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誰もが読書を楽しめる社会の実現へ ──読書バリアフリー推進に向けた、KADOKAWAグループの取り組みと今後の展望

2026.3.31

障がいの有無にかかわらず、すべての人が読書を通じて文字・活字文化の恩恵を受けられる社会の実現を目的に、「読書バリアフリー法」(正式名称:視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律)が2019年6月に施行されました。それから6年以上が経過しましたが、出版コンテンツにおけるバリアフリー化やアクセシビリティ(利用しやすさ・便利さ)の向上は、なお発展途上にあります。

世界盲人連合(World Blind Union)は、障がい者が読書可能な本の割合を、先進国でも7%程度と推計しています(World Blind Union「ISSUE BRIEF FOR ASIA-PACIFIC」2017年12月発行より)。本が読みたくても読めない――。視覚障がい者などが読める方式の書籍が不足している状況を、世界盲人連合は「本の飢餓(bookfamine)」と名付けました。「本の飢餓」の解消は多くの読書困難者に望まれています。

「本の飢餓」を解消する対応策として、一般の書籍を読むことが難しい人でも利用しやすいよう工夫された「バリアフリー図書」があります。文字サイズを拡大できる「電子書籍」、音声で内容を楽しめる「オーディオブック」、触れて読む「点字図書」、やさしい文章やふりがな・写真・ピクトグラムを用いた「LLブック(easy to read)」などが、その代表例です。

KADOKAWAグループでは、すべての人に垣根なく喜びと感動を届ける総合エンターテインメント企業として、誰もが読書を楽しめる社会の実現につながる、さまざまな取り組みを進めてきました。具体的には、バリアフリー図書の代表的な形態である電子書籍の発行や、耳で読む本=オーディオブックの展開、さらにグループ従業員向けの勉強会の開催などが挙げられます。

本記事では、読書バリアフリー推進に向けたKADOKAWAグループのこれまでの実績に加え、今後の新たな取り組みや展望などについて、KADOKAWA 執行役で出版事業グループを率いる青柳昌行Chief Publishing Officer(CPO)へのインタビューを交えて紹介します。

※KADOKAWAグループの読書バリアフリーに関する取り組みの詳細は、「すべての人に読書の楽しみを ~出版コンテンツのバリアフリー化、アクセシビリティ向上への挑戦~」も併せてご参照ください。

KADOKAWAグループが見据える、読書バリアフリーの現在地とこれから ──青柳CPOインタビュー 

KADOKAWAグループでは、バリアフリー図書の代表格と言える電子書籍と、オーディオブックの制作に長年取り組んできました。

電子書籍は、「文字の拡大」「音声読み上げ」などの機能があり、紙の本をめくる動作が難しい方にとっても操作がしやすいため、バリアフリー図書の代表格と言われます。KADOKAWAグループでは、黎明期から20年以上にわたって電子書籍の制作に取り組み、累計16万点を発行しています。また、耳で読む本=オーディオブックも、文芸、ライトノベル、新書、実用・ビジネス・専門書と、多岐にわたるジャンルで2,000点超を展開し、視覚障がい者、学習障がい者など、読書困難者の方々から多くの支持をいただいています。

一方で、触れて読む「点字図書」、やさしい文章やふりがな・写真・ピクトグラムを用いた「LLブック(easy to read)」など、そのほかのバリアフリー図書の発行には現時点では及んでいません。


青柳昌行さん

KADOKAWA 執行役 Chief Publishing Officer(CPO)青柳昌行さん

すでにある「基盤」が、読書バリアフリーの次の一歩を支えている

———電子書籍やオーディオブックの刊行をはじめ、KADOKAWAグループにおいて「読書バリアフリー」につながるさまざまな取り組みが行われています。こうした取り組みをどのように受け止めていらっしゃいますか。

日本の出版業界全体を見ると、読書バリアフリーにしっかり向き合っている出版社は、まだまだ限られているのが実情です。そうしたなかで、KADOKAWAグループは比較的前に進んでいる方だと思います。

