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あらゆるテキストコンテンツが集約する場所へ。異世界転生、SF、ラブコメ、ホラー...「カクヨム」がこの10年で醸成した文化とこれからの行く先

2026.6.30

Web小説の世界は、この10年で大きく変化しました。今やWeb小説投稿サイトは様々なヒット作やムーブメントが生まれる場所になり、さらに商業作家を生み出す登竜門にもなっています。そして、その中心にいるのが、KADOKAWAが運営するWeb小説サイト「カクヨム」です。

2016年の誕生から10周年。そして新ブランドのサブスクリプションサービス「カクヨムネクスト」の誕生から2周年。この節目に、統括編集長の松崎夕里さんと立ち上げから携わるプロデューサーの石田竜一さんに、カクヨムの10年の軌跡を振り返ってもらいました。

出版社としての危機感からカクヨムは誕生した

——「カクヨム」は今年で10周年を迎えました。今や知る人ぞ知る巨大サービスですね。

石田さん:私たちが想像していた以上に大きなサービスに成長しています。例えば、この10年間で、カクヨムから商業化された書籍点数は3500点を超えています。月間PV数は約8億で、それを支える月間ユーザー数はすでに約570万人を突破。定期的に作品を投稿してくれる作家も2万人以上にのぼります。(※2026年6月時点)


カクヨム会員数とカクヨム発書籍化点数の推移

これはUGC(ユーザー生成コンテンツ)プラットフォームの中でも、極めて高い実績だと自負しています。

松崎さん:カクヨムは才能の揺りかごとしての機能から、KADOKAWAのライトノベル出版を支える重要な柱として成長し、今や主要なIPの源泉として出版に不可欠な存在です。会社が先見の明をもってカクヨムへの投資を惜しまず、さらに作家と読者がこの新たな創作の場を受け入れてくれたからこその結果だと思います。

——そもそもカクヨムはどのような背景からサービス開始に至ったんでしょうか?

石田さん:やはりWeb小説投稿サイトの「小説家になろう」さんの存在は非常に大きかったです。2004年にスタートしたこちらのサービスは、カクヨムが誕生する以前からすでに10年以上の運営実績があり、当時ここからWeb小説のヒット作が次々と生まれていました。

こうした作品を出版社が商業化する流れが定着したのは、2010年半ば頃だったと思います。そして、この流れの中で特に多くの作品の書籍化を進めていたのがKADOKAWAでした。

ただ、一方で、ヒットの源泉であるプラットフォームを他社に依存している状況に、出版社として危機感を抱いていたのも事実です。Web小説のUGCの市場規模が今後さらに大きくなるのであれば、当社も投資をすべきではないか。そうした判断のもと始まったのが、カクヨムというサービスでした。


石田竜一さん

KADOKAWA デジタル事業局 IPプラットフォーム開発部 カクヨムUGC課 課長 兼 ライトノベル・新文芸局 新文芸部 カクヨム企画課 石田竜一さん


いかにして「カクヨム経済圏」は拡大したのか

——プロジェクトが始まった当初、社内はどのような雰囲気だったんですか?

石田さん:「なんだか得体の知れないプロジェクトが始まったぞ……」という感じでした(笑)。やはり社内の人間が意識していたのは、「小説家になろう」さんです。あちらのほうが歴史も長く、さらにヒット作品を生む出すサイクルもすでにできていました。半ば一強状態にあるのに今更KADOKAWAが新サービスを始めてうまくいくのか、といった懸念は確かにありました。

ただ、そうした状況を打破してくれたのが、このプロジェクトを推進していた当時のライトノベルジャンルを管掌する役員でした。「出版社の未来はUGCプラットフォームにこそある」と大号令をかけてくれたおかげで、書籍編集部とプラットフォーム運営の人間が一体となって仕組みづくりに集中できたんです。このトップの信念と決断がなければ、この世にカクヨムは生まれていなかったかもしれません。

松崎さん:当時、私は文芸の編集部にいて、ライトノベルとは少し距離があったのですが、それでも「まったく新しいプラットフォームをつくるらしい」という話は社内から聞こえてきていました。これまでとは違うところに物語の才能が埋まっていて、今後は公募の新人賞だけでなく、そういう既存の仕組み以外のところにも目配りしていかないと大事なものをとりこぼしてしまう、という危機感が少しずつ浸透していた頃だと思います。ですから、このプロジェクトには刺激を受けました。とはいえ、UGCプラットフォームで人気を博したWEB小説を商品化するというビジネスモデルと最も相性が良いジャンルはやはりライトノベルですし、その意味でも多様なレーベルを抱えて業界No.1のKADOKAWAが会社を挙げて率先して取り組んだことには、意義があったと思います。

——その後、どのようにカクヨムを軌道に乗せていったんでしょう?

