ラーメンは「IP」であり「文化」だ!「ラーメンWalkerキッチン」5年の軌跡と、「未来を創る場」への進化とは?
「ここでしか味わえない一杯」と「ここでしか生まれない出会い」がコンセプトの、世界初の”店主ブッキング型”ラーメン施設「ラーメンWalkerキッチン」。埼玉県所沢市の「ところざわサクラタウン」で開業して以来、地域のお客様や全国のラーメンファンにご来店いただき、行列の絶えない人気店となっています。
2025年11月に5周年という大きな節目を迎え、今後さらなる進化を目指しています。これまでの歩みを土台としながら、テクノロジーやエンターテインメント、異業種コラボなどを軸に「未来を共に創る場」へとアップデート。ラーメンWalker事業の責任者である角川アスキー総合研究所の有馬菜穂子さんと、プロデューサーの松本桂汰さんに、これまでの歩み、次なる戦略について話を聞きました。
ラーメンは「IP」。メディア企業が実店舗を手掛ける理由
――出版や映像、ゲーム、Webサービスなどを展開するKADOKAWAが、なぜ飲食事業の「ラーメン」に参入したのですか?
有馬さん:2008年に雑誌「ラーメンWalker」を創刊して以降、2010年にはラーメン専門のテレビ番組「ラーメンWalker TV」(CSフジ)を開始するなど、ラーメンを多角的にメディア展開し続けてきました。2020年、ところざわサクラタウンの開業にあたり、「食文化の代表として国民食であるラーメンの魅力を発信する場を作る」という構想が立ち上がりました。そこで取材を通して全国のラーメン店主さんと築き上げてきた強固なネットワークを生かし、誕生したのが「ラーメンWalkerキッチン」です。
角川アスキー総合研究所 取締役 兼 ソーシャルイノベーション事業部 担当役員の有馬菜穂子さん。2025年よりラーメン事業全般の責任者に
松本さん:構想段階では、ところざわサクラタウン内に名店を誘致する企画でした。しかし、KADOKAWAグループとして手掛ける以上、誘致するだけに終わらず、「ラーメンWalker」のもつネットワークを生かして店が1週間ごとに入れ替わるローテーション形式を提案したのです。
このアイデアの根幹には、「ラーメンは強力なIP(知的財産)」という考えがあります。KADOKAWAグループの主たる事業である書籍や漫画、アニメやゲームなどと同様に、ラーメンにはカリスマ的な作り手(店主)がいて、熱狂的なファンや強固なコミュニティがある。この構造はエンターテインメント作品のそれと全く同じなんです。
角川アスキー総合研究所 ソーシャルイノベーション事業部 新規事業プロジェクト 担当部⾧の松本桂汰さん。「ラーメンWalker」のプロデューサーを担当。日本全国からラーメン店主を招聘している
有馬さん:ラーメンは、単なる「おいしい食べ物」という枠には収まりません。作り手である店主の方々の凄まじい情熱、師弟間で受け継がれるドラマ、そして一杯の丼に凝縮された緻密なこだわりといった「物語」があるんです。私たちが「ラーメンはIPである」ととらえている所以はそこにあります。実は私もこの仕事を通して、ラーメンの「物語」にすっかり魅せられてしまったひとりです。
松本さん:「ラーメンWalkerキッチン」が目指したのは、名店の味を提供するだけでなく、店主さん自らが厨房に立ち、その美学や職人技を五感で体感できる場所。ラーメンを文化として発信する「ライブハウス」のような空間でした。
ありがたいことに「ラーメンWalkerキッチン」で提供される一杯を口にして、涙を流して感動されるお客様がいらっしゃいます。それは、ラーメンに作り手の魂が宿っているからに他なりません。例えば、世界に300店舗以上を展開する「一風堂」の創業者・河原成美さんは、70歳を超えた今でも「Let's Go Crazy(無我夢中)」と言って、新しい挑戦を続けておられます。そうした熱い情熱やこだわりを、ラーメンを通して届けるのが「ラーメンWalkerキッチン」だと思います。
キッチンエピソード①「博多 一風堂」極 白丸元味〜原点の一杯〜(創業者・河原成美さん)
「ラーメンWalkerキッチン」3周年イベントでは、河原さんが自ら厨房に立ち、一日限りでラーメンを提供するという特別な機会に。その姿を一目見ようと、日本中の名だたる店主たちがキッチンに集結した
――開業した2020年といえば、コロナ禍の真っ只中でした。開業に至るまでの苦労も多かったのではないでしょうか?