その背景にあるのは、20年以上前から取り組んできた電子書籍への対応です。もともと読書バリアフリーを目的に整備してきた訳ではありませんが、グループ直営の総合電子書籍ストア「BOOK☆WALKER」を軸に電子書籍化を進めてきたことや、本を音声化したオーディオブックにも取り組んできたことが、結果として、豊富な電子書籍とオーディオブック点数の発行という今の状況につながってきました。

読書バリアフリーは、何もないところから急に始められるものではありません。だからこそ、電子書籍やオーディオブックを制作するノウハウや体制がグループ内にすでにあるというのは大きいと思います。この基盤があるからこそ、電子書籍やオーディオブックの制作にとどまらず、読書バリアフリーの観点でKADOKAWAグループに何ができるのか、さらにできることはないか、を考えられる位置にいるのだと思っています。

「続けられる仕組み」をどうつくるか

———読書バリアフリーを推進するうえで、難しさを感じるときもあるかと思います。どんな課題があるとお考えでしょうか。

大きな課題のひとつは「採算性」です。電子書籍やオーディオブックは事業として成り立っているものの、点字つき絵本など、それ以外のバリアフリー図書は制作コストが非常に高く、現時点では発行に至っていません。

誰もが読書を楽しめる社会の実現に向けて、読書バリアフリーは必要な取り組みです。ただ、企業として進める以上、事業として継続できる形にしていくことが重要になります。打ち上げ花火のように一時的な取り組みで終わらせるのではなく、どうすれば無理なく続けられ、広げていけるのか。「継続性と永続性」を意識することがとても大切だと思います。

もうひとつの課題が、制作ノウハウです。電子書籍とオーディオブックを除くバリアフリー図書については、制作に関する十分なノウハウをまだ持ち合わせていないのが現状です。

バリアフリー図書の制作には、通常の本づくり以上に、文字の見え方、レイアウト、読みやすさなど、きめ細かな配慮が求められます。トップダウンで号令をかけても、具体的なノウハウがなければものづくりはできません。制作の現場にバリアフリー図書に関する知見を蓄積し、技術として根づかせていくことがとても重要です。事業性と制作ノウハウ、その両方を育てていく必要があると考えています。


青柳昌行さん

「特別な対応」から、企画段階時の「当たり前」へ

———今後、KADOKAWAグループの読書バリアフリーは、どのような姿を目指していくべきでしょうか。

読書バリアフリーが特別な取り組みとして切り離されるのではなく、企画段階から自然に選択肢に入ってくる状態を目指したいですね。たとえば「この本は通常版だけでなく、大きな文字の大活字本や、やさしい文章やふりがななどを用いたLLブックなど、バリアフリー版の制作も同時に考えよう」と、最初から発想できるようになるのが理想的です。

アクセシビリティが義務だから対応する、というものではないと思います。「この作品をできるだけ多くの人に読んでもらいたい」という気持ちから、自然とバリアフリー対応がなされるのが望ましいですよね。より多くの人に、おもしろいものや価値あるものを届けたい。その延長線上に読書バリアフリーはある、という形が理想だと思います。

もちろん、すべての本を点字図書や大活字本にすればよい、という訳ではありません。作品によって、電子化が適しているものもあれば、音声化が向いているもの、大きな文字の本として届けた方がよいものもあります。それぞれの本の内容や特性に合わせて、無理のない形で広げていくことが大切ですね。

また、グループ横断でバリアフリーを推進する取り組みとして、有志の従業員による「障害者とそのご家族 応援共生プロジェクト」(※)を継続していくことも重要だと思っています。新入社員研修をはじめ、読書バリアフリーをテーマとしたレクチャーや勉強会を実施していくことも、グループ全体への理解を広げていくうえで意味のある取り組みだと考えています。

