翻訳出版で築いた基盤を次の成長エンジンに──KADOKAWAの次なる中華圏戦略
KADOKAWAグループは「グローバル・メディアミックス with Technology」を基本戦略に掲げ、グローバル展開を加速させています。
とりわけ、中華圏を含むアジアでの出版事業は近年急成長を遂げ、グループ全体のグローバル成長を力強く牽引するまでになりました。
1999年に初の海外子会社を台湾に設立して26年。中華圏市場は、KADOKAWAのグローバル戦略の原点として、長い年月をかけて深く根を張ってきたエリアです。
長年にわたり翻訳出版事業を手掛けてきたこの市場を率いるのが、海外事業グループ Greater China HeadquartersのGeneral Manager・岩崎剛人さん。これまでの道のりと、翻訳出版で築き上げた「基盤」を活かした次なる戦略について、お話しを聞きました。
※KADOKAWAのグローバル戦略全体については、こちらをご覧ください
https://group.kadokawa.co.jp/k-insight/ki70990.html
中華圏市場進出の歩み──“軽小説”で切り拓いた26年の軌跡
──1999年、台湾に進出したところから、KADOKAWAの海外展開が始まりました。なぜこのタイミングで台湾への進出を決断したのでしょうか?
親日家が多く、文化的な親和性が高いということもありましたが、なにより台湾で日本のドラマや音楽といったポップカルチャーが大変盛り上がっていたことが最大の契機となりました。
日本の文化としてそのまま台湾でも通用するだろうと確信し、エリア情報誌『東京ウォーカー』の台北版『Taipei Walker』を同年に創刊。観光客向けではなく、あくまで台湾に住む現地の方々が、お出かけスポットや最新グルメ情報を得るためのライフスタイル情報誌でした。こうした、自分たちの街の楽しみ方を提案する雑誌というものが当時の台湾では珍しかったこともあり、初版の21万部が完売。一世を風靡したんです。
『Taipei Walker』の成功を受けて、KADOKAWAが得意とするコミックやライトノベルも台湾に持っていこうという計画が始まりました。電撃文庫やスニーカー文庫等のライトノベルの翻訳出版を始めたのですが、台湾の出版市場は一般文芸作品が大半で、「ライトノベル」というジャンルそのものが存在しません。そこで、「軽小説」という新しい言葉を作り、一から成長させていったのです。市場そのものを創造していくという、非常にチャレンジングな時期でしたね。
現地出版社は個人企業が多かったなか、日本の大手出版社として集中的にコンテンツを輸出できたこと。そして海賊版が多く流通していた中、正規の書籍を日本国内とほぼ同時に提供できたことも功を奏しました。やがて『ロードス島戦記』や『フルメタル・パニック!』などが台湾でも人気となり、台湾ライトノベル市場におけるKADOKAWAグループの書籍が占めるシェアは、市場規模の違いこそあれ、日本国内を上回るほどにまで成長しました。
KADOKAWA 海外事業グループ
Greater China Headquarters GM 岩崎剛人さん
現在、台湾では翻訳出版事業が非常に安定し、発刊点数は右肩上がりです。マーケットは小さいながらも、翻訳書籍を中心に年間1,000点以上発刊しており、日本のIPを現地に届けるという役割を担い続けています。
また、2015年にはBook Walker Taiwanを設立し、電子書籍サービス「BOOK☆WALKER台湾」を運営。海外で紙と電子版を同時発刊するという当時としては挑戦的な取り組みでしたが、現在ではコミック・ラノベ分野における繁体字市場でナンバーワンのプラットフォームへと成長を遂げました。
──続いて香港、広州にも進出しました。
台湾での成功を土台に、2005年に香港へ進出。台湾と同様にエリア情報誌『Hongkong Walker』の刊行と、ライトノベル・コミックの翻訳出版に着手しました。香港も台湾と同じく繁体字のエリアですから、翻訳書籍としては台湾と同じものが流通します。そこで、香港角川が台湾角川の総代理店として輸入を一手に担う体制を構築しました。
2010年には広州に進出し、広州天聞角川を設立。本格的に中国大陸へ進出する以前から『涼宮ハルヒの憂鬱』や『灼眼のシャナ』といった作品が大人気で、わざわざ日本まで書籍を買いに来る熱烈なファンもいたほどです。会社を設立すると、各地から一緒に働きたいと希望する熱意ある編集者が集まってきました。市場の立ち上げや売り場づくり、マーケティングなど、ここでも活きたのが台湾で得た知見です。台湾のメンバーがノウハウを伝授して、広州から中国全土へと営業網を広げることができました。
ただ、中国全土となると、あまりに広大です。そこで、全国にいるファンの中からリーダーを募り「駅長制度」という独自の仕組みを作りました。各都市の熱狂的なファンのリーダー的存在の方にファンコミュニティを形成していただき、そこにいるファンたちが各地の書店を回ってポスターを貼るなどの活動をして、コミュニティはどんどん拡大していきました。
中華圏に広がるKADOKAWAグループのネットワーク
こうして1999年から長年にわたり日本のコンテンツを中華圏に広め、確固たる基盤を築いてきました。この長い歴史と、そこで培った知見やアセットこそが、現在、そして今後、海外事業をさらに成長させていく上での最大の強みになっていきます。
翻訳出版をベースにして、今、私たちが本格的に取り組もうとしているのが、MD事業とオリジナルIP開発という二つの新しい柱です。
現地のニーズから生まれる新たな勝ち筋──MD事業でつかむ成長機会
──翻訳出版以外に、どのような新しい事業領域に踏み出したのでしょうか?
