- KADOKAWAは2014年より、貴重な日本のクラシック映画約1,800本を次世代に継承していく「角川シネマコレクション」レーベルを立ち上げ、劇場上映をはじめ、パッケージ、放送、配信を通じて作品を観られる機会を提供している
- 公開当時のルック(色味など)をできる限り再現し、将来に引き継いでいくために、4Kデジタル化も行っている
- 修復された作品は、国内の映画館で再上映したり、パッケージソフトとして発売。さらには、ヴェネチア国際映画祭クラシック部門で昨年上映された『無法松の一生』のように、日本映画の魅力を海外の映画祭などでも発信している
KADOKAWAの映画事業は、旧角川映画、大映映画、日本ヘラルド映画がルーツにあり、貴重な日本のクラシック作品約1,800本を保有しています。黒澤明監督の『羅生門』や小津安二郎監督の『浮草』など、世界的に著名な作品も少なくありません。これらの作品を次の世代に受け継ぐには、フィルムを適切に保存してメンテナンスしていくとともに、デジタル化していく必要があります。
KADOKAWAの映像部門では、日中合作映画『空海-KU-KAI-美しき王妃の謎』(2017年/チェン・カイコー監督)や、第44回日本アカデミー賞で12部門の優秀賞を受賞した『Fukushima 50』(2020年/若松節朗監督)など、主に自社原作を基にした映像作品の企画・製作、配給・宣伝、配信、パッケージ化といった、川上(製作)から川下(二次利用)まで、一貫した事業を展開しています。さらに、良質な洋画の買い付け・配給・宣伝や海外TVドラマにも取り組んでいます。
その一方で、KADOKAWAは新作映像作品だけでなく、クラシック映画や過去の歴史的な名作も数多く保有しています。KADOKAWAでは、これらの貴重な作品を映画館で再上映したり、パッケージソフト化したりして次世代に継承する「角川シネマコレクション」レーベルを立ち上げ、発信に取り組んでいます。
現在、映画館ではデジタルプロジェクターを使った上映が主となっており、フィルムを上映できる施設はごく一部しかありません。そのため、過去の名作を映画館で再上映して多くの方にご覧いただくためには、まず、フィルムに記録された情報をデジタルデータへと変換する作業が必要です。こうしたデジタル化を行うには、原版となるフィルムの記録状態が良好であることが求められます。一般的に、フィルムは年月を経ると徐々に劣化していくため、それを防止するための適切な保存・管理に加えて、劣化したフィルムのケアが欠かせません。
KADOKAWAは公益財団法人 角川文化振興財団の助成を受けて、保有する約1,800作品の映画フィルム原版の保存に取り組む「原版保存プロジェクト」を、2004年に発足させました。プロジェクトでは、保有するフィルムの状態検査・クリーニングに加えて、劣化の進行が激しいフィルムの複製にも着手しました。約1,800作品すべての状態を入念に検査するには膨大な手間と時間を要し、調査は2008年3月まで続きました。
「調査の結果、かなりの数の原版において、大気中の水分や熱による化学反応(加水分解)で、フィルムを構成する素材が酢酸化してしまう“ヴィネガー・シンドローム”による劣化の進行が確認されました」(KADOKAWA 文芸・映像事業局 映像営業部 五影雅和)
フィルム原版は、当時のプロジェクトメンバーの尽力により、国立映画アーカイブの相模原分館へ寄託されました。同施設では、24時間稼働の空調システムによる管理のもと、適切な温度・湿度下で映画フィルムが保存されています。ただし、一度劣化の進んでしまったフィルムは、それが完全に止まることはないため、現在も劣化が進行しているのが実態です。
2004年から2008年に行った検査では、フィルムに損傷が見られるものの、比較的程度が軽い(Bランク)作品は全体の43%でした。それから約15年たった現在では、Bランクの割合が32%へと減っています。減った分の中には、修復作業によって状態が良好なAランクとなったものもありますが、残りの大半は、劣化が進行して特殊な修復が必要になるCランクへ移行しており、34%だったCランクは43%まで増えていました。
KADOKAWAでは、4K修復をはじめ、デジタル化に着手した作品のフィルムについては、作業時にクリーニングを行い、再びフィルム倉庫に戻す際には、ヴィネガー・シンドロームによって発生するガスを吸着する吸着剤を使用する、といったケアを徐々に進めています。
「原版フィルムの映像に含まれている情報量は大変多く、一般的なハイビジョン規格であるHD規格(画素数2,048×1,080ピクセル)には収まりません。4K規格(同4,096×2,160ピクセル)の登場で、ようやく元のフィルムが持っている情報に近い量を収められるようになりました。なお、4K修復にあたっては、可能な限り劇場公開当時の映像に近づけることを目標にしています。そのときに問題になるのが、色味などのルックです。原版の劣化でフィルムが退色しているため、そのままデジタル化すると、本来の映像とは違う色味になりかねません。そこで、その作品のカメラマンや助手の方、あるいは当時の“調子”を知るカメラマンに、色味を調整するグレーディングという作業の監修をお願いして、公開当時のルックの再現を心がけています」(五影)
『おとうと』、『雨月物語』、『近松物語』などの4K修復版では、稲垣浩、溝口健二、市川崑監督らのカメラマンをつとめた故・宮川一夫氏の助手として、その特性をよく知る宮島正弘氏の監修により、公開時のルックを再現させました。ただし、こうした4K デジタル修復がなされれば、アナログのフィルム原版が不要となるわけではありません。
「4K化すれば、もうフィルムはいらない、ということにはなりません。今後解像度が8K、あるいはさらに高くなったとき、それを生かせる情報量を取り出すには、最も多くの情報を持つフィルム原版が不可欠です」(五影)
4K化した作品は、KADOKAWAが年2回開催している映画祭などを中心に公開しています。最近では、角川シネマ有楽町で「妖怪・特撮映画祭」を開催しました(2021年7月16日~9月2日)。これは新作映画『妖怪大戦争 ガーディアンズ』(2021年/三池崇史監督)の公開に合わせて、KADOKAWAのライブラリーから特撮関連30作品を選んで上映したものです。この映画祭では、『大魔神』(1966年/安田公義監督)、『大魔神怒る』(1966年/三隅研次監督)、『大魔神逆襲』(1966年/森一生監督)の、大魔神三部作の4K修復版が初公開されました。
また、2021年11月19日からは、角川映画45年記念企画として「角川映画祭」を開催しています。日本映画の歴史を変えた数多くの傑作が再上映されるほか、角川映画の記念すべき第1作『犬神家の一族』(1976年/市川崑監督)の4K修復版が初公開されます。
4K修復の取り組みは、国内のみならず海外でも注目され、国内外のさまざまなパートナーの協力のもとで修復された名作が、各国の映画祭でプレミア上映されています。
これらの貴重なフィルム原版を後世に残し、作品を将来の観客に届けていくためには、 映画業界全体としても、こうした取り組みを継続的に行っていく必要があります。年2回の「角川シネマコレクション」を通じての発信など、KADOKAWAとしての取り組みが重要な一方で、映画業界全体でも、持続可能なものにしていく必要があります。
「4K化するだけでなく、上映や発信を通じて、多くの方に観てもらうことが大切だと思っています。映画の黄金期に作られたクラシック映画の魅力を、角川シネマコレクションを通じて、若い人にも、もっともっと知ってもらいたいです。こうした活動は、貴重な文化遺産であるクラシック映画を守っていく次世代の人材を育てることにも、きっとつながるはずです」(五影)