バリアフリー図書による読書を実体験できる展示会を開催

バリアフリー図書にはさまざまな形態の本がありますが、一般の書店ではなかなか目にする機会が少なく、どのように工夫されているのかを知る機会は限られています。そこで、バリアフリー図書を実際に手に取り、その工夫や読みやすさを体験できるグループ従業員向けの展示会を、公益財団法人 文字・活字文化推進機構の協力のもと、2026年1月より期間限定で開催しました。

会場には、点字絵本、布の絵本、大活字本、LLブック、多言語絵本など、KADOKAWAグループやほかの出版社によるバリアフリー図書約40点を展示。会場を訪れた従業員は、点字図書の点字に触れたり、通常版と大活字本の文字の大きさや見やすさを見比べたりしながら、それぞれの本に施された工夫を体感しました。展示会は、読書バリアフリーへの理解を深めるとともに、誰もが本を楽しめる環境についてあらためて考えるきっかけにもなりました。


大活字本

点字絵本

布の絵本

さまざまな種類のバリアフリー図書。上から、大活字本、点字絵本、布の絵本

グループ向けセミナーの開催で読書バリアフリーの課題を認識

2025年に続き、グループ従業員を対象とした「読書バリアフリーセミナー」第2回を2026年2月に開催しました。

今回は、第1回に引き続き講師を務めていただいた専修大学・野口武悟教授に加え、長年にわたり読書バリアフリーに取り組んでこられた、小学館 マーケティング局 アクセシブル・ブックス事業室 木村匡志さんをお招きしました。国や出版業界全体が目指す方向性や、出版社が具体的にできることなど、木村さんが実践の中で培ってきた知見や具体的な課題を率直にお話しいただきました。

セミナー後のアンケートでは、人口減による読書人口の減少と書店数の急激な縮小が進む中、「読書バリアフリーの取り組みは読者を広げる『ビジネス』であり、特定の人のためのチャリティではない」という木村さんのメッセージに多くの共感が集まりました。また、紙の本を購入してもそのままでは読めない視覚障がいのある読者に対し、テキストデータを提供する取り組みが存在することについても、新たな気付きとして反響がありました。


アクセシブル・ブックスのコーナー

小学館本社ビルにあるアクセシブル・ブックスのコーナー
1983年に創刊された、視覚障がい児のための“手で見る点字絵本”「テルミ」など、
バリアフリー図書が複数展示されています

『僕らには僕らの言葉がある』が2025年 IBBYバリアフリー児童図書セレクションに選出、第9回JBBY賞も受賞

読書バリアフリーへの取り組みを進めるなかで、KADOKAWA作品に関するうれしいニュースもありました。“ろう”のピッチャーと“聴”のキャッチャーをめぐる青春を描いたコミックス『僕らには僕らの言葉がある』(詠里)が、2025年のIBBYバリアフリー児童図書セレクションに選ばれ、第9回JBBY賞も受賞しました。

IBBY(国際児童図書評議会)は、障がいのある子どもたちも楽しめる優れた本を世界中の書籍から選定しています。2025年のセレクションでは32か国から200冊の推薦があり、世界で40作品、日本からは2作品のみが選出されました。
2025 IBBY Selection of Outstanding Books for Young People with Disabilities


『僕らには僕らの言葉がある』1巻

『僕らには僕らの言葉がある』2巻

『僕らには僕らの言葉がある』
“ろう”のピッチャー・相澤真白と“聴”のキャッチャー・野中宏晃
音のない世界と音のある世界を超えてお互いに近づいてゆく、男子高校生バッテリーの青春ストーリー
現在1・2巻が発売中、最終巻となる3巻は2026年5月に発売予定
カドコミ」「ニコニコ漫画」からも作品をご覧いただけます


本作は、JBBY(日本国際児童図書評議会)が選ぶ「第9回JBBY賞」も受賞しました。2026年2月23日、東京・神保町の日本出版クラブで行われた贈賞式には、著者の詠里さん、担当編集者の波多野公美さんも出席。贈賞式後には、今回の受賞や出版後の反響、作品への思いについてコメントを寄せていただきました。