石田さん:UGCプラットフォームの成長と、そこから生まれる作品のヒットは、お互いに作用し合っています。その上で一番のポイントになったのは、サービス立ち上げと同時に開催した「第1回カクヨムWeb小説コンテスト」です。

例えば、SF部門で大賞を受賞した柞刈湯葉さんの『横浜駅SF』は、当時SNSでバズっただけでなく、書籍も非常に好評でした。コミカライズはもちろん、横浜駅でのリアル謎解きゲームが実現したり、『このライトノベルがすごい! 2018』(宝島社)で「単行本・ノベルズ部門」新作ランキング1位をとるなど、幅広い展開で知名度を獲得しました。何者でもなかったカクヨムを世に知らしめたという意味では、とても重要な作品の一つです。

その後も、カクヨムWeb小説コンテストは毎年欠かさず開催し、「投稿作品が本になり、ヒットする」というサイクルを繰り返すことで、作家と読者の認知を広げていきました。おかげさまで、コンテストの応募数も第1回の5000作品から、直近では3万1000作品を超える規模にまで拡大しています。
直近の2025年12月~2026年2月まで実施していた「カクヨムコンテスト11」では、応募総数31,961作品で、過去最多を記録しました。この中で、82作品ならびに11クリエイターが受賞し、うち64作品が今後商業化されていく予定があります。ぜひ今後の作家さんたちの活躍も楽しみにしてほしいと思います。

——サービスの成長を一気に加速させたタイミングはありました?

石田さん:2019年11月に導入した「ロイヤルティプログラム」はカクヨムの成長をブーストさせた機能の一つだと思います。このプログラムは、サービス上で得られた広告収益を、作品の閲覧数などに応じて作家に分配する仕組みです。

それまで基本的には本を出すか、寄稿するかしか収入源がなかった作家にとってWeb小説の投稿で報酬が得られるシステムは非常に画期的で、サービス開始時はとても話題になりました。この導入をきっかけに作家の数も2倍以上に増え、カクヨムが一段上のステージに上がった瞬間でした。

松崎さん:さらに、2022年にスタートした「カクヨムサポーターズパスポート」は、読者と作家のつながりをより強固にしたのではないかと考えています。これは読者が作家に対して感謝や応援の気持ちをギフトというかたちで投げ銭的に贈れる仕組みです。


松崎夕里さん

KADOKAWA デジタル事業局 IPプラットフォーム開発部 部長 兼 ライトノベル・新文芸局 新文芸部 カクヨム企画課 課長 松崎夕里さん


実は、サポパスのサービス提供の初日、愛読している作品にこの機能を使って試しにギフトを贈ってみたんです。すごくドキドキしつつ個人的な感想を添えて、おそるおそるボタンを押して(笑)。そうしたら、その作家が「ギフトが届きました!」とSNSですごく喜んでくださって。これって送り手と受け手が固定されたいわゆる読書の形ではありえない、まったく異なる距離感ですよね。作家の生身の存在をダイレクトに感じることができる読者の喜びや、読者の反応や応援が作家をどれだけエンパワーするか、といった相互作用を私自身もひしひしと実感することができました。

カクヨムは商業作家デビューの登竜門に

——こうしたカクヨムの成長と共に、小説を取り巻く環境も変わってきたのではないでしょうか?

石田さん:商業作家になるための選択肢は確実に増えたと感じています。かつて作家を目指す方にとっての王道は例えば「電撃大賞」のような新人賞への応募で、Web小説を積極的に投稿する方は少数派でした。趣味に近い領域だったように思います。

しかし、この10年でその位置付けは大きく変化しています。カクヨムに投稿したWeb小説をきっかに商業作家デビューする方が増えるにつれ、プロになるための「最初の選択肢」として着実に認知が広がっています。公募に出す前にまずWebで小説を書き、そこで人気を得てから書籍化を目指すという方は非常に多くなりました。

松崎さん:作家になるための門戸はすごく広がりましたし、多くの人の目にさらされる分、さまざまなメディアへの展開の可能性もぐっとひらけましたよね。作家の方もよくおっしゃるのですが、例えば新人賞への投稿は、基本的に自分一人だけで進める孤独な作業です。また、選考過程も基本的にクローズドなので、自分の書いた作品の何がよくて、どこがダメだったのか、そういうフィードバックが一切ない。
一方、Web小説の場合は作品が盛り上がれば如実にPVが伸び、読者から直接コメントが届くといった目に見える反響があります。そのライブ感が作品を書き続ける上でも大きな励みになり、「読者がいてくれたからこそ筆を折らずに最後まで物語を書き切ることができた」という声が非常に多いんです。作家の執筆を支える環境が整ったことも、結果として作品全体のクオリティの底上げにつながっているんじゃないかと思います。

近畿地方のある場所について』ヒットの裏側

——サービス開始時からこれまで、カクヨム内の人気ジャンルに変化はありましたか?

