- アニメの舞台となった場所にファンが訪れる“聖地巡礼”において、KADOKAWAはファン、作品、地域、関係企業の4者の共創サイクルを促すことで、一過性のブームに終わらない持続的な地域振興に貢献している
- 共創サイクルが生まれた地域では、壊れた地域施設の再建にファンが協力を呼びかけたり、小さな町の商店街で新商品開発が継続的に行われたりするような機運が生まれている
- KADOKAWAは培ってきた知見やノウハウを一般社団法人アニメツーリズム協会に提供することで、作品の著作権者の立場にとらわれず、多くの人がアニメツーリズムを地域貢献に活用できる仕組みづくりを応援している
アニメにおける“聖地巡礼”という言葉が、近年かなり頻繁に聞かれるようになりました。アニメ作品の舞台やモデルとなった地域では、どういった人たちが、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
KADOKAWAは以前より、アニメを中心としたIPを活用したさまざまな取り組みを行ってきました。その中でも大きな取り組みが、地域活性化へつながる「アニメツーリズム」の促進です。
実在の地域を舞台にした、数多くのアニメ作品があります。それらの作品に描かれている場所を、アニメファンは“聖地”と呼ぶようになりました。そして、その場所に自分も行ってみたい、作品に出てきたグルメを食べてみたい、名場面と同じ構図で写真を撮りたい、そういった欲求を持った多数のファンが実際に現地に足を運ぶようになり、いわゆる“聖地巡礼”ブームが生まれました。
聖地巡礼は、ファンの、ファンによる、ファンのための楽しみでした。作品の舞台となった地域の方々は、たくさんのファンが地域を訪れてくれて喜んでいましたが、何もしなければ、そのうちファンは来なくなってしまいます。このようなブームを一過性のものとせず、アニメツーリズムとして持続可能な地域の振興につなげていこうという課題意識は、以前から言われてきました。
そのための活動のひとつが、“聖地“とされている地域と、地元企業、コンテンツホルダーをつないで、コンテンツを活用したサービスや商品の提供を促進することです。同時に、地域側でファンを受け入れる環境を整備することで、新たな経済効果を創出することも期待できます。また、KADOKAWAにとっては、作品制作の際に舞台としてお世話になった地域の発展に、直接貢献できることでもあります。
KADOKAWAでは業界でも一足先に、アニメの聖地に関わるさまざまな関係者をつなぎ、調整して、ファンにとっても、関係者にとっても、より良いかたちで聖地巡礼を実現する取り組みを行ってきました。
代表的な例が、『らき☆すた』の鷲宮(現在の埼玉県久喜市)です。『らき☆すた』は、2004年に当時の角川書店(現KADOKAWA)の雑誌『コンプティーク』で、4コママンガとして連載を開始し、2007年にアニメ化されました。主人公4人のうち、柊かがみ・柊つかさの双子が“鷹”宮神社の神主の娘で、休日は巫女として手伝っているという設定でした。
アニメでは、この鷹宮神社が同地鷲宮神社をモデルとして描かれており、アニメ放送当初から、作品のファンが訪れる場所となっていました。角川書店のアニメ雑誌が鷲宮神社を作品の舞台として紹介したことで、より多くのファンが訪れるようになりました。
ただ、この段階ではファンが独自に現地を訪問している状況で、受け入れの準備が整っていない地方の小さな町に、ファンが一挙に押し寄せることへの懸念もメディアでは報じられていました。そこで、地元の商工会がファンとの対話・連携を開始し、角川書店側からもイベントの実施を提案。2007年末に、角川書店も含むアニメ製作委員会が、原作者や主人公4人を演じる声優も参加するイベントを主催、約3,500人ものファンが集まりました。このイベントに加えて、さまざまな地元地域における関連施策の盛り上がりによって、2008年の鷲宮神社の初詣には例年より17万人多い30万人が訪れるなど、ファンと地域、作品の権利者が協力した聖地巡礼の成功例として、広くメディアなどで取り上げられるようになりました。
その後も、商店街でオリジナルグッズを販売したり、スタンプラリーを行ったりするなど、地元商工会を中心に自分たちの町でも実現可能な持続的な取り組みを実施。アニメの放送から15年経つ現在でも、鷲宮神社の鳥居再建にファンが協力を呼びかけるなど、息の長いファンと地域の関係が続いています。
こうしたアニメツーリズムに業界横断的に取り組むことを目的として、2016年、一般社団法人アニメツーリズム協会が設立されました。KADOKAWAは、これまで培ってきた知見やノウハウ、スタッフを同協会に提供。アニメツーリズムによる恩恵が、分け隔てなく多くの方々に行き渡るよう努めています。
アニメツーリズム協会では、国内外のアニメファンから広く投票を募り、「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」を毎年選定しています。また、これら「アニメ聖地」をつなぐ広域周遊観光ルートを、官民連携のオールジャパン体制で造成することも目指しています。
「アニメツーリズムで大切なのは、ファン、作品、地域、民間企業の4者の共創関係です。ファンが起点となり、そのファンに支持された作品、作品の舞台やモデルとなった地域、その地域で商品やサービスなどを提供する民間企業が、一緒に新しいものをつくっていく共創を意識して、バランスを成り立たたせることが重要です。4者が互いに尊重し合い、意見を交わして価値を高め合うことで、一過性の観光振興ではなく、アニメツーリズムによる持続可能な地域振興ができるのです」(アニメツーリズム協会理事兼事務局長 寺谷圭生 ※肩書は取材時)
それでは、どのように4者の共創サイクルをうまくまわしていくのか。こうした共創がうまくいっている事例のひとつが、群馬県館林市が舞台となったアニメ『宇宙(そら)よりも遠い場所』(通称“よりもい”)と、地元のみなさんの取り組み支援です。
館林の女子高生たちが、南極を目指す過程で友情を育みながら成長していく本作品は、作品自体の素晴らしさも相まって、舞台となった館林市に大勢のファンが集まるようになりました。地域の民間企業から声が上がり、同作品を活用したさまざまな商品コラボ展開が計画・実現していきました。こうした成功は、最初の商品化がファンと地域双方の思いを汲んだものだったからだと言われています。
調整役となったアニメツーリズム協会が注目したのは、まず“よりもい”への思いがひと際強い地元の飲食業者や和菓子店などでした。お店と作品権利者との間に入り、商品化についてのアドバイスと監修サポートを実施。地元4店舗でのコラボ商品展開からスタートしました。
「協会が取り組むのは、大手メーカーがライセンスを受けて全国販売するような商品ではなく、現地でしか手に入らない、ファンが聖地を訪れる際の喜びや旅の目的となり得る、地域ならではの商品とのコラボレーションです。その商品や商店のみなさんとの会話を通じて、地域の魅力を知ってもらい、何度でも訪れてみたくなるような体験に繋げたいと考えています」(寺谷)
その後、新しい商品開発の話も進むなど、“よりもい”という作品・地域に出会った人たちの間で、今回の縁を大きく活かそうという機運がますます高まっています。
数々の作品によって、それまで地元住民にとって当たり前だった場所が、ファンから見ると特別な場所となり、日本だけでなく世界中のファンが憧れる観光地になっています。優れたアニメーション作品を生み出していくことは、大きな視点で見ると、日本各地に新しい観光資源を生み出し、持続的な地域振興にも繋がっています。