受賞者集合写真

第9回JBBY賞受賞者の皆さん
前列左から3番目が『僕らには僕らの言葉がある』著者の詠里さん
後列左から3番目が担当編集者の波多野公美さん

<著者・詠里さんより>

『僕らには僕らの言葉がある』が、2025年 IBBYバリアフリー児童図書選定と第9回JBBY賞受賞という形で評価していただけたことに、驚きと感謝の気持ちでいっぱいです。最初に受賞のお話を聞いたときは、正直あまり実感がなく、「本当に?」という気持ちが大きかったのですが、賞の意味と、日本からはわずか2作品しか選出されていないことを知り、じわじわとうれしさがこみ上げてきました。作品を見つけてくださり、読んでくださった方々に、心から感謝しています。ありがとうございます。

この作品では、聞こえる人にとってのわかりやすさだけに寄せるのではなく、聞こえない子どもたちがどのような思いを抱えて生きているのか、その視点を大切にして描いています。聴覚障がいを扱う作品では、聞こえる人の感覚が基準になりやすいのですが、それだけでは見えてこないことがたくさんあると感じていたからです。手話の場面でも、聞こえる人が手話を見たときに、何を言っているのかわからない感覚をリアルに表現したいと考えました。また、聴覚障がいのある方にとっては、手話の絵と日本語の併記が漫画を読む際のノイズになることがあるので、手話場面で日本語訳を逐一添えないようにしました。作品全体でも、セリフで状況や心情を説明しすぎず、余白のある形で描くようにしています。

私自身、ろう者の家族や知人がいる訳ではなく、手話にも全く縁のない環境で生きてきました。制作の中では迷うことも多くあり、出版後もいろいろなご意見をいただきましたが、手話ネイティブの方々から「こういう作品は今までなかった」「読んでいてしんどくならなかった」といった感想をいただけたことが、とても印象に残っています。

今回の受賞を励みに、これからもさまざまな作品を読者の皆様に届けていきたいと思います。


<担当編集者・波多野公美さんより>

『僕らには僕らの言葉がある』が2025年 IBBYバリアフリー児童図書に選ばれ、第9回JBBY賞も受賞したことを、大変うれしく思っています。多くの作品の中から本作を見つけてくださり、読んでいただけたことを、何よりありがたく受け止めています。

本作は「何を描くか」をとても大切にしている作品で、詠里さんと丁寧にやり取りを重ねながら作り上げています。実際に読者の方からも、「感動した」「心に残った」といった熱量の高い感想を数多くいただき、この作品が確かに一人ひとりに届いているのだと実感しています。今回の受賞で、詠里さんの作品が大きく評価されたことを、編集担当としてとてもうれしく思い、この作品に関われたことを、あらためて光栄に感じています。

最終巻となる3巻が2026年5月に発売になります。ぜひ多くの方々に『僕らには僕らの言葉がある』を読んでいただけたらと思います。

KADOKAWAグループでは、誰もが読書を楽しめる社会の実現を目指し、今後もさまざまな施策を通じて、読書バリアフリーの推進に継続的に取り組んでいきます。

※「障害者とそのご家族 応援共生プロジェクト」
KADOKAWAグループ従業員が、挑戦的、中長期的、部署横断的なプロジェクトを提案し、グループから募ったプロジェクト推進メンバーで組成するチームで実現を目指す「プロジェクト公募」のひとつ。障がいに関する個人的原体験を持つ社員有志が提案し、2022年にプロジェクト化。KADOKAWAが「障がいの有無にかかわらず、すべての人が必要とされ、夢とやりがいを持って働ける会社」であり続けることを目指し、活動しています。本記事に掲載したグループ従業員向け勉強会のほか、合理的配慮に関する社内研修への協力や社内規程改訂への働きかけなども行っています。

※本記事は、2026年3月時点の情報を基に作成しています



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