石田さん:当初は、先行する「小説家になろう」さんの影響もあって、異世界ファンタジーのジャンルが圧倒的に主流でした。ただ、カクヨムの中からラブコメのヒット作がいくつか出たことで、「カクヨムでラブコメを書くと読まれる」「カクヨムにはラブコメがたくさんあるらしい」という評判が立ち、ある時期からこのジャンルが急増しました(笑)。しかも、こうした動きはカクヨム内にとどまらず、ライトノベル業界全体にもラブコメブームが起きたんです。


石田さん 松崎さん

松崎さん:ここ数年はまたトレンドが変わって、カクヨム内ではホラーが人気ですよね。

——やはり背筋さんのヒットが大きいですか?『近畿地方のある場所について』は書籍化され、映画化もされました。

松崎さん:たしかに、背筋さんはカクヨムにおけるモキュメンタリ―ホラーのパイオニアですね。UGCって、何か一つ突出した作品が出ると、そこに刺激を受けて同じジャンルに意欲作が集まり出す傾向が顕著です。モキュメンタリ―でも、そういった良い循環ができているように思います。


『近畿地方のある場所について』『生活魔法使いの下剋上』

石田さん:ただ、背筋さんの作品がカクヨム内で投稿され始めた2023年当時、SNSでは今のように話題となってはおらず、そこまで大きく注目はされていなかったんです。ただ、ホラー読者内では一定の支持を得ていたため、社内でも話題の作品として共有はしていました。

Xでバズが起きたのはそのあとです。瞬く間に世間の人に作品の魅力が伝わり、自社はもちろん他社の編集部からも続々と書籍化のオファーが届きました。


松崎さん:サイトトップなどでに運営がおすすめとして特別な表示をしていたわけでもなかったんですよ。逆に、こういった作品の勢いは、こちらで作ろうと思ってもなかなか作れません。ある程度、自然発生的なものだと考えています。だからこそ、私たちは新たな芽が成長しやすいような土壌を常に耕し続けなければいけないんです。

「カクヨムネクスト」が叶える作家の新たな収益源

——2024年にはカクヨムの新ブランドとして、作家と売上をシェアする「カクヨムネクスト」というサブスクリプションサービス(定期購読)を開始しました。こちらも非常に好調だと聞いています。

松崎さん:はい、細かい数字は公表していないのですが、サービス開始前に設定していた年間目標を初月のうちに達成してしまい、私たちもかなり驚きました。スタートダッシュが効いただけではなく、現在もコンスタントにユーザー数が伸びていて、おかげさまでサービス単体での黒字化がそろそろ見えてきています。

——月額980円という価格には何か特別な意味があるんですか?

松崎さん:たしかに値付けは悩みましたね。もちろん、できるだけ安いほうがユーザー数は伸びる可能性があります。でも一方で、無印のカクヨムには、タダで読める作品がいくらでもあるわけで、ネクストに来てわざわざお金を払ってもらう、というときには、安さ以外の価値で差別化しないといけない。それに、私たちは作家の方々にきちんと収益を還元したい、できればカクヨムネクストでの執筆だけで食べていけるような世界線を作りたいと当初から考えていました。そのためにはきちんと作家に還元する原資を価格に織り込んでおく必要があります。そこで、様々なバランスを考慮してギリギリ3桁におさまる980円に決めました。このうち約半分が作家の収益になるため、私たちは決してボロ儲けしているわけではないんですよ(笑)。

実際、連載だけで月に100万円以上を稼ぎ出すケースも出てきていたり、「本の印税よりずっと割がいいから、安心して執筆に打ちこめます」とおっしゃってくださる作家も結構いらっしゃいます。また、紙の書籍に比べると圧倒的に損益分岐が低いので、売れ行き都合でシリーズ作品が打ち切りになるリスクも低く、作家にとっても、読者にとっても、ウィンウィンの関係を作れているんじゃないかと思います。

——ただ、Web小説のサブスクは成功のハードルが非常に高いイメージです。国内では成功した事例をまず聞きません。あえて挑戦した理由は何だったのでしょう?

