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出版からグッズ・映画・イベントまで──東南アジアで加速するメディアミックス戦略

2026.5.08

KADOKAWAグループは「グローバル・メディアミックス with Technology」を基本戦略に掲げ、グローバル展開を加速させています。

平均年齢の若さと経済成長を背景に、エンターテインメントへの渇望が渦巻く東南アジア。KADOKAWAグループでは、2015年のマレーシア進出を皮切りに、10年以上にわたって事業を拡大してきました。中国・東南アジアを含むアジア圏での売上は好調に推移し、グループ全体のグローバル成長を力強く牽引しています。

2024年には東南アジア事業を統括する部署を設置。さらに2025年末には東南アジア最大級のアニメイベントなどを興行する「SOZO」を買収するなど、その体制強化を推し進めています。多様な言語と文化が入り混じる7億人市場でどのように成長戦略を描くのか。東南アジア事業を率いる、海外事業グループ South East Asia HeadquartersのGeneral Manager・岩崎太郎さんに、その戦略と未来図を聞きました。


出版・IP創出セグメント エリア別海外売上高推移

※KADOKAWAのグローバル展開については、こちらをご覧ください
(グローバル戦略)https://group.kadokawa.co.jp/k-insight/ki70990.html
(中華圏戦略)https://group.kadokawa.co.jp/k-insight/ki58332.html

多様性あふれる7億人市場での10年の軌跡

──10年以上にわたって東南アジア市場で事業を展開してきました。まずは進出の経緯から教えてください。

東南アジア進出を決断した最大のきっかけは、翻訳出版権売上の伸長ぶりでした。10年前の東南アジアはまだ国内の出版業界にとって未知の市場でしたが、KADOKAWAの翻訳出版権売上トップ5にタイが食い込んできたのです。「これだけポテンシャルがあるのなら、ライセンス販売するだけでなく、自ら直接出版・展開を行うべきだ」と考えたのが始まりです。


岩崎太郎さん

段階的に事業を拡大し、現在はマレーシア、タイ、インドネシア、シンガポールの4カ国に拠点を構え、それぞれが独自の役割を担いながら拠点間の連携を深めています。

東南アジア初の拠点となったのは、児童書に強みを持つ現地出版社を2015年に子会社化したマレーシアの「KADOKAWA GEMPAK STARZ(以下、KGS)」でした。マレーシアはイスラム教圏であるため、将来的な中東ビジネスへのゲートウェイにするという狙いもあります。

翌2016年にはタイに「KADOKAWA AMARIN」を設立。2024年にはインドネシアに「PHOENIX GRAMEDIA INDONESIA」を設立したほか、同年2月にはタイでライトノベルやコミックの翻訳出版を展開する「First Page Pro」がグループに加わりました。2025年末にはシンガポールの「SOZO」を迎え、段階的に東南アジアのネットワークを拡充させました。


マレーシア、タイ、インドネシア、シンガポールの4カ国に拠点

──国ごとに言語、文化、商習慣が異なりますが、具体的にどのように参入していったのでしょうか?

例えばタイ市場は、コミック出版社が約20社もひしめく激戦区です。進出当時、タイをはじめとする東南アジアでは、コミックは“読み捨て”されるものでした。新聞紙のような安価な紙に印刷され、1冊70円程度で売られていたのです。

しかし我々は、「お気に入りの漫画をコレクションしたい」というニーズが必ずあると確信していました。そこで参考にしたのが、先行して成功を収めていた台湾角川のモデルです。あえて紙質にこだわって特典をつけたプレミアム路線で勝負に出て、これが大人気となり急成長をとげました。現在では1冊約700円と日本と同じ水準まで価格は上がっていて、現地の出版社からも「市場を底上げしてくれた」と感謝の声をいただいています。

また、タイではデジタルファーストへの転換も進めています。近年、Netflixなどの動画配信サービスが普及し、日本と同時に正規版のアニメが見られるようになったことで、アニメ放送の翌日に原作の売上が伸びるというヘルシーなサイクルが生まれています。2023年にローンチした電子書籍プラットフォーム「BOOK☆WALKER Thailand」も好調です。タイは他の諸外国に比べて電子書籍のニーズが高く、タイトルによっては紙より電子が売れるケースも珍しくありません。