有馬さん:実は、コロナ禍だったからこそ店主の皆さんとの絆が深まったという側面もあります。飲食業界全体に暗雲が立ち込めていた時期、日本を代表する店主さんたちが「ラーメンの可能性を追求するライブキッチン」というコンセプトに共感いただき、「業界の未来のために今なら手伝えるよ」と力を貸してくださいました。この志ある連帯こそが、現在の「ラーメンWalkerキッチン」、そしてラーメンWalker事業の礎となっています。
松本さん:これまで200店以上の店舗に出店いただきました。同じ店主の方が異なるブランドで出店されたり、再出店してくださるケースもあるため、純粋な店主の数で言うと延べ約170人にのぼります。出店が途切れることなく今まで続いているのは、本当に店主の皆さんのご尽力のおかげです。
「ラーメンWalkerキッチン」に出店していただくと、1週間、顔を合わせて店舗運営をすることになります。その間密接にコミュニケーションするのですが、ときにはラーメン業界の課題や将来を話し合うこともあり、ラーメンWalker事業に関わるスタッフの意識は次第に”メディア”から、ラーメン店の”パートナー”へと変化していきました。
有馬さん:ラーメン業界は、師弟関係や横のつながりを重んじる世界。だからこそ私たちは、丁寧な対話を積み重ね、いただいた絆を大切にする。そうして店主さんと二人三脚で歩んできた結果が、一つひとつの出店へとつながっています。
キッチンエピソード②開業の日(2020年11月6日)
コロナ禍が猛威を振るい、ラーメン業界のみならず飲食店そのものの存続が危ぶまれていた時期に「ラーメンWalkerキッチン」は開業。名だたる有名店主がスーパーバイザーとして、ところざわサクラタウンで一堂に会した
厨房で生まれた熱狂、ドラマ
――これまでに出店した中で、特に印象に残っているお店やラーメンを教えてください。
松本さん:印象に残っているお店の一つは、2023年、多くのファンに惜しまれながら閉店した東京・飯田橋「支那そば びぜん亭」の復活劇です。店主の植田正基さんと女将の和子さんが築き上げたあの空間を、もう一度届けたい。そんな想いから出店をお願いし、1週間限定の復活が叶いました。一杯に宿る、人々の記憶と感情。ラーメンとは単なる食を超えた文化なのだと、再認識した瞬間でした。「ラーメンWalkerキッチン」は、こうしたファンの切なる願いを形にする場所でありたいと考えています。
キッチンエピソード③「支那そば びぜん亭」ちゃあしゅうそば(店主・植田正基さん ※右から二人目)
「ラーメンWalkerキッチン」は、ラーメンファンの想いを形にする場でもある。「また食べたい」という声に応え、ファン待望の復活営業を果たした。七夕の日に実施されたためタイトルは「七夕の奇跡」に
有馬さん:埼玉の人気店「中華そば 四つ葉」さんも印象深いです。10年以上続くと、ファンが定着する一方で味が変えにくくなるものですが、店主の岩本和人さんは出店されるたびに「今、自分が本当においしいと思う新しい一杯」に挑戦してくださいます。ここでの試作から新たな定番メニューや限定麺が生まれることも多く、店主さんにとっても「実験と挑戦の場」になっていることが、「ラーメンWalkerキッチン」の醍醐味だと感じています。
キッチンエピソード④「中華そば 四つ葉」15の夜(店主・岩本和人さん)
埼玉の殿堂店と尾崎豊展「OZAKI30 LAST STAGE」によるスペシャルコラボレーション。名曲「15の夜」を醤油ダレに15日間聴かせ続けたら、ラーメンはどう変化するのか。そんな実験的な発想から生まれた一杯だった
新たな才能を発掘する登竜門としての「ラーメンWalkerキッチン」
――キッチンでは若手店主の育成にも注力されていますね。
松本さん:メディア企業としてラーメン業界に貢献すべき役割に、「まだ世に出ていない才能を発掘すること」もあると思っています。例えば、京都の「麦の夜明け」。店主の伊藤聡孝さんはオープン前、「ラーメンWalkerキッチン」のスターオーディション「チャレンジ店主部門」に挑戦し、そこで評価を担当したレジェンド店主の方々から大絶賛を受け、入選。そのわずか2か月後に開業すると、1年足らずで「ミシュランガイド・ビブグルマン」に選出されました。これはスターオーディションの評価を担当してくださった店主の方々含めて、みんなで喜びましたね。
キッチンエピソード⑤「麦の夜明け」帆立と山椒の中華そば(店主・伊藤聡孝さん)
