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言語の壁を超えて、物語を絵で伝える。KADOKAWA「ワードレス漫画コンテスト」授賞式レポート

2025.8.27

KADOKAWAでは、メディアミックスの源泉である出版IPの創出力強化をグローバルで推進しています。その一環として、世界に向けた新たな試みとなる「ワードレス漫画コンテスト(以下、コンテスト)」を開催。世界104の国と地域から、総勢1,126件もの熱意あふれる作品が寄せられ、多彩な表現力や画力が際立つコンテストとなりました。

今回の「ワードレス漫画コンテスト」受賞作品


ワードレス漫画コンテスト受賞作品

コンテスト開催に込めた思いや背景については「世界中から応募が殺到した「ワードレス漫画コンテスト」。KADOKAWAが仕掛ける海外作家の発掘プロジェクトの舞台裏」の記事で紹介しています。

本稿では、記念すべき第1回目となるコンテストで、漫画賞プロジェクトチームとKADOKAWA編集部により選出された受賞者のコメントや今後の抱負、そして授賞式の様子をレポートします。

インドの新星作家が見せた実力。「圧倒的な画力の高さ」と「幅広さ」

はじめに、コンテストのオリジナル部門で銀賞に輝いた『Heartsteel』の作者であるインド出身のmasterlynxさんに受賞の感想やコンテストへかけた思いを聞きました。

子どもの頃から日本のアニメが大好きなJivan(ジバン)さんとYash(ヤシュ)さん兄弟。一緒に漫画を描き始め、2022年よりmasterlynx名義で活動するようになったそうですが、「正直に言って、コンテストで受賞できるとは思っていなかった」と素直な気持ちを吐露しました。


岡部一生さん masterlynxさん

担当編集のグローバルコミック部 グローバルコミック編集部の岡部一生さん(写真左)と、 銀賞を受賞したインド出身のmasterlynxさん

「日本の漫画といえば、吹き出しやセリフがあるのが当たり前だと思っていたので、『ワードレス漫画コンテスト』を知ったときは、自分たちの力を最大限に発揮できるチャンスだと感じました。ただ、コンテストの存在に気付いた時点で締め切りまでの期間が約1カ月しかなく、制作に十分な時間をかけられないことに対しては不安もありました。それでも、結果的に受賞できたことは本当に嬉しく、達成感を感じています」(masterlynxさん)

今回の受賞を機に、連載に対する意気込みをお聞きすると、「80〜90年代のカンフーや武術の映画をたくさん見てきたので、”武術コメディ”のような伝統的かつユーモアのある作品を作りたい」と答えてくれました。

担当編集の岡部一生さん(グローバルコミック編集部)は、masterlynxさんの作品で評価したポイントを次のようにまとめました。

「おふたりの作品は”読んだ人が元気づけられる”のが特徴です。また、絵がとにかくかっこいい。アクション漫画との相性も抜群で、なかなか日本の作家でも到達していないレベルにあると思います。日本の読者の心にもきっと響くと確信しているので、これからも全力で連載をサポートしていきたいと考えています」(岡部さん)

インドではアニメの人気が高まる一方で、漫画や小説に強い関心がある方はそれほど多くないそうです。そのため、漫画文化が根付いておらず、漫画家という職業も一般的になっていないことから、masterlynxさんの今後の活躍が期待されます。

後悔しないために挑んだコンテスト。台湾の受賞者が語る創作への情熱

続いて、コンテストのオリジナル部門で銅賞に輝いた『雨の日も好きになるように』の作者である台湾出身の静(しず)さんに受賞後の気持ちや作品づくりで意識したことを伺いました。

「言語の壁がない“ワードレス”という形式のおかげでコンテストに参加しやすかった」

そう話す静さんは、自分の作品に自信がなく、一時は漫画を描くことをやめることも考えたそうですが、「後悔しないために全ての可能性を試したかった」とコンテストへの応募動機を語りました。


静(しず)さん 松下正孝さん

賞を受賞した台湾出身の静(しず)さん(写真左)と、担当編集のブランドマネジメント部 戦略書籍編集部 編集長 松下正孝さん

「今回、銅賞に選ばれたことで、自分の作品を認めてもらえたことが何より嬉しかったです。普段は自分に自信が持てないタイプなので、日本の漫画業界の皆さんから評価をいただけたことが大きな励みになり、自信にもつながりました」

また、連載はスピードと品質のバランスが重要で、個人作品のように納得いくまで何度も手直しできないのが心配だと話す静さんですが、「どんな仕事でも全力でやることを心がけている」と強い意欲も示されました。

担当編集の松下正孝さん(ブランドマネジメント部 戦略書籍編集部 編集長)は、静さんの作品を「キャラクターの心情を描く演出が非常に上手で、演出力の高さを強く感じた」と講評しました。

「静さんは台湾で映像関係のお仕事に携わっており、絵コンテとなるストーリーボード制作などの映像表現のノウハウを、漫画にも応用されているのが印象的でした。今回の作品は、入院中の男の子が水の精霊のような少女と出会い、やがて自由に空を羽ばたいていくという物語です。

