メディアミックスの起点となる原作はどのように生まれるのか?——「世界一のファンであれ」ライトノベル編集者に必要な熱意と作品設計力
KADOKAWAが掲げる基本戦略「グローバル・メディアミックス with Technology」の根幹を成すのが、数々のIPを生み出していく「IP創出力」です。グローバル市場も見据えたメディアミックス展開を実現するためには、その起点となる魅力的な原作の創出が不可欠です。出版分野における多様なIPの中でも、とりわけ「ライトノベル」はKADOKAWAのIP創出を支える重要なジャンルとして存在しており、そのジャンルの成長と発展の歴史に深く関わり続けてきました。
黎明期には『ロードス島戦記』(1988年)や『スレイヤーズ』(1990年)などの大ヒット作を刊行し、ライトノベル専門レーベルを創刊するなどジャンル形成初期から大きな役割を担ってきました。
近年では、『ソードアート・オンライン』(2009年)や『この素晴らしい世界に祝福を!』(2013年)などの人気作を筆頭に、コミックやアニメ、ゲーム、フィギュアなどへとメディアミックス展開し、多面的に市場を拡大。さらに北米やアジアをはじめとするグローバル市場へと広がり、世界中のファンに愛されています。
現在、「角川スニーカー文庫」「電撃文庫」「ファンタジア文庫」「MF文庫J」「カドカワBOOKS」など主要な専門レーベルを擁し、多彩な人気作品を生み出し続けるKADOKAWAは、ライトノベル市場を牽引し続けています。KADOKAWAの基本戦略を支えるジャンルとして、改めて重要性が高まるライトノベルについて、ライトノベル・新文芸局 局長の万木壮さんに詳しくお話を聞きました。
『ロードス島戦記 1 灰色の魔女』(著者:水野良/原案:安田均/イラストレーター:出渕裕/1988年/角川スニーカー文庫)
『スレイヤーズ 1』(著者:神坂一/イラストレーター:あらいずみるい/1990年/ファンタジア文庫)※書影は新装版です。
『ソードアート・オンライン1 アインクラッド』(著者:川原礫/イラストレーター:abec/2009年/電撃文庫)
『この素晴らしい世界に祝福を! あぁ、駄女神さま』(著者:暁 なつめ/イラストレーター:三嶋くろね/2013年/角川スニーカー文庫)
IP創出の源泉となるライトノベルの重要性
――KADOKAWAにとってライトノベルとはどんな重要性をもっているのでしょうか。
ライトノベルは、IP創出の過程において、「0→1」のフェーズ、すなわち物語やキャラクターといった原作そのものを生み出す起点となることが多いジャンルです。
原作として生み出された作品は、その後コミックやアニメなどへと展開領域を広げていきます。このように複数メディアへと横断的に拡大していくメディアミックス戦略は、IP価値を最大化する上で、近年ますます重要性を高めています。
こうした流れの中で、KADOKAWAはグループ内に原作創出から各メディアへの展開までを一気通貫で推進できる体制を整えています。こうした総合的なメディアミックス展開力こそが、当社の大きな強みとなっています。
かつては、原作として生み出された作品も、連載の完結によって「作品寿命」を迎えるケースが一般的でしたが、現在ではコミック化やアニメ化といったメディアミックス展開を通じて新たなファンを獲得し、それを契機にまた原作書籍の部数が再び伸びていくという好循環が生まれています。
いわば「物語をより遠くに届ける発射装置」ともいうべきKADOKAWAのメディア展開力を活かして、一冊のライトノベル作品を社会に広く浸透させ、長期的に愛される「IP」へと育ていくことまでが、「IP創出」のプロセスだと私は考えています。
そしてKADOKAWAのメディアミックス戦略を支える柱として、最初に作品を生み出すプロセスが不可欠であることは言うまでもありません。ライトノベルは、その「IP創出の源泉」を担う重要なジャンルです。加えてビジネス的な観点においても、アニメやゲームと比べて初期投資を抑えながら作品を生むことができるという大きな利点があります。2026年3月期において当社はライトノベル領域で年間1,000点を超える作品を刊行する計画です。また、2025年3月期でも約900作品のうち約4割が新シリーズでした。これは単に量を目的としたものではなく、ヒット作創出に向けて多様な挑戦機会を確保するための設計です。こうした継続的な試行の積み重ねが、長く愛されるIPの創出を支えています。