次世代の才能に光を当てる場としての役割も担う「ラーメンWalkerキッチン」。新たなスターの登竜門となっていることを示す事例となった
全国から集まるファンと地域へ広がるポジティブな影響
――来店されるお客様はどんな方々ですか? また周辺地域の声などを教えてください。
有馬さん:2025年末、来店いただいたお客様にアンケートを実施しました。すると私たちの想像以上に幅広い層の方々に支えられていることが分かりました。年齢層や男女比に偏りがなく、全国47都道府県すべてのエリアからご来店いただいています。客層の比率は、リピーターの方が約30〜40%、新規の方が約60〜70%。常に店舗が入れ替わる仕組みだからこそ、絶えず新しいお客様を呼び込むことができていると感じています。
松本さん:同時に、周辺の地域社会との結びつきも非常に強くなっています。「子供に初めてラーメンを食べさせるなら、安心できるラーメンWalkerキッチンで」という口コミが近隣地域の”ママ友”の間で広がり、ファミリー層の“ラーメンデビュー”の場としても定着しています。また定期券をわざわざ購入して毎日通ってくださる方や、このキッチンが決め手となって移住された方もいることを知った時は、感動しました。
IPとしてのラーメンが切り拓く次なるビジネス展開
――「ラーメンWalker」および「ラーメンWalkerキッチン」が次に見据えている展開を教えてください。
有馬さん:この5年間で、店主の方々との信頼関係やキッチンのオペレーションといった土台は完成しつつあり、これからは「ラーメンWalkerキッチン」をラーメンの可能性を追求し続ける「ラボ(研究機関)」としてより進化させ、自治体や企業、社会が抱える課題をラーメンという強力なIPで解決することも目指していければと考えています。
松本さん:例えば、食材の新たな価値創造にも取り組んでいます。その事例のひとつとして、ラーメンWalkerグランプリ東京金賞店「Ramen FeeL」さん(次なる挑戦に向けて2026年4月現在は閉店)と北海道産小麦のスペシャリスト「山本忠信商店」さんによるコラボ出店がありました。小麦に対して並々ならぬ情熱を持つ「Ramen FeeL」の店主・渡邊大介さんは、品種や製粉方法の違いによる個性を最大限に引き出したコース仕立てのラーメンを提供しました。この取り組みは、ラーメンを通じて日本の農業や加工技術の価値を再発見させる、意義深い一皿となりました。
キッチンエピソード⑥「Ramen FeeL」北海道小麦を使ったコースメニュー(店主・渡邊大介さん)
「Ramen FeeL」×北海道産小麦の限定メニューを開発。有名店主とのマッチングによって素材の新たな魅力が最大化された
有馬さん:また、ラーメンの「時間が経つと麺が伸びる」という常識を覆すことができれば、新たな価値が生まれます。そこでフードデリバリーサービス「menu」との協働で、30分後でもおいしく食べられるデリバリー特化型ラーメン「デリ麺」を有名店とのコラボで開発したりもしています。こうした開発の延長上に、1時間後、2時間後でもおいしく食べられるラーメンができれば、例えば被災した遠隔地に温かい食事を届けられるようになるかもしれません。社会的課題を解決する可能性もあると思います。
松本さん:ラーメンが持つ力は、一杯の味わいを超えて、人と人、地域と文化をつなぐものだと感じています。その力を地域振興や企業の取り組みと結びつけることで、新たな物語が生まれていくはずです。6年目を迎えた「ラーメンWalkerキッチン」は、これまで積み重ねてきた出会いと挑戦を糧に、未来を共に創る場として次のフェーズへ進みます。ラーメン店主の皆さん、そしてラーメンファンの皆さんのお力を引き続きお借りしながら、ラーメンという文化の可能性を、これからも広げていきたいと考えています。
キッチンエピソード⑦「熊本ラーメン 黒亭」ラーメン(店主・平林京子さん)
災害を風化させないこと、そしてラーメンを通じて勇気や元気を届けることを目的に、東日本大震災が発生した3月、熊本地震が発生した4月などの節目に、被災地域の名店を招聘する取り組みを行っている。
ラーメンWalkerグランプリ受賞店&殿堂店506店が会する初のラーメン本「ラーメンWalkerグランプリ 極 2025-2026」が発売中
※本記事は、2026年4月時点の情報を基に作成しています