特に秀逸だったのは、水が固体になり、ときには雨や水たまりになるといった形を変える描写と、登場人物の心の動きが見事に重なっている点です。こうした心情一致の演出は、本作の最も大きな魅力でした。静さんの繊細な感情の描写力は、恋愛をテーマにした作品でも大いに発揮できると期待しています」(松下さん)


漫画作品

世界中のクリエイターから「漫画への深い愛」を感じた

2025年7月に開催されたコンテストの授賞式では、受賞者の紹介や盾の贈呈、作品の総評が行われました。
冒頭では、KADOKAWA 執行役 Chief Publishing Officer(CPO)の青柳昌行さんが開会の挨拶を述べました。


青柳昌行さん

出版事業グループ Chief Publishing Officer(CPO)青柳昌行さん

「コンテストの根底にあるのは、”漫画は、その物語をセリフだけでなく絵で伝えるものだ”という考えです。今や漫画は国境を越えて世界に広がっていますが、それは漫画特有の漫符や構成、レイアウトといった表現技法があってこそのものです。KADOKAWAは、日本の漫画を世界に紹介していくだけではなく、世界で楽しまれる作品を世界中の漫画を描いている人たちと一緒に送り出していきたいと考えています」(青柳さん)
※漫画などに特有な記号表現のこと

アメリカ出身のREKUさんは、自身の作品がコンテストで銀賞に輝いたことについて、次のようにコメントしました。


REKUさん

銀賞を受賞したアメリカ出身のREKUさん/作品:『Dungeon Duo

「今回、このような素晴らしい賞をいただいたことは本当に光栄です。自分がこれから漫画業界に関われるのはすごく喜ばしいことですし、世界中のクリエイターに手を差し伸べるKADOKAWAの姿勢にも感謝しています。

また、言語の壁を越えて応募できる今回のコンテストの存在は、私のような日本の漫画業界に憧れながらも、自分には関われない世界だと半ば諦めているクリエイターにとって大きな意味を持っています。受賞できたのは本当にかけがえのないことで、賞金以上の価値があると思っています。これからも、自分にとって誇りとなる作品を届けられるように全力で取り組んでいきます」(REKUさん)

My Hope In Bloom』で金賞を受賞したカナダ出身のcocosmさんは、子どもの頃から「一緒に漫画を作りたい」(※cocosmさんは2名で活動)と話していたものの、当時のカナダは漫画が浸透しておらず、具体的な道筋を立てることができなかったそうです。

そんな中、今回のコンテストで自分たちの“漫画に対する愛”が認められたのは、言葉では表せないほどの感動を受けたとのことで、「今後も漫画を通じて新しい物語の創作に取り組んでいきたい」と作品づくりへの意欲を語りました。

受賞者の表彰後はコンテンツプロデューサーの土方隆さんが登壇し、作品の総評を発表しました。


土方 隆さん

コミック第2局 コンテンツプロデューサー 土方 隆さん

「応募総数1,126作品という規模のコンテストは今までにない経験で、世界中のクリエイターから”漫画への深い愛”を感じました。本当にどの作品にも心を揺さぶられる要素がありましたし、言葉を使わずとも伝わる楽しさや感動が表現されていたことが印象的でした。冒頭の導入部分から読者を惹きつける演出や世界観の構築といった創意工夫が素晴らしかったです」(土方さん)

土方さんは「多くの作品にはまだ成長の余地があり、漫画編集者はその成長を実現するために常にクリエイターの味方である」と示し、今後のさらなる活躍に期待し、受賞者の方々にエールを送りました。

最後にKADOKAWA 執行役 Chief Global Officer(CGO)の泉水敬さんが、授賞式の振り返りと今後の展望を述べて、会を締めくくりました。


泉水 敬さん

執行役 Chief Global Officer(CGO) 泉水 敬さん

「今回のコンテストは、想像をはるかに超える多くの方々からご応募をいただいて大変驚いています。作品のクオリティーの高さや表現方法の巧さには心から感銘を受けました。今後も本コンテストを継続的に開催していくとともに、さらにグローバルな規模での新たなコンテストも企画していければと考えています。

言葉の壁を越えた漫画表現の可能性を追求し、世界中の漫画ファンの皆さまや新進気鋭のクリエイターの方々とのつながりを深め、共に素晴らしい作品を創り出していきたいと思っています」(泉水さん)



当社は、今回の「ワードレス漫画コンテスト」を通じて、海外クリエイターの方々が持つ、漫画への深い情熱、そして日本の漫画コンテンツに対する深い理解と技術について、改めて新たな発見と感動をいただきました。
今後も、今回の受賞者の皆さまと共に作品づくりに邁進するとともに、世界中のクリエイターを支援し、多様な文化や視点から生み出される物語を通して、世界中の読者に新たな感動と興奮を届けていく活動を続けてまいります。

※本記事は、2025年7月時点の情報を基に作成しています



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