このような特性を踏まえ、ライトノベルの重要性は、当社においてのみならずコンテンツ産業全体にとって今後ますます高まっていくのではないでしょうか。
ライトノベル・新文芸局 局長 万木壮さん
――ライトノベル市場全体を俯瞰して、特に直近10年間で、どのような変化があったでしょうか。
昨今、メディアの多様化が進み、読者とコンテンツの接点が分散した10年だったのではないかと思います。ライトノベルはメディアミックス展開されていくことで、時代を越えて読者やユーザーとの接点を持ち続けてきた、恵まれたジャンルだったと言えるかもしれません。
読者層も大きく変わりました。ライトノベル草創期は、中高生~20代が読むもので、主人公の成長と恋愛要素が多い青春ストーリーが主流でした。当時その世代だった読者は現在40~50代を迎えています。かつて愛読した青春ストーリーよりも、ライフステージや社会生活の変化に応じた切実なモチベーションによって「自分の好みに適う世界」を求める読み方に変化しています。不遇から逆転する「成り上がり」系や、異世界でのんびりとした日常を送る「スローライフ」系といったジャンルが成立している背景には、そのような側面があるのではないでしょうか。
また、ライトノベルにおいて最大とも言える急激な変化をもたらしたのは、小説投稿サイトなどのUGC(User Generated Content)の出現でした。作り手と読み手の双方に大きな影響をもたらしたと思います。それまで年に1度ほどしか発表されなかった人気作品のランキングが、UGCサイトの出現によって毎日見られるようになった。強力な指標が現れたことで、ランキングを意識した書き方、タイトルやキャッチの付け方、読者とのコミュニケーションなどが発達し、洗練されていきました。『オーバーロード』(2012年)や、『Re:ゼロから始める異世界生活』(2014年)はそんな変化の中の黎明期に生まれた代表的な作品です。
『オーバーロード1 不死者の王』(著者:丸山くがね/イラストレーター:so-bin/2012年/KADOKAWA)
『Re:ゼロから始める異世界生活 1』(著者:長月達平/イラストレーター:大塚真一郎/2014年/MF文庫J)
ライトノベルの創出に欠かせない編集者の熱意
――ライトノベルを取り巻く環境が変化する中、KADOKAWAが取り組んでいる作品創出のためのクリエイター発掘施策について、具体的な事例を教えてください。
主に「新人作家を見出しオリジナル作品を生む手法」「UGC作品から見つけ出す手法」の二本柱で取り組んでいます。
直近の注目作品を例にとりましょう。
まず「新人作家を見出しオリジナル作品を生む手法」として、2026年1月クールのアニメも高評価をいただいている『死亡遊戯で飯を食う。』(2022年)は、第18回MF文庫Jライトノベル新人賞の「優秀賞」受賞作品でした。最終審査会でも審査員の評価が極端に割れる尖った作品であり、惜しくも「最優秀賞」受賞とはならずでしたが、作品に惚れ込んだ編集者が、イラストやキャッチコピーといったパッケージング、宣伝販促の手法やアニメ化の段取りなどを考え抜いてプロデュースしました。「新人作家を発掘し、編集者が磨き上げる」という好例です。
一方、「UGC作品から見つけ出す手法」では、『サイレント・ウィッチ』(2021年)が象徴的です。2025年7月にアニメ化され、改めて盛り上がった作品です。
もともと当社が運営していない外部の大手小説投稿サイトで連載され、完結していた作品でした。Web版ですでに約100万字あったこの作品の書籍化を打診するにあたり、担当編集者はすべて読み込んだうえで、クライマックスへの道筋や盛り上げ方など、シリーズ全体を通した再構成と改稿に関して、作者の方と綿密な相談を重ねたのです。『サイレント・ウィッチ』は、こうした編集者の作品づくりへのこだわりが結実した例となりました。UGCの人気作には書籍化に向けて競合他社もアプローチするので、編集者は作品の魅力を理解し、作者との信頼関係を築くことが求められるのです。
どちらの手法においても、作家と伴走する編集者の熱意が欠かせません。
『死亡遊戯で飯を食う。』(著者:鵜飼有志/イラストレーター:ねこめたる/2022年/MF文庫J)
『サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと』 (著者:依空まつり/イラストレーター:藤実なんな/2021年/カドカワBOOKS)