BOOK☆WALKER Thailandスクリーンショット

電子書籍プラットフォーム「BOOK☆WALKER Thailand」

さらに紙書籍の製造においては、「ところざわサクラタウン」にある出版のデジタル製造・物流施設「BEC」の活用を2025年後半から本格化させました。タイは印刷コストが高いため、1,000部以下の小ロットであれば、日本のBECで製造して輸送したほうがトータルコストが安く、リードタイムも早いというグローバルなサプライチェーンが機能しています。

※出版製造流通DXプロジェクト「BEC」については、こちらをご覧ください
https://group.kadokawa.co.jp/k-insight/ki48072.html

一方、人口2.8億人を抱えるインドネシアでは、国内で圧倒的シェアを持つメディアコングロマリット大手Gramediaとパートナーとして手を組む道を選びました。彼らが持っていなかったメディアミックスのノウハウを提供することで、2024年のジョイントベンチャー設立を実現し、市場への参入を果たしました。すでに現地ではコミックやライトノベルの出版、MD(グッズ)展開や、アニソンライブイベントなど手がけ、事業が急速に拡大しています。

マレーシアから生まれるグローバルIPと、独自のローカライズ戦略

──マレーシアではオリジナル作品の開発にも積極的ですね。

はい。KGSの最大の特徴は、社内に100人規模のクリエイターを抱えるスタジオ機能を持っている点です。 通常、出版社は外部の作家と契約して作品を作りますが、KGSでは漫画家やデザイナーが社員として働いています。編集から作画、DTP(デスクトップパブリッシング)までをワンストップで行えるため、圧倒的なスピードと品質管理が可能です。KGSから毎年400タイトル以上を制作していますが、その半分程度がオリジナル作品となっています。

この体制から生まれたのが、学習マンガ『どっちが強い!?』シリーズです。この作品はマレーシア発のオリジナルIPで、台湾や日本を含む世界11カ国・地域で翻訳出版され、関連シリーズは全世界累計1,200万部を記録しています。日本の子どもたちにも大人気のこのシリーズが、実はマレーシアのスタジオで生まれていることは、現地発IPのポテンシャルを証明する好例です。


『どっちが強い!?』シリーズ英語版

『どっちが強い!?』シリーズ日本語版

『どっちが強い!?』シリーズ繁体字版

グローバルに展開される『どっちが強い!?』シリーズ。


──日本作品の現地展開という点では、マレーシアはどのような状況なのでしょうか。

マレーシアは非常にユニークな市場です。宗教上の理由から表現規制が厳しいうえ、言語もマレー語、英語、中国語の3つが混在しています。参入時、英語と中国語版のコミックはすでに流通していたため、マレー語での展開に目を向けました。

国内で最も人口ボリュームが大きいのはマレー系の人々であるにもかかわらず、マレー語で日本の漫画を本格展開する企業はありませんでした。この巨大な空白地帯に日本のコミックを投入した結果、爆発的なヒットとなり、大きな売上を生み出しています。

出版にとどまらない、東南アジア圏の次なるビジネス

──出版以外のビジネスでも成果が出ていますね。

まずMD(グッズ)事業ですが、インドネシアで好例と言える成果を生みました。 パートナーであるGramediaの書店に、アクリルスタンドなどのMDを展開するコーナーを設置したところ、わずか1平米ほどのスペースが、周囲の書籍棚と同等以上の売上を叩き出したのです。Gramediaはインドネシア全土に約130店舗の書店を持っているので、協力しながらMDの展開を加速させていきたいと考えています。


岩崎太郎さん

また、中国の広州天聞角川が手がけるIP『シャム猫あずきさん』は、東南アジアで製造ハードルが高いミニフィギュアなどのMDを中国で生産し、それを東南アジア各国へ輸入するスキームが非常にうまく機能した好例です。今後は、この中国の生産能力を活かして東南アジアへ展開するモデルを、さらに拡大していく方針です。

※中華圏市場については、こちらをご覧ください
https://group.kadokawa.co.jp/k-insight/ki58332.html

──リアル店舗やECといったD2C(直販)事業にも積極的です。

これには東南アジア特有の市場環境が関係しています。東南アジアでは、流通や書店網を担うディストリビューターのプレゼンスが大きく、出版社が独自に収益性を高めるには工夫が求められます。そこで、我々は既存の流通網と並行して、ファンの皆さまに直接作品を届けるチャネルを作るD2C戦略に乗り出しました。

タイ国内で12店舗運営している直営店「PHOENIX NEXT」や、2025年にマレーシアでオープンした「K+」、そして各国での自社ECサイトの立ち上げは、より強固な収益基盤を作るための重要なステップです。

