障害の有無にかかわらず、すべての人が読書による文字・活字文化の恩恵を受けられるようにするための法律「読書バリアフリー法」が、2019年6月に施行されました。成立から数年が経過しましたが、小説、コミック、絵本などの出版コンテンツにおいて、バリアフリー化や「アクセシビリティ(利用しやすさ・便利さ)」の向上は、十分に進んでいるとは言えない状況です。
厚生労働省の発表によると、日本における障害者数は1,100万人以上にのぼり、総人口の9%以上が何らかの障害を有しています(令和7年版「障害者白書」より)。また、世界盲人連合(World Blind Union)は、障害者が読書可能な本の割合を、発展途上国で全体の1%未満、先進国でも7%程度と推計しています(World Blind Union「ISSUE BRIEF FOR ASIA-PACIFIC」2017年12月発行より)。本が読みたくても読めない――。こうした「視覚障害者などが読める方式の書籍などの割合が低すぎる状況」を、世界盲人連合は「本の飢餓(bookfamine)」と名付けました。「本の飢餓」の解消は多くの読書困難者に望まれています。
「本の飢餓」を解消する対応策として、一般的な本を読むことが困難な人でも利用しやすいように工夫が施された「バリアフリー図書」があります。主なバリアフリー図書には、文字サイズを拡大できる「電子書籍」、音声で内容を楽しめる「オーディオブック」、触れて読む「点字図書」、そしてやさしい文章やふりがな・写真・ピクトグラムを用いた「LLブック」などが代表的です。
KADOKAWAグループは、すべての人々に垣根なく喜びと感動を届ける総合エンターテインメント企業として、より多くの方々に出版コンテンツを楽しんでいただきたいと考え、電子書籍とオーディオブックについて黎明期から積極的に取り組んできました。今後も、より見やすく、より読みやすい理想のかたちを追求しながら、サービスの向上と新たな挑戦を続けていきます。電子書籍、オーディオブックを含む、バリアフリー図書に関するKADOKAWAグループのさまざまな取り組みについてご紹介します。
電子書籍は、「文字の拡大」「音声読み上げ(TTS=text to speech)」などの機能があり、もっとも身近な「バリアフリー図書」のひとつです。紙の本をめくるという動作が難しい方にとっては、電子書籍の操作のほうが負担が少ないという側面もあります。
KADOKAWAグループの電子書籍への取り組みは古く、20年以上前にさかのぼります。
2025年8月末で、電子書籍点数は約16万点となりました。このうち、音声読み上げ(TTS=text to speech)対応の電子書籍は、32,000点となっています。
近年、特に注目を集めた作品としては、
①作家・宮部みゆき氏のライフワークでもある江戸怪談「三島屋変調百物語」シリーズ4作品(宮部 みゆき)
②2026年アニメ化予定の絵本「パンどろぼう」シリーズ(柴田 ケイコ)
③2025年7月~9月でアニメ放映され話題となったコミック『光が死んだ夏』(モクモクれん)
などがあり、新作・話題作を電子書籍にて提供し続けています。
自社での電子書籍化に加え、電子書籍の図書館への普及も進めています。その取り組みのひとつとして、KADOKAWAグループでは、図書館における電子書籍開拓・拡大の実現と活字文化の維持発展への貢献を目指す、株式会社日本電子図書館サービス(Japan Digital Library Service Co.,Ltd.)の経営に参画しています。
2019年に制定された法律で、正式名称は「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」と言います。「視覚障害者等」とは、「障害により視覚による表現の認識が困難な者」の意味です。具体的には、視覚障害、聴覚障害、肢体障害、精神障害、知的障害、内部障害、発達障害、学習障害などを指します。出版社にできる対応としては、「バリアフリー図書(例:点字図書、電子書籍)の刊行」などがあげられます。
「耳で読む本 = オーディオブック」は、今後ますますの拡大が期待されるバリアフリー図書です。視覚障害者、学習障害者など、読書困難者の方々から多くの支持をいただいています。
KADOKAWAグループでは、2007年ころから取り組みを開始し、すでに2,000点を突破しています。対応ジャンルは、「文芸」「ライトノベル」「新書」「実用・ビジネス・専門書」と多岐にわたります。