編集者は、担当する作家と作品の「世界一のファン」たるべし
――ライトノベルの編集者はどのような役割を担っているのでしょうか。
編集者1人ひとりが自分なりの方法論を持っていると思いますが、すべてに共通するのは、「作品が立ち上がる環境を整え、自分と組むことで作家が最高のパフォーマンスを発揮できるようにする」姿勢ではないでしょうか。私が若手編集者だった時、担当させていただく作家さんに「僕は、あなたにすべての才能を吐き出してもらうための原稿用紙です」と、自分の決意を伝えたことがあります。青臭いセリフですが、作家さんを育てるのではなく、お力を発揮していただくための環境を全力でご用意したいという、それは本心でした。
しばしば「編集者は最初の読者」と言われますが、担当した作家や作品の「世界一のファン」になることが大切な役割なのではないでしょうか。編集者が担当作品を愛し抜き、「今なぜこの作品を出すべきなのか」と熱量をもって語ることで、「選ばれる編集者、選ばれるレーベル」になれるのだと思います。
その一方で、編集の仕事は熱意だけで完結するものではありません。企画設計、タイトル開発、表紙・イラスト発注、販促設計、権利調整、メディア展開管理など、作品を読者に届けるための総合的な設計力が求められるのです。作品を誰よりも愛する熱意と、それを社会へ届ける作品へと昇華させる設計力。この両輪を携え、作家と並走し続けることこそが編集者の役割なのだと考えています。
世界の才能を求め、ライトノベルの新たな可能性を切り拓く
――メディアミックスやグローバル展開を強く意識したIP作りなども行われているのでしょうか。
キャラクターの関係性が伝わりやすい物語設定や、イメージしやすい描写など、よりよい作品に高めていくことが、結果的にメディアミックスやグローバル展開にもつながると考えています。その意味でイラストへ視覚化しやすい物語であることは間違いなく大切なポイントです。
「ライトノベルのテキストは、感動を生む呪文。その呪文をイラストという魔法陣がイマジネーションで豊かにする」という例え話をよくします。そのくらい、ライトノベルにとって表紙や挿絵のイラストは重要な要素です。イラストを発注するのは編集者の仕事なのですが、そもそも作品が視覚的にイメージしやすいものでないと、イラストが発注できません。イラストというビジュアル要素があることで、コミック化やアニメ化もスムーズに進みます。
また、日本語が読めない海外のファンでも、イラストによってその作品の世界を楽しむことが可能になります。ビジュアル要素はIPのグローバル化にとっても不可欠です。
――グローバル展開という視点では、今後どのような発展が期待されるのでしょうか。
海外発のライトノベルを国内外で広く刊行する「グローバルUGC作品開発プロジェクト」が進行中です。2025年7月以降、キューダップ株式会社さんが運営する英語の小説投稿サイト「Honeyfeed」で行うコンテスト※1 と、KADOKAWAグループが台湾で運営する中国語繁体字の小説連載プラットフォーム「KadoKado 角角者」でのコンテスト※2 が実施されています。
イラスト:弥南せいら
※1 2026年2月9日(日本時間)、英語での異世界ファンタジー小説コンテスト「MyAnimeList x Honeyfeed Writing Contest 2025 - THE ISEKAI presented by KADOKAWA」の受賞作が発表されました。
※2 女性向けファンタジー小説コンテスト「日本デビュー争奪戦☆ファンタジーライトノベル大賞」が実施され、受賞者は2026年6月中旬に発表を予定しています。
プロジェクトの大きな狙いのひとつは、海外作家が日本市場に向けて書いた作品によって、これまでにない、新たな驚きや発想が生まれることです。「売れ筋」や「ランキング」にとらわれない地点から多様なジャンルや作品が生まれ、日本のライトノベル界にインパクトを与えてくれることを期待しています。
そうした作品がKADOKAWAのメディアミックスとグローバル展開によってアニメや映画となり、世界中で大ヒットして作者の母国に「凱旋する」といった楽しみな展開が実現する日も遠くないでしょう。
※本記事は、2026年3月時点の情報を基に作成しています(インタビューは2026年1月に実施)