MD(グッズ)事業の成長戦略に力を入れています。
一般的にMDというと、アニメのビジュアルを使ったグッズが多いのですが、私たちが注力しているのは、アニメだけでなく書籍やゲームのIPを使ったMDの開発や、IPそのものを現地で育てて収益化することです。
日本ではSNSを中心に注目を集めていたものの、メディアミックス化は盛んに行われていなかった「シャム猫あずきさん」がその代表例です。広州天聞角川が現地でキャラクターIPとして3年かけて育て上げ、今では中国、タイなどの海外で人気に火がつき、10億円近い業績を上げるまでに成長しました。
多彩なラインナップで展開されている「シャム猫あずきさん」のグッズ
台湾では日本で展開するオンラインくじサービス「くじ引き堂」の仕組みを踏襲したオンライン抽選サービス「抽籤堂」を2025年2月にローンチ。同年9月には上海に書籍・グッズの直営店「天角製造」をオープンするなど、新たなタッチポイントの創出にも余念がありません。
中華圏から世界へ発信するオリジナルIP開発戦略
もう一つの柱は、KADOKAWAグループの基本戦略である「グローバル・メディアミックス with Technology」に沿った現地発IP開発戦略です。
今までは日本の作品を翻訳して中華圏に広めてきましたが、これからは、「中華圏から新たなIPを生み出し、それをメディアミックスすることで世界に広げていく」ことも強化していきます。
2018年には上海に角川青羽(上海)文化創意有限公司を設立し、100%子会社としてコンテンツ開発にも乗り出しました。角川青羽は、中国・日本を含む全世界での作品展開を行う、IPプロデュース機能を有する会社で、ゼロイチの作品作りを行っています。開発した『重慶の森〜無職、独身、アラサーの田舎暮らし〜(中国語題名:「小渝之森」)』という女性向けの漫画作品は、中国で総閲覧数が3,000万回を超え注目されています。
角川青羽は、日本IPの現地化や他社も含めたIPの再構築などの事業に加え、今後は自社開発作品の「現地発メディアミックス」を本格的に仕掛けていく予定です。KADOKAWAグループの知見を活かし、世界的なグローバルIPを創出していきたいと考えています。
──中華圏で生まれたIPは現地だけでなくグローバルに発展していくわけですね。
その通りです。角川青羽から生まれた作品を日本語に翻訳し、「角川青羽レーベル」としてKADOKAWAの漫画サイト「カドコミ」で日本向けに連載する、といった逆輸入的な取り組みも始まっています。
また台湾では、日本で展開しているWeb小説サイト「カクヨム」の知見を活かし、繁体字圏向けの小説プラットフォーム「KadoKado角角者」を開発・運営しています。コンテストの開催や投稿作品の書籍化だけでなく、メディアミックスの取り組みも着実に進んできました。
その大きな一歩として、2023年には台湾の独立行政法人である文化內容策進院(Taiwan Creative Content Agency)と、映像化共同投資・製作に関する基本合意書(MOU)を締結(※)しています。この提携の第一弾として、ガールズラブ(GL)作品『她的唇,她的吻(仮訳:彼女の唇、彼女のくちづけ)』のドラマ化が決定しています。
KADOKAWAのコンテンツを長年愛してくださっているファンの皆さまの期待に応えるためにも、これからはKADOKAWAグループとして「現地発のIP」を開発し、それを世界へ届ける取り組みをさらに加速させていきます。
※プレスリリース:台湾角川と文化內容策進院(TAICCA)、映像化製作の投資に関する基本合意書を締結
https://www.kadokawa.co.jp/topics/10605/
二つの新たな事業から広がる中華圏市場
──今後の展望を教えてください。
私たちには、この四半世紀で培ってきた経験と、そこで稼ぎ出したアセットがあります。この強固な基盤があるからこそ、MD事業やオリジナルIP開発といった、未来への投資に踏み切ることができるのです。
現地の読者やファンの皆さまには、本当に感謝しています。長年にわたって日本の作品を熱狂的に愛し、支えていただきました。一方で、日本のコンテンツが強すぎるあまり、現地のクリエイターやオリジナル作品が育ちにくいという側面もあります。
だからこそ今度は、KADOKAWAグループが持つプラットフォームやノウハウを使って、現地の才能を世界に届ける手助けをしたい。それが、長年私たちを育ててくれた市場やファンへの「恩返し」になると信じています。
「日本のコンテンツを売る」時代から、「現地で育て、世界へ広げる」時代へ。 中華圏発のKADOKAWAコンテンツが、日本、そして世界中で旋風を巻き起こす日を、ぜひご期待ください。
※本記事は、2026年1月時点の情報を基に作成しています