サステナビリティへの取り組み

KADOKAWAグループのサステナビリティに向けた取り組み

障がいのあるなしにかかわらず、人々が混ざり合い
「ビジネス」として自立することを目指す

サマリー
  • 企業の社会的責任として、障がいのあるスタッフが働ける場をつくるために、特例子会社を設立する例が増えている
  • KADOKAWAグループの特例子会社である角川クラフトは、ビジネスとして成立・持続することを目指している
  • スキルを身につけられ、将来は独立・起業も視野に入れたコーヒー事業など、障がいのあるスタッフのやりがいや将来を意識したさまざまな事業に取り組んでいる

障がい者雇用の特例子会社である株式会社角川クラフトは、障がいのあるスタッフとともに、複数の事業に取り組んでいます。その柱のひとつが「コーヒー事業」。グローバル・メディアミックスを展開するKADOKAWAグループでなぜコーヒーなのか? そこには、ビジネスとして自立・持続すること、さらにはスタッフの将来も見すえた意図があります。

2019年6月に設立された株式会社角川クラフトは、同年9月に、障がいのある方々の雇用を目的とした特例子会社として認定されました。この角川クラフトの大きな特長は、「自立し、サステナブルであること」(株式会社角川クラフト 取締役 河田 聡)です。

「特例子会社は、その方向性や目的が、福祉に偏ってしまいがちなところがありますが、当社は事業会社として、KADOKAWAグループの事業の文脈に沿った会社として、自立・貢献していくことを目指しています」(河田)

このため、角川クラフトは自社だけでしっかり自立でき、雇用を持続できる収益構造をつくること、そしてここで働く身体や精神に障がいのあるスタッフ一人ひとりが、やりがいを感じ、将来に向けたスキルを身につけられることを、大きな目標として掲げています。

現在展開している事業は、大きく分けて3つ。KADOKAWAグループの創業事業である編集・出版業務やバックオフィス業務のサポートを中心とした「業務支援事業」、コーヒーの焙煎や販売、カフェ運営などを行う「ものづくり事業」、そして児童クラブの運営を受託する「こどもみらい事業」です。

このうち「業務支援事業」では、現在8名の障がいのあるスタッフが、KADOKAWAグループの電子書籍の校正業務や、データベース入力などを行っています。

「KADOKAWAグループのなかの、事務系の支援ビジネスですが、地域に貢献する派遣型業務も視野に入れています。例えば、人手が不足している商店街での仕事の一部を請け負ったりすることで、スタッフにスキルが身についていきます。このような業務を通じて、後継者不足の解決、技能・知識の伝承に資することができると、地域の活性化につながり、理想的なゴールが見えてくるかもしれません」(河田)

そして「ものづくり事業」では、角川クラフトの社員と障がいのあるスタッフ7名が一緒になって、コーヒー事業に取り組んでいます。なぜコーヒーかというと、「本や映画といったコンテンツづくりに、コーヒーはかかせない」(河田)から。KADOKAWAグループのスタッフはもちろん、関わる作家や漫画家、イラストレーター、アニメーターなど、あらゆるクリエイターにコーヒー好きが非常に多いからということも、その根底にはあります。

ビジネスとしては、「在庫管理がしやすく、また焙煎した豆の小売りから、カフェ事業、関連グッズの販売まで、多岐に渡るビジネスを展開できる」(河田)ということ、さらにはここでスキルを身につけたスタッフが、将来独立・起業できる可能性も視野に入れて、コーヒー事業を選定しました。

キーコーヒーと連携して導入した焙煎機。資格を取得したスタッフが交代で焙煎する

事業を立ち上げるにあたっては、まず、安全で扱いやすい特別な焙煎機を、角川クラフトの理念に共鳴いただけた、大手コーヒー事業者のキーコーヒー株式会社から導入。埼玉県所沢市東所沢の「角川クラフト 東所沢焙煎所」に設置されたその焙煎機では、最大で1日100キログラム近くのコーヒー豆を焙煎できます。ここでは、焙煎したコーヒー豆の販売はもちろん、併設されたカフェの運営、さらにネットストア事業も行っています。

焙煎したコーヒー豆は、KADOKAWAグループの大型複合施設「ところざわサクラタウン」内にあるKADOKAWAの新オフィス「所沢キャンパス」のカフェスペースで、コーヒーとして提供しているほか、同施設にあるレストラン「角川食堂」、KADOKAWA直営書店「ダ・ヴィンチストア」や、角川武蔵野ミュージアム内のレストラン「SACULA DINER」などにもそれぞれのブランドイメージにあわせたブレンドコーヒーを納入しています。

コーヒー豆を焙煎するには、まず生の豆を選別する必要があります。これは機械では行えず、すべて人の手で丁寧に行わなければなりません。この選別作業は、障がいのあるスタッフたちによって行われています。選別後の焙煎工程も、資格を持ったスタッフ3名が担当します。

「焙煎が終わると、再度、手作業で選別を行います。焙煎前と焙煎後、この2回の選別作業をていねいに行っていることが、我々のコーヒーの特徴です。地道な作業を、高い集中力を発揮して行ってくれるスタッフのおかげで、豆の品質が格段によいものになります。手間をかけたらかけたぶんだけ、おいしさが増しますし、売り上げも上がって、お客さまからうれしい声をいただくことができます。こうした成果を、スタッフが実感できるように、フィードバックすることも心掛けています。コーヒー事業を始めて1年が経ちましたが、やりがいを感じてくれて、いまだ誰も退職していない、という環境をつくり出せています」(河田)

障がいがある方が長く働き続けられる受け皿や、将来のキャリアにつながるトレーニングをどう増やしていくかは、大きな社会課題となっています。コーヒー事業は、そこも視野に入れています。

「近年、コーヒー豆を焙煎して販売する店舗が街なかに増えており、角川クラフトにおいても、店舗が増えることはもちろんですが、弊社でスキルを身につけたスタッフたちが、自ら起業してお店を構えてくれることを楽しみにしています。そして、そのお店で障がいのあるスタッフが生活基盤を確保して、社会に出るきっかけをつかんでくれる日が来るかもしれません」(河田)。

これらの事業のほかには、障がいのあるスタッフが在宅で仕事ができる「クラウドワーキングネットワーク」づくりも進めています。

「地方在住の方のなかには、とても優秀なのに、環境面で制約があったり、住んでいる地域には能力に見合った仕事のない方がいます。こうした皆さんに、存分に才能を発揮してもらう機会を提供しようと考えています」(河田)

角川クラフトでは、特例子会社という枠にとらわれず、障がいの有無や程度にかかわらず最大限に能力が活かせる次世代のロールモデルをつくり、KADOKAWAグループや地域社会にとってなくてはならない存在となることを目指しています。

「福祉の分野には、インクルージョン(包摂)という概念があります。社会が障がいのある方々を包み込んでいくような印象です。それに対して、弊社ではエマルジョン(乳化)という概念を目指しています。エマルジョンとは、水と油のように混ざりにくいものが溶け合ってひとつになった状態のことです。弊社の事業では、障がいがある方もない方も、志がおなじであれば、皆がごく自然に溶け合っているエマルジョンな状態を目指しています。こうした信念で事業を進めていけば、一人ひとりの人間性が尊重しあえる、そういう幸せな社会が必ずやってくると信じています」(河田)。

目標とするゴール