松崎さん: 過去に多くの有料課金サービスがうまれては撤退していて、死屍累々という意味では、とてもチャレンジングなプロジェクトだったと思います。正直、私も最初は半信半疑でした(笑)。個人的に、紙の文芸誌の定期刊行を看取ってカクヨムに異動したこともあり、どんな著名な作家が素晴らしい作品を寄稿してくださったとしても、連載媒体の雑誌を売るのがいかに大変なことか、厳しい現実が身に染みていましたから。社内でも「こんなに本が売れない今、お金を出してわざわざWEB小説を読もうとする人が本当にいるのか」といった議論もありましたし、不安がなかったわけではありません。


松崎さん

でも一方で、カクヨムにはすでに強固なファンベースが築かれていて、熱量の高い読者さんが毎日、面白い小説を探しにサイトを訪れてきてくださっています。さらに、先ほどお話をさせていただいたカクヨムサポーターズパスポートの手ごたえから、「たとえタダで読めたとしても、好きな小説や作家のためならお金を惜しまない読者がいる」という確信も持っていました。なにより、出版社の編集者にはクオリティを担保した作品づくりのノウハウがたくさんたまっていて、才能にアクセスできる人脈も築かれている。本をめぐる陣地はどんどん狭まっていく一方だけれども、しょんぼりしているだけでは外圧に押し負けてしまいます。多少博打だったとしても、そのフィールドを少しでも押し広げていかないと未来はないし、勝機自体はきっとあるんじゃないかな、と。

石田さん:これほど無料で読める作品が溢れている中でも、読者は決して闇雲に作品を選んでいるわけではありません。自分が読みたいジャンルは何か、どの作家が好きか、といった目的がはっきりしている読者は大勢いる。

そうした特定の作品を熱心に読み続けているファンであれば、その熱量に見合う対価を有料であってもきちんと支払ってくれるはずだ、と私たちは考えていました。作家や作品に対する読者の気持ちを信じ切れたからこそ、カクヨムネクストの現在の成功につながったんだと思います。

あらゆるテキストコンテンツが集約する場へ

——カクヨムの今後の展望を教えてください。

石田さん:これは立ち上げから一貫していて、カクヨムを「あらゆるテキストコンテンツが集約する場」にしていきたいです。どんなにニッチであっても、それを書きたい人がいて、それを読みたい人がいます。自分の好きな世界を物語にできて、読者も好きなジャンルの作品に出会える。そんな誰もが表現を楽しめる場所を目指しています。


石田さん 松崎さん

――今年3月に、KADOKAWAはメディアプラットフォーム「note」を運営するnote社と資本業務提携を結びました。なにかカクヨムへの影響はありますか?

石田さん:今後もカクヨムの役割は変わりません。noteさんはエッセイや実用系に強みがあり、カクヨムは物語系IPについて一日の長があります。ヒットを生むためのデータ連携など、互いのプラットフォームの知見をいかしつつ、シナジーを生み出していけたらと考えています。

松崎さん:現在は未来の書き手への投資として「カクヨム甲子園」という高校生限定のコンテストを毎年開催していますが、今後は書き手が新たなジャンルに挑戦できる機会もより積極的に企画していきたいですね。
例えば、カクヨム10周年を記念して実施した「カクヨム10テーマ小説コンテスト」はその一つです。今後ブームになることが期待できそうな多様な10テーマ(異世界×謎解き部門、骨太ダークファンタジー部門、宿命の伴侶~生まれついての契り~部門、ホラー恋愛部門、ミステリー×アクション部門、悠々自適なソロ活部門、歴史・時代IF~もしもあのときこうだったら~部門、モブな僕らの青春部門、ポストアポカリプス部門、ルーキー部門)を設定し、作品を募集しました。

石田さん:書き手と同じく、Web小説を読む人も今後もっと増やしていきたいです。カクヨムの歴史を支え、彩っていただいた作品を選んだ「カクヨム100名作」はその入り口の一つになるのではないかと考え、今回企画しました。

Web小説を読むことがまだ一般的ではない人たちにとっても、「カクヨムで読む」という体験が物語を楽しむための入口になるよう、これからさらに多様なジャンルが次々と生まれる未来に向けて飽くなき工夫を重ね、このプラットフォームを深く、豊かに耕し続けていきます。

※本記事は、2026年6月時点の情報を基に作成しています


カクヨム100名作



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