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多角的な事業で世界と英語圏を繋ぐゲートウェイへ──北米事業が迎える次なるフェーズ

2026.8.28

KADOKAWAグループは「グローバル・メディアミックス with Technology」を基本戦略に掲げ、グローバル展開を加速させています。

コロナ禍の爆発的なブームを経て、日本のアニメ・マンガが「日常の当たり前」となりつつある北米市場。KADOKAWAグループでは、2016年のYEN PRESS設立を皮切りに、10年以上にわたって事業を拡大してきました。米国市場での売上は好調に推移し、グループ全体のグローバル成長を力強く牽引しています。


出版・IP創出セグメント エリア別海外売上高推移

現在は電子書籍プラットフォームや、世界最大級のアニメニュースメディア、さらにはリアル店舗など、翻訳出版に止まらない多角的なバリューチェーンを構築しています。この広大な市場でどのような成長戦略を描くのか。北米事業を率いる、海外事業グループ North America HeadquartersのGeneral Manager・周シンディさんに、その戦略と未来図を聞きました。

※KADOKAWAのグローバル展開については、こちらをご覧ください
(グローバル戦略)https://group.kadokawa.co.jp/k-insight/ki70990.html
(中華圏)https://group.kadokawa.co.jp/k-insight/ki58332.html
(東南アジア)https://group.kadokawa.co.jp/k-insight/ki39534.html

マンガ・ラノベを北米市場へ浸透させてきたYEN PRESSの10年

──2016年にYEN PRESSを設立し10年が経ちました。これまでの歩みを教えてください。


周シンディさん

私たちの北米市場における歩みは、2016年にYEN PRESSを合弁会社として設立したことから本格的に始まります。今年で設立10周年という記念すべき節目を迎えました。

YEN PRESSはもともと、大手出版グループであるHachette Book Group(アシェット・ブック・グループ)のいちレーベルでしたが、KADOKAWAが参画し、株式の51%を取得して共同出資の形を取ることで、独立した一つの出版社へと生まれ変わりました。アシェットの強固な流通・販売網と北米市場におけるノウハウを活かし、機動的な事業展開を可能としています。

設立当初から、KADOKAWA以外の出版社を含む、日本作品の翻訳出版を広く担い、英語圏での翻訳出版市場を牽引してきました。近年注目を集めるWebtoon(韓国発縦読みマンガ)領域でも、人気作『俺だけレベルアップな件』のコミカライズ版などがアメリカで大ヒットを記録。これが原動力となり、2023年には韓国のウェブトゥーンスタジオと新しいジョイントベンチャー「Ize Press」を設立し、ここ数年も非常に好調な推移を見せています。


『Solo Leveling (comic) 』書影

Solo Leveling (comic) Art by DUBU (REDICE STUDIO)
Original Story by Chugong

ライトノベルにおいては、2014年に立ち上げた「Yen On」レーベルでの『涼宮ハルヒ』シリーズなどの成功を経て、現在に至るまで英語圏におけるライトノベル市場を開拓してきました。

──コロナ禍の日本コンテンツブームを経て、その後の市場の変遷について、どのように感じられていますか。

コロナ禍はアメリカでも「オタク経済」が急速に広がり、過去最高の業績を記録しました。パンデミック終息後は市場が一度落ち着き、若干の揺り戻しも見られましたが、最近は再び着実な上昇に転じています。

最も大きかった変化は、ファンの裾野が圧倒的に広がったことです。コロナ禍に自宅で配信アニメに触れた人々が、原作のマンガやラノベに流入する動きが加速しました。かつては「コアなオタク向け」というイメージが強かった日本コンテンツですが、ライト層が一気に広がったことで、今のアメリカ市場ではオタクカルチャーの枠を超え、誰もが楽しむ一般的で、当たり前の存在として安定的な成長期に突入したと感じています。


オフィス写真

YEN PRESSオフィスの様子

──市場がそうした成熟期を迎える中で、YEN PRESSとして今まさに注力していることは何でしょうか。

市場が成熟し、読者層も広がる中で、現在のYEN PRESSの取り組みには大きく3つの方向性が見えてきています。

1つ目は、読者層の広がりに合わせた作品ジャンルの多様化です。これまでは男性向けの異世界ジャンルが中心でしたが、近年はそれ以外のジャンルにも関心を持つ読者が増えてきています。そうした変化を捉え、YEN PRESSでも従来の強みに加え、より幅広いジャンルの作品を届けるアプローチを強化しています。

実際に、『ラブ・バレット』や『気になってる人が男じゃなかった』といった作品も現地で好評をいただいており、読者ニーズの広がりを肌で感じているところです。


『ラブ・バレット』書影

『気になってる人が男じゃなかった』書影

(左から)Love Bullet By inee、The Guy She Was Interested In Wasn’t a Guy at All
By Sumiko Arai


2つ目は、D2C(Direct to Consumer)の取り組みやMD(グッズ)展開の広がりです。自社ECサイトを通じたキャンペーンや季節のイベントに合わせた商品展開など、ファンへ直接商品を届ける機会が以前より増えてきています。同時に、グッズについても、より付加価値の高い商品への取り組みが進んできています。


