なぜ人気作家3人は「カクヨム」を選んだのか? 作家の熱量を支え続けた「10年の軌跡」
2016年2月のサービス開始以来、Web小説サイト「カクヨム」は数多くの物語を世に送り出し、いまやKADOKAWAのIP創出において欠かせないプラットフォームへと成長を遂げています。
カクヨム10周年運営のインタビュー▼
あらゆるテキストコンテンツが集約する場所へ。異世界転生、SF、ラブコメ、ホラー...「カクヨム」がこの10年で醸成した文化とこれからの行く先
誕生から10周年という節目を迎えカクヨムでは、これまで投稿されてきた60万作品の中から厳選した100作品を「カクヨム100名作」として公開中。サービスの歩みを語る上で欠かせない名作を生み出した『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録』のロケット商会さん、『異修羅』の珪素さん、そして『ある魔女が死ぬまで』の坂さんの3名の作家をお招きし、カクヨムからデビューした当時の心境やアニメ化の裏側、そしてカクヨムが書き手に選ばれ続ける理由について、お話を伺いました。
珪素さん
代表作『異修羅』は『このライトノベルがすごい!2021』で史上最高の獲得票数で、単行本・ノベルズ部門および新作部門1位を獲得。2024年TVアニメも放送された。
坂さん
京都出身。代表作『ある魔女が死ぬまで』(2025年TVアニメ放送)のほか、『龍の子、育てます。』『魔王のアトリエ』など。
KADOKAWAが生み出した新サービスへの期待感
——ロケット商会さんと珪素さんは商業デビュー前からのお知り合いだそうですね。
ロケット商会さん:
私たち二人とも創作活動を行う同じコミュニティに所属していたんです。仲間内で小説を見せあって、得票数の多さで勝敗を決めるというようなことをよくやっていて。
珪素さん:
私もロケット商会さんも、その仲間の一人から「KADOKAWAが小説投稿のサイトを新しく始めたらしいよ」と教えてもらって、カクヨムがサービス開始してすぐに作品の投稿を始めたんですよね。
坂さん:
僕がカクヨムで投稿を始めたのは、お二人のすこし後の2017年でした。もともとは別の投稿サイトで活動していたんですが、徐々にそこが過疎り始めてしまって。そこで当時書き手さんが続々と集まっていたカクヨムで僕も投稿を始めてみたんです。個人的には、大手出版社のKADOKAWAが運営元ということで、精力的に企画を実施してくれそうだなという期待感もありました。
ロケット商会さん:
サービス開始と同時に開催された「カクヨムWeb小説コンテスト」は作品を投稿するきっかけになりましたね。各ジャンル(ファンタジー、SF、ホラー、現代ドラマ、現代アクション、恋愛・ラブコメ、ミステリーの8ジャンル)の大賞受賞者には賞金100万円と書籍化が確約されていて、商業作家デビューのチャンスを掴む貴重な機会だなと。
カクヨムで切り拓いた商業作家への道
——ロケット商会さんは、その第1回コンテストの「現代アクション部門」で『勇者のクズ』が大賞を受賞し、2016年12月の書籍発売をもって商業作家デビューされています。2021年には「カクヨムアワード2020」の「ユーザー推薦部門」で『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録』が1位になりました。
ロケット商会さん:
第1回コンテストで受賞した際はもちろん嬉しかったんですけど、周りの人には特に知らせず、先ほどの創作コミュニティの仲間にだけ報告したような気がします。さすがに本ができたときはリアルの友人にも盛大に配り歩きました(笑)。
珪素さん:
私たちのコミュニティ内でも『勇者のクズ』はとても評判が良くて、「絶対に本になるべきだ」と言っていたくらいですからね。獲るべくして獲ったなという印象です。実は、私も第1回コンテストに作品を応募したのですが、残念ながら落ちているんですよ。
ただ、自分の中では「良いものを書けた」という達成感のほうが大きくて、むしろこの時の投稿が自信につながったというか。もしここで書いていなかったら、『異修羅』を書くこともなかったかもしれません。
——珪素さんは、その『異修羅』で2019年9月に商業作家デビューを果たしています。当時は誰かに報告されました?
