『はだしのゲン』からはじまった、子どもたちに社会課題をわかりやすく伝える児童書の刊行
KADOKAWAでは、創業以来創り出されてきたコンテンツを、時代や国境を越えて、守り、届け続けることが大切な使命だと考え、今後も多様なコンテンツ創出を通じて、より多くの人々に知識や感動を拡げ、文化の普及と発展に貢献するべく事業活動を行っています。
KADOKAWAグループの汐文社では、1976年の創業以来、子どもたちに平和の尊さや多様性の大切さを伝える数々の本を世に送り出してきました。2013年にKADOKAWAの子会社となって以降も、グループ唯一の児童書専門の出版社として、主に学校・公共図書館向けに、戦争や福祉、環境といった社会課題をテーマとして、教育を支える書籍の出版に取り組んでいます。
ロングセラーとなったコミック『はだしのゲン』(中沢啓治 作・絵)シリーズをはじめ、子どもから成人までの幅広い年代・多彩な読者に向け、SDGsに関連する児童書を数多く出版する汐文社に、それら書籍を発行することになった背景や、出版を通じたSDGsの普及に対する取り組み・展望について、話を聞きました。
「弊社は主に学校図書館向けの学習資料を刊行していますが、これまで手掛けていた本のほとんどが、現在のSDGsへとつながるテーマのものであったといっても過言ではありません」(汐文社 副編集長 門脇大さん)
たとえば、SDGsという言葉が生み出されるより前の、2014年に刊行した『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』(くさばよしみ 編/中川学 絵)という絵本。
この絵本は、2012年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた国際会議「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」での、ウルグアイのホセ・ムヒカ大統領(当時)の地球の未来への危惧を説いた有名なスピーチを、わかりやすく紹介したものです。
「ムヒカさんのスピーチは、まさに持続可能な社会を作るための秘訣そのもので、今のSDGsを先取りしていたと言っていいと思います。この絵本は、ムヒカさん来日当時にも大きな反響を呼びましたが、SDGsが一般的になってきたころから、再び脚光を浴びています」(門脇さん)
ジェンダー問題も早くから取り上げており、2015年には『もっと知りたい! 話したい! セクシュアルマイノリティ』(日高庸晴 宝塚大学看護学部教授 著)全3巻を刊行。このシリーズでは子どもたちに向けて、セクシュアルマイノリティやLGBTQなどの話題を、イラストやデータを交えて、わかりやすく解説しています。
汐文社は、戦争や人権問題を真正面から捉えた『はだしのゲン』を原点として、サステナビリティやジェンダーについて、あるいはごみやエネルギーに関する環境問題など、さまざまな社会課題を子どもたちにわかりやすく伝える本を刊行してきました。そしていま、これらがSDGsにつながっています。
2020年には、SDGsに関する絵本の決定版として、幼児から小学生向けに『わたしがかわる みらいもかわる SDGsはじめのいっぽ』(原琴乃 作/MAKOオケスタジオ 絵/山田基靖 監修)を出版しました。
この絵本は子どもたちに、SDGsについてまずは学び、そして時と場合によっては、勇気を持って踏み出す心構えをしてもらいたい、という思いで作られています。作者の原琴乃さんは、外務省で国内外のSDGs推進を担当してきた、いわばSDGsの第一人者。監修者の山田基靖さんは、原さんと同時期にニューヨーク国際連合日本政府代表部でSDGsを担当していた外交官です。
「山田さんが国連の情報を日本側に出し、それを受けて原さんが動くという形で、日本のSDGsは進んできました。まさにSDGsの黎明期に活躍していたお二人に作っていただいたのが、この絵本です。企画当初に原さんが、とにかく低年齢の子どもたちにSDGsの概念を伝え、ベースとなる考え方を理解してもらえるようなものを作りたいとおっしゃったので、絵本として刊行することになりました。SDGs全般を取り上げた児童書は世の中にいろいろ出ていますが、絵本形式で、小さな子にもきちんとわかってもらえる本は、今のところこれしかありません」(門脇さん)

汐文社の門脇大副編集長(左)と、営業部の岡﨑大輔係長(右)。岡﨑さんが手に持つ『地球が危ない! プラスチックごみ』全3巻も、ゴール14「海の豊かさを守ろう」などのSDGsに関連する内容の書籍。
同書は絵本に関連した団体や自治体からも注目されて「第12回ようちえん絵本大賞」に選ばれたこともあり、口コミで評判が広まって、幼稚園や保育園などでの読み聞かせで取り上げられることが増えています。汐文社でも、SDGsに関するイベントなどの開催を始めています。2021年8月に教育・図書館関係者向けに開催した「汐文社オンラインイベント~SDGs はじめの一歩~」も、そのひとつです。
「『わたしがかわる みらいもかわる SDGsはじめのいっぽ』のコンセプトでもある“はじめの一歩”を、まずは学校の先生や司書の方たちと共有することで、子どもたちにもっと絵本の内容を伝えたいと考えて、オンラインイベントを開催しました」(汐文社 営業部 係長 司書 岡﨑大輔さん)
司書を中心に全国から50名を越える教育・図書館関係者が集まったイベント前半では、絵本専門士の朝日仁美さんによる読み聞かせ後、作者の原琴乃さんが登壇。SDGsの基本を解説したうえで、この本を作った思い、SDGsに関して図書館でどのような活動ができるか、といったことをお話しされました。後半は、SDGsの各目標に関わる図書館での選書をともに考えていくコーナーとして、汐文社で作成したSDGs選書のワークシート「自分だけのSDGsブックリスト」(https://www.choubunsha.com/book/9784811327228.php)を使ったワークショップの手ほどきを行いました。

汐文社のWebサイトで公開している「自分だけのSDGsブックリスト」。選書リストを作る過程で、SDGsについてより深く調べ、知ることができる。 https://www.choubunsha.com/book/9784811327228.php
「自分だけのSDGsブックリスト」は、SDGsについて知りたい子どもが、自分たちで17のゴールに関わる本のリストを作れるようにしたものです。
「このワークシートを使うと、SDGsのそれぞれのゴールについて、言葉だけではなく、具体的な中身も考えることになるので、より理解が深まるのではないかと思っています。例えばゴール16は、平和だけでなく、公正も求められているから、戦争をやめるだけでなく、法律のことも考える必要がある、といったことがわかります。このワークシートは、汐文社のWebサイトからダウンロードできるので、ぜひ学校でも活用して、選書をやってみてほしいです」(門脇さん)
汐文社は今後も、2030年に向けて、書籍の出版やイベントを通じて、SDGsの重要性を訴えていきます。

門脇副編集長が手に持っているのは、SDGsの17のゴールに合わせて汐文社の書籍を解説するカタログ
「SDGsについては、社員全員が使命感を持って取り組んでいて、グループの中でももっともSDGsについて考え続けている会社だと自負しています。そうした我々の熱意や知識を、KADOKAWAグループ全体のサステナビリティ関連の活動につながるようにもしていきたいです。ぜひ、この絵本をきっかけとする新しい展開をグループ内のほかのメディアとも行っていきたいと思います」(門脇さん)