北米最大級のアニメイベント「Anime Expo」では
グッズ販売エリアに長蛇の列ができた

※「Anime Expo」については、こちらをご覧ください
https://group.kadokawa.co.jp/k-insight/ki95936.html

3つ目は、一般文芸・文学領域への広がりです。近年、日本の文芸作品に対する北米市場での注目度が高まってきました。特に欧米では、SNS上で書籍の感想や推薦が拡散する「BookTok(ブックトック)」のような動きが読者の関心を喚起するケースも増えており、アニメ・コミックとは異なる読者層にも、日本発の作品が届く可能性が生まれています。

そうした流れを受けて、YEN PRESSでは2026年4月に新しいLiteratureレーベル「Avocado House(アボカドハウス)」を立ち上げました。初期段階では、年間12タイトル程度の刊行を目指しています。

ラインアップとしては、東野圭吾さんの『ラプラスの魔女』や斜線堂有紀さんの『恋に至る病』、紫骸城主さんの『残された言葉はあと1000文字』といった日本の小説・ミステリー作品に加え、近年現地でも関心が高まっている韓国作家によるサスペンス・スリラー作品なども扱う予定です。

これまでライトノベルレーベル「Yen On」で培ってきた小説出版の知見を活かしながら、より広い読者層に向けた新しい小説ラインを育てていく動きとして、今後の展開に注目しています。


『Laplace’s Witch』書影

Laplace’s Witch By Keigo Higashino

現地主導の電子書籍ストアへ。M12 Mediaが進める北米デジタル戦略

──電子書籍の領域でもJ-Novel Club(現 M12 Media)での事業移管やサービスリニューアル等の改革が進んでいますね。

はい。J-Novel Clubは、2016年に設立され、日本のラノベやマンガの英語翻訳出版と電子書籍ストア「J-Novel Club」を運営してきました。同社は2021年にKADOKAWAグループに参画、2025年に社名を「M12 Media」へ変更しました。社名変更の最大の理由は、これまでドワンゴが運営していた英語圏向け総合電子書籍ストア「BOOK☆WALKER Global」の事業をJ-Novel Clubへと移管し、現地主導で運営・管理する体制になったためです。


BOOK☆WALKER Global

この事業移管に合わせ、今年4月には、新しいシステムとロゴ、さらにはURLやUIまで完全リニューアルした新アプリ・Webサイトをローンチしました。現在はユーザーからのリアクションを検証している段階にあります。

また、M12 Mediaは年間約500~600点のデジタル書籍をリリースしており、ここ1〜2年では、KADOKAWAが国内に持つ高品質なデジタル印刷施設「BEC」のオンデマンド印刷(POD)設備を活用した紙書籍の展開もスタートしました。

小ロットでの出版が可能になることで、在庫リスクを抑えながら市場の反応を見ていくアプローチが実現できています。北米は印刷・在庫管理のハードルが高いと言われる中でも、グループ内で柔軟に紙書籍を供給できる体制につながる可能性があると感じています。

※出版製造流通DXプロジェクト「BEC」については、こちらをご覧ください
https://group.kadokawa.co.jp/k-insight/ki48072.html


周シンディさん

世界最大級のアニメ・マンガニュースメディア「ANN」のメディア戦略

──北米ではKADOKAWAの海外事業では唯一のメディア事業も手がけていますね。

はい。世界最大級のアニメ・マンガニュースメディア「Anime News Network(ANN)」を事業買収し、2022年にグループインしました。1998年に誕生し、今年で創立28周年を迎えます。

ANNは英語圏向けのアニメ・マンガニュースサイトで、アニメとマンガを中心に、ラノベや日本の音楽、ビデオゲームなど幅広い情報を紹介しています。2026年からは新たにWebtoonなどの韓国コンテンツも扱い始めました。


Anime News Network(ANN)

コロナ禍のアニメ・マンガブームを追い風に、2023年1月には月間訪問者数1,010万人という過去最高記録を達成しました。その後、市場の落ち着きに伴いわずかに減少しましたが、2025年には再び大きな成長を遂げ、7月には1,700万人の読者(ユニークユーザー)に達しています。サイトはほぼ全ての国・地域からアクセスされており、いかにアニメ・マンガが世界で愛されているのかがよくわかります。

今後は、読者が単に記事を読むだけでなく、自らカスタマイズできるような仕組みを導入することで、サイトの滞在時間やリピート率をさらに高めていけると考えています。

同時に、メディアとしての客観性を維持しつつ、KADOKAWAグループの新しい作品やプロジェクトを英語圏へ伝えるゲートウェイとしてこれまで以上に緊密な連携を推進していく構えです。

新会社設立で加速するリテール事業

──書籍・グッズ販売店「Manga Spot」の展開を加速しています。リテール事業の戦略について教えてください。

北米市場においては、大型書店や量販店といった販売チャネルは非常に重要であるものの、店頭での展開やプロモーション、商品ラインアップなどは小売側の判断に左右される部分も多く、出版社として思い描くマーケティング施策を必ずしもそのまま実現できるとは限らないのが実情です。