珪素さん:
基本的にリアルでは作家活動をしていることを言っていないので、私は一人で喜びを噛み締めました。一番嬉しかった瞬間は、発売後に書店を訪れた時ですね。「本当に自分の本が並んでいる……」と感慨深くなりました。
——坂さんの商業作家デビューは2021年12月で、『ある魔女が死ぬまで』が「電撃の新文芸2周年記念コンテスト」の「熱い師弟関係部門」で大賞を獲ったことがきっかけでしたよね。
坂さん:
実はこの受賞まで、4人くらいしか『ある魔女が死ぬまで』を読んでくれていませんでした。あの頃はシンプルにつらかった。それでもこの作品を書き切れたのは、「この4人に最後まで読んでもらいたい」と思ったからなんです。あの時の読者の方々には本当に感謝しています。
確か、受賞の連絡は仕事中にもらったんです。嬉しくて隣の席にいた同期に話したらあっという間に会社中に広がり、最終的にはケーキまで用意されるような盛大なお祝い会に発展してしまいました(笑)。
ただ一方で、当時はけっこう冷静な部分もあって、「本が出たとしても人生が劇的に変わるわけじゃない」とも考えていました。だから、会社にはきちんと副業許可を得た上で、しばらくは兼業作家を続けていたんです。
アニメ化もたらした作家としての成長
——『ある魔女が死ぬまで』は2025年4月にアニメ放送が始まりました。さすがにアニメ化が実現すると作家としての自信にもつながるのでは?
坂さん:
それは確かにそうかもしれません。ただ、この作品のアニメ化に対しても「そもそも本当に形になるのか?」と最後まで懐疑的だったんです(笑)。ギリギリに計画がなくなる可能性もゼロではないじゃないですか。だから、実際に放送されるまで実感が湧かなくて。
珪素さん:
『異修羅』が2024年1月にアニメ化された際も似たような感覚でしたね。この作品は『このライトノベルがすごい!2021』(宝島社)の「単行本・ノベルズ部門」ではトップに選んでいただきましたが、決して大人気だったわけではありません。
もちろん刺さる人には刺さっている実感はあったものの、まさか自分の作品がアニメ化されるなんて考えたこともなかったので、担当の編集者さんから突然、「アニメ化の話が進んでいます」と連絡が来た時はびっくりしました。しかも、「珪素さんのOKさえ出れば、明日の会議で決定します」と本当に急で(笑)。
実際に完成したアニメを見た時は感動しました。特に、バトルシーンのダイナミックさと躍動感は凄まじかったですね。小説のアニメ化は多くのクリエイターの熱量があってこそ実現するもので、なかなか経験できることではありません。その後の作家活動を支える希望にもなりました。
——ロケット商会さんの『勇者のクズ』と『勇者刑に処す』は、いずれも2026年1月にアニメ放送がスタートしましたね。
ロケット商会さん:
私もアニメ化の話は嬉しかったんですが、どちらかというと小説を書く時との勝手の違いのほうが特に印象に残っています。アニメ化にあたってスタッフの方に「作品の舞台設定となる地図をください」と言われたんですよね。でも、それまで作品の世界観をきちんと具体化したことがなくて。最後は、エクセルの図形を組み合わせて強引に地図に仕上げましたが(笑)、なかなか苦労しました。
お二人も、アニメ化の際に地図は作りました?