結果的に、この戦略はコロナ禍において大きな強みとなりました。書店の休業などにより物理的な販路が制限される厳しい環境下にあっても、自社ECというチャネルとプレミアム商品のラインナップを持っていたことで、途切れることなくファンの皆様のニーズに応え続けることができ売上規模を拡大することに成功したのです。


「K+」オープニングセレモニー

「K+」オープン時の様子。初日から多くの現地ファンが集った。
翻訳書籍、IP関連グッズに加え、店舗限定グッズも展開している。

──KADOKAWA AMARINでは映画の配給にも取り組んでいますね。

はい。2024年から映画配給事業に参入し、2025年には年間8本の日本映画を配給するまでに成長しました。

この事業の大きな転換点となったのが、映画『変な家』です。本作の公開に合わせて原作本のプロモーションや書店キャンペーンを連動させたところ、初版3,000部だったコミカライズがなんと2万部まで跳ね上がる大ヒットを記録しました。

このメディアミックスで作品を最大化させる実績が評価されたことで、日本の大手配給会社から信頼いただき、現在では『映画ドラえもん のび太の絵世界物語』のような大型作品のタイ現地配給も任せていただけるようになっています。

また、KADOKAWAグループ内のシナジーを活かした展開も始まっています。日タイ合作の実写映画『(LOVE SONG)』では、KADOKAWA AMARINがタイ国内での企画・製作・配給などを担いました。


『(LOVE SONG)』バンコクプレミア

『(LOVE SONG)』バンコクプレミアの様子

※映画『(LOVE SONG)』バンコクプレミアの様子は、こちらをご覧ください
https://group.kadokawa.co.jp/k-insight/ki82441.html

日本のコンテンツを東南アジアへ届ける“ハブ”になる

──2025年末にSOZO社を買収し、イベント事業も加わりました。今後の展望をお聞かせください。

SOZOが運営する「AFA(Anime Festival Asia)」は、東南アジア最大級のアニメイベントです。彼らがグループ入りしたことで、出版、MD(グッズ)、実店舗、EC、映画配給に加えてイベントという強力な体験プラットフォームが揃いました。

新型コロナの影響で一部地域での開催が途絶えていたのですが、各国の拠点がサポートに入ることで、今年はタイで9年ぶり、香港で7年ぶりに「AFA」開催を実現させることができました。今後は自社IPのステージイベントやアーティストのライブなど、大型の連携も仕掛けていきます。

東南アジアでIPの全方位的なメディアミックス展開が可能となった今、私たちが目指すのは日本コンテンツの“ハブ”になることです。


日本のコンテンツを愛するファンが集う「AFA」の様子

※SOZO子会社化に関するプレスリリース
https://group.kadokawa.co.jp/information/news_release/2025120202.html

──具体的にどのような役割を果たすのでしょうか?


岩崎太郎さん

東南アジアは言語も文化も異なる複雑な市場です。日本のコンテンツホルダーからは、「国ごとに交渉するのは大変なので、まとめて展開できる拠点があるといい」「東南アジアを一括して任せたい」という切実な声を何度も伺ってきました。

すでに、東南アジア市場で手掛ける翻訳出版の約半数はKADOKAWAグループ以外の他社作品です。自社IPに限らず、日本のコンテンツを現地で最大化させるプラットフォームになりつつあります。この複雑な市場へ日本のIPを届けるためのゲートウェイになることが、東南アジア・ヘッドクオーターの中長期的な目標です。

──最後に、日本のコンテンツホルダーや、これからグローバルビジネスに関わりたいと考えている方へメッセージをお願いします。

東南アジアは世界中が注目する成長市場ですが、自力で進出するには情報もインフラもまだまだハードルが高いエリアです。我々には、10年以上かけて築き上げたノウハウ、現地パートナーとのネットワークやチャネル、そして長年海外ビジネスに携わってきた人材の層の厚さがあります。

「東南アジア展開ならKADOKAWAに任せるのが一番安心だ」と言っていただけるよう、全方位のメディアミックス・プラットフォームをさらに磨き上げていきます。現地のパートナーと共に熱狂を創り出し、出版・MD・D2C・映画・イベントが有機的に連動する巨大な“KADOKAWA経済圏”の創造に向けて、私たちは走り続けます。

※本記事は、2026年4月時点の情報を基に作成しています



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