一方で、マンガ市場においては、依然としてリアル店舗がファンとの接点として重要な役割を担っています。そうした中で、自社が運営する「Manga Spot」のような販路を持つことは、読者との接点をより主体的に創出する強固な足がかりとなります。将来的にはイベントやECとも連動させながら、より一貫したブランド体験を提供していくうえで、重要な基盤になり得ると感じています。

そうした考えのもと、まずは市場の反応を探るためのステップとして、2023年に実験的に「Manga Spot」一号店をニューヨークにオープンしました。現在(2026年6月現在)では計9店舗まで拡大し、今後も店舗を増やしていく方針です。

私たちが目指しているのは「近くに書店がない、コンテンツが届いていない地域」を見つけ出すこと。既存の書店と競争するわけではなく、マンガを読みたくても身近に接点がない潜在的なファン層を見つけ出し、彼らにコンテンツを届けることが狙いです。

──たしかに大都市ではないエリアにも出店していますね。

はい。今年はインディアナ州ブルーミントンにもオープンしました。ブルーミントンは、インディアナ大学の壮大な本部キャンパスを擁し、学生と地元の方々が織りなすアカデミックで活気ある学園都市です。日本人にはあまり耳馴染みのない場所かもしれませんが、これまでオープンした「Manga Spot」の中で最も良い成果を残したオープニングとなりました。


「Manga Spot」ブルーミントン店 外観

「Manga Spot」ブルーミントン店

最適なロケーションに関しては、今まさに様々な可能性を模索している最中です。例えば、アラスカのケチカンという場所では、路面店として出店しました。ここは夏の時期になると、巨大なクルーズ船が停泊します。観光客が船から降りてすぐの場所に「Manga Spot」を構えることで、シーズン中の観光需要をピンポイントで狙うという戦略を取っています。他にも、アウトレットモールの中への出店など、様々な環境を試しています。地域ごとの実地データを見ながら検証を進めていく方針です。

また、「Manga Spot」ではグッズの取り扱いも増やしています。YEN PRESSやKADOKAWAのMD事業との連携、パートナー企業とのお取引を増やし、グッズの販売やカプセルトイの導入を拡充させてきました。


グッズの販売

「Manga Spot」は、KADOKAWA作品だけでなく、日本コンテンツに触れられる場所にしたいと考えています。店舗限定商品の展開や著者イベントの開催に加え、作品の魅力を伝える展示など体験価値を高める店舗づくりを通じて、誰もがマンガ、アニメ、ラノベをより身近に楽しめるオープンな場所を目指しています。

そして、このリテール事業をさらに強化するため、新会社「KADOKAWA Retail Ventures(KRV)」を設立しました。今後はKRVという独立した法人のもとで店舗ネットワークの拡張を本格的に加速してまいります。

※「KADOKAWA Retail Ventures」設立について
https://group.kadokawa.co.jp/information/news_release/2026042701.html

ピースを繋ぎ、国境を越えたシナジーを加速させる

──北米事業の今後の展望を教えてください。

これまでの10年間は、YEN PRESSの翻訳出版、M12 Mediaのデジタル出版、ANNのメディア、そしてKRVのリアル店舗といった、北米市場で戦うための個々のピースをひとつずつ揃えていくフェーズでした。

そしてピースが揃った今、私たちが次に目指すべきは、それぞれを成長させていきながら有機的なシナジーを生み出すことに他なりません。北米の豊富なポートフォリオがバラバラに動くのではなく、お互いが深くリンクし合って強力なシナジーを生み出せる組織体制を推進していきます。

また、エンターテインメント領域においてこれほど多角的な海外事業インフラを自前で構築している企業は、世界的に見ても他に類を見ない、私たちの最大の強みだと自負しています。今後は日本から北米へコンテンツを届けるだけでなく、中華圏や東南アジア、韓国拠点などが生み出した優れた作品やグッズをアメリカ市場へ送り込んでいく、世界規模のメディアミックスを加速させていきます。

さらに、私たちの持つインフラは、アメリカ国内に留まりません。YEN PRESSを通じてすでに流通・販売網を確立しているイギリスやオーストラリアといった英語圏市場へも、今後はこの国境を越えたシナジーを波及させていく計画です。


周シンディさん

──最後に、コンテンツ産業の皆様、現地のファンへメッセージをお願いします。

コンテンツホルダーの皆さまに伝えたいのは、私たちが築き上げたこの事業インフラをぜひ活用いただきたいということです。英語圏への進出を目指す皆様の大切な作品やプロジェクトにとって、私たちの多角的なチャネルは、現地のファンへダイレクトに熱量を届けるゲートウェイとなります。世界を驚かせる仕掛けをぜひ一緒に作り上げていきましょう。

そして現地のファンの皆さまへ。私たちは、皆さまが愛するコンテンツに直接触れ、その熱量を分かち合える場所をこれからも作り続けます。これからのKADOKAWAグループが北米市場で仕掛ける、デジタルとリアルを融合させた次なる挑戦に、ぜひご期待ください。

※本記事は、2026年8月時点の情報を基に作成しています



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