近年のオーディオブック話題作には、
①直木賞を受賞した傑作クライムノベル『テスカトリポカ』(佐藤 究)
②「虎に翼」などで人気の伊藤沙莉さん本人が朗読する『【さり】ではなく【さいり】です。』(伊藤 沙莉)
③アニメ化もされたライトノベルの金字塔的作品『ソードアート・オンライン』(川原 礫)
などがあります。



文字を大きく、行間や文字間を広げて読みやすく再編集された「大活字本」は、視覚障害や発達障害の方などに人気のバリアフリー図書のひとつです。
有限会社読書工房が創刊した、大きな文字で本が読める「読書工房めじろーブックス」のシリーズに、2024年3月から「角川つばさ文庫」もラインアップとして加わりました。現在、角川つばさ文庫から、3タイトル(6冊)が大活字本として刊行されています。読みやすい文字サイズ(22ポイント)・読みやすいフォント(游ゴシック体)が採用された「大きな文字の角川つばさ文庫」は、学校図書館・公共図書館をはじめ、多くの方にご好評いただいています。
2025年2月、講師に専修大学・野口武悟教授をお招きし、グループの従業員を対象にオンライン勉強会を実施しました。
お話は、
など、多岐にわたりました。勉強会を通じて、出版コンテンツのアクセシビリティやバリアフリーに関する理解の促進を図ることができました。今後もグループの従業員を対象にした勉強会などを企画し、読書バリアフリーへの理解促進に努めていきます。
専修大学文学部教授。文部科学省「図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議」委員、 同省「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に係る関係者協議会」委員などを務める。 子どもの読書、障害者サービス、電子書籍サービスなどについて研究している。


2025年10月18日・19日に東京の国立オリンピック記念青少年総合センターにて、「一般社団法人日本LD学会 第34回大会」が開催されました。日本LD学会は、LD(学習障害)・ADHD(注意欠如多動性障害)・ASD(自閉スペクトラム症)などの発達障害に関する学術研究団体です。
この大会で、『テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)―対話で物語を紡ぐ「楽しいコミュニケーション」の世界―』と題したワークショップが実施されました。このワークショップを担当した金子総合研究所 所長で東京学芸大学研究員・非常勤講師の加藤浩平先生は、発達障害の子どもたちの余暇活動支援、コミュニケーション支援として、進行役とプレイヤーが協力してひとつの物語を作り上げる、会話型のアナログゲームであるTRPGの活用に取り組まれています。発達障害の方にとって、TRPGの中のキャラクターを演じることは、他者とのコミュニケーションを深めることにつながり、向社会性やコミュニケーションの発達を促す効果が期待できるとされています。
KADOKAWAはTRPG関連書籍を多数刊行しており、2日間で約90名の教員・研究者・保護者の皆さんが参加された上記ワークショップに、『ソード・ワールド2.5 ルールブックDX』(北沢慶/グループSNE)、『アリアンロッドRPG2E ルールブック(1)改訂版』(菊池たけし/F.E.A.R.)、『迷宮キングダム 基本ルールブック』(河嶋陶一朗/冒険企画局)など、TRPGルールブックの展示で協力しました。今後も、KADOKAWAグループの出版コンテンツを活用した協力を検討してまいります。
金子総合研究所 所長、東京学芸大学 研究員・非常勤講師。発達障害のある子どもたちを対象に「テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)」を遊ぶ余暇活動「SUNDAY PROJECT」を主宰。
日本LD学会の詳細はこちら
編集協力:
KADOKAWA「障がい者とそのご家族 応援共生プロジェクト」(KADOKAWAグループ従業員が、挑戦的、中長期的、部署横断的なプロジェクトを提案し、グループから募ったプロジェクト推進メンバーで組成するチームで実現を目指す「プロジェクト公募」のひとつ。KADOKAWAが「障害の有無にかかわらず、すべての人が必要とされ、夢とやりがいを持って働ける会社」でありつづけることを目指し、活動中)
2025年12月掲載