珪素さん:
私もアニメのスタッフの方に言われて初めて作りました。街と街の位置関係や街を構成する建物の配置をいざ書き起こしてみると、「自分の描いている世界はこうなっていたんだ」と気付きが多かったです。
坂さん:
僕の時はアニメのスタッフの方が地図を作ってきてくれたんですが、作家としてすごく良い経験になりました。地図を意識しながら自分の小説を改めて読んでみると、街や建物など構造が破綻している部分がたくさんあることに気がつくんです。作品のディテールがいかにいい加減だったか反省して、それ以来、執筆の際は地図をちゃんと作るようになりました。
ベテラン作家陣が語る「カクヨムの魅力」
——カクヨムと共に歩み、作家デビューも果たしたお三方に、小説投稿サービスとしての魅力をぜひお伺いしたいです。
珪素さん:
まず、敷居の低さはありますよね。たとえ短編だとしてもアイデア次第ではXでバズって、一気に注目されるということがよくあります。あくまで個人的な観測ですが、他の小説投稿サイトではあまり見られない現象です。
ロケット商会さん:
UIが秀逸で、文章も書きやすいんですよ。特に、作家デビュー前の会社員時代は電車での移動時間にスマホで作品を書くことが多くて、途中保存の機能がとても役立ちました。フォントやメニューの表示も美しいですし。こういう細かい部分が書くモチベーションを左右するので意外に侮れません。
それから、デビュー前の作り手にとっては「カクヨムロイヤルティプログラム」もありがたいシステムですよね。投稿した作品のPVに応じて収益が得られる仕組みで、これがモチベーションになる方はけっこう多いのではないでしょうか。
坂さん:
コンテストも頻繁に開催されていて、新たな才能を発掘したいという姿勢をすごく感じます。コンテストのジャンル自体を細分化するなど、毎年何かしらのトライもしている。サイトを盛り上げるために、挑戦し続けていますよね。
ロケット商会さん:
本当にそうだと思います。最近だと「カクヨムシェアワールド」という企画が面白かったです。カクヨムユーザーが自由に物語を展開できる公式の世界観を作るという内容で、登場するキャラクターや舞台などの設定を募集していました。こういった新しい試みを続けているか否かで、サービスの盛り上がり方はまったく変わってきます。
<カクヨムシェアワールド>
坂さん:
そもそも作家デビューを考えた際、運営元がKADOKAWAであるという点はとても魅力的だと思います。作品のメディアミックスに積極的で、コミカライズやアニメ化などの展開スピードが速い。作品の魅力を様々な方法で引き出そうとしてくれます。
ただ、一つ注文をさせてもらうとしたら、隠れた名作がもっと世に出やすくなるような仕組みをぜひとも整えてほしいです。良い作品だけれど埋もれてしまっているケースは絶対にあります。もしかしたら、才能ある書き手が筆を折ってしまっているかもしれない。そういう方たちにもスポットライトが当たるような取り組みにも今後は期待しています。
良き作家は武器を持っている
——これからカクヨムで作家を目指す方へアドバイスをお願いします。
ロケット商会さん:
タイピングとフリック入力の速度はいくら上げても損はありません。そして執筆時間を確保するため、できるだけ暇な状態を保つこと。これ、意外に大事です。
珪素さん:
設定だけ考えて名前を後回しにする方が意外に多いんですが、まず登場人物の名前を決めたほうがいいです。人物の心理や行動を考える時にスムーズで、登場人物が多い状況でも混乱しません。
坂さん:
作家としての「武器」を一つ持つことです。美しい地の文が書ける、会話文のリズムが心地よい、読者を惹きつけるプロットが得意など何でもいいんです。どこか一つ突き抜けた尖った部分があったほうがいい。どんなジャンルでも長年親しまれている作品には、必ず特化した部分があります。
——最後にお知らせがあればぜひ。
ロケット商会さん:
私の新刊が発売されるたびに「フォロワーメール」という形で、フォロワーの方だけが読める限定情報を配信しています。ぜひ作家フォローをして、最新情報をチェックしていただけると嬉しいです!
珪素さん:
『異修羅』の執筆は続けつつ、時間ができたらまたカクヨムで何か投稿したいですね。その際はぜひご覧ください。
坂さん:
書籍版の『ある魔女が死ぬまで』は完結していますが、カクヨムではその8年後を描いた長編エピソードを公開しています。物語の続きが気になっている方は、ぜひそちらも読んでみてください。
※本記事は、2026年7月時点の情報を基に作成しています
ロケット商会さん
代表作『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録』は、「カクヨムアワード2020」「次にくるライトノベル大賞2021」「このライトノベルがすごい!2023」等、数々の賞を受賞。2026年1月にTVアニメが放送され、第2期も制作決定。