リスクの選定と対策立案を行い、その取り組み状況を内部統制を担う部門がモニタリングし、継続的な改善を行うプロセスとなっております。
特に、気候変動に関するリスクを全社的な重要リスクの一つと位置付けており、気候変動によって受ける影響を把握し評価するため、TCFDの枠組みに基づいたシナリオ分析を行い、当社への影響を検討し、その結果をリスク管理委員会へ報告しています。気候変動リスクを含む、リスク管理の状況や重大なリスクの判断に関しては、取締役会への報告・提言を行ってまいります。


(4)指標と目標


● GHG(温室効果ガス)排出量と削減目標

2022年度のGHG排出量は、Scope1(事業による直接排出)は83 t-CO2、Scope2(電力消費による間接排出)は4,424 t-CO2、合計排出量は4,507 t-CO2となりました。※2023年7月時点で経済産業省が更新した調整係数にて再計算した排出量。2023年12月15日更新。
当社は持続可能な社会の実現に向けて、SBT(Science Based Targets)として求められるCO2排出削減レベルを考慮し、Scope1,2について、「2030年度に2020年度比50%削減」「2050年度に実質ゼロ」の目標を設定しています。
この取り組みとして、2023年1月1日より、東京都千代田区にある自社ビル4棟(角川本社ビル、角川第2本社ビル、角川本社ビル別館、KADOKAWA富士見ビル)の全館で使用する電力を実質的に再生可能エネルギーからなる電力に切り替えました。さらに2023年12月1日より、拠点の一つであるところざわサクラタウン(埼玉県所沢市)の電力も再生可能エネルギーからなる電力への切り替えを実施しました。当社の年間二酸化炭素排出量(2022年度実績)のうち76.9%(約3,468 t-CO2)を実質ゼロにするものです。2024年度には2020年度実績(約3,783t-CO2)から約88%(約3,333t-CO2)を削減できる見通しとなり、目標として掲げた「2030年度に2020年度比50%削減」を早期に達成する見込みです。
KADOKAWAグループ全体でも目標達成ができるよう各事業拠点での取り組みを推進していきます。GHG排出量の削減にあたっては、社内の省エネ、節電を心掛けるとともに、国が認証するJ-クレジット制度を積極的に活用するなど、脱炭素社会の実現を目指していきます。


GHG(温室効果ガス)排出量と削減目標

<集計範囲の説明>
株式会社KADOKAWA単体の本社、各営業所、ところざわサクラタウンを対象に集計



過去4年間のエネルギー使用量


オフィスでは節電に継続して取り組むとともに、オフィスの統廃合により効率的なエネルギー使用の形を目指しています。
2020年度以降、所沢キャンパスを含むところざわサクラタウンが稼働したことで電力使用量が増加していますが、省電力のLED照明の利用をはじめとした節電の実施とエネルギー利用の視点からも最適なオフィス配置を検討することで、今後もエネルギー使用量の削減に努めていきます。

  2019年度 2020年度 2021年度 2022年度
エネルギー使用量
GJ
45,333 78,086 99,205 104,664
(内訳)
燃料(A重油)
kl
6 6 8 6
電気
千kWh
4,603

7,883
(5,110 千kWhは所沢キャンパス、ところざわサクラタウン内の製造・物流工場を中心とした使用分)

9,954
(7,149 千kWhは所沢キャンパス、ところざわサクラタウン内の製造・物流工場を中心とした使用分)

10,544
(7,829千kWhは所沢キャンパス、ところざわサクラタウン内の製造・物流工場を中心とした使用分)

※株式会社KADOKAWAにおける使用分