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元ライトノベル編集者が、Mリーグの監督になって考えたこと。選手の「才能のプロデュース」と、ファンと共に歩む「サクラナイツの物語」

2026.3.18

KADOKAWAサクラナイツを率いる森井巧監督。KADOKAWAの編集者というキャリアから一転、現在はプロ麻雀チームの監督を務める、異色の経歴の持ち主です。
かつて様々なライトノベルを世に送り出してきた経験は、筋書きのない勝負の世界で、どのような新しい「物語」を紡ぎ出しているのか。監督と編集者の共通点、そしてファンの「サードプレイス」を創り出す、森井監督流のチーム運営に迫ります。

編集者と監督、二つのキャリアを貫く「プロデュース」の本質

———森井さんのこれまでのキャリアを教えてください。

大学卒業後、人材派遣会社を経て2008年に富士見書房(現KADOKAWA)へ転職しました。TRPGやカードゲームの部署を経験した後、ライトノベルレーベルの「ファンタジア文庫」を担当しました。
現場の編集者として『甘城ブリリアントパーク』や『フルメタル・パニック! アナザー』などの作品に携わっていたのですが、30歳の時に管理職(課長職)を任されることになりました。そこからマネージャー職をメインにしつつ、一部企画をやりながら、新規事業の種を探す中で出会ったのが、2018年に開幕したプロ麻雀リーグ「Mリーグ」でした。

※KADOKAWAサクラナイツの立ち上げの背景を記した前編はこちら

———現在のサクラナイツ監督としての仕事を教えてください

選手の出場オーダーの決定のほか、YouTubeの企画立案や、ファンクラブの運営、グッズ制作やイベントの企画運営、SNSの運用など、チームのプロデュース全般を担っています。
また、選手のケアも仕事の一つです。選手たちは皆成人していますし、プロなのでマイクロマネジメントが必要なわけではないのですが、例えばうちには非常に時間にルーズな選手がいたりするので(笑)、イベントなど稼働の前の細かなリマインドも私の役割です。

一方で、麻雀の技術指導については私からは一切しません。プロ同士が話し合ってより良い打牌を検証するための環境作りや、練習会のための会議室の手配など、チームがより良く進んでいくための「土台作り」が私の役目だと思っています。どういったものがお客様やファンに喜んでいただけるかを総合的に考えながら、チームの魅力を伝えていくことが私の仕事です。


麻雀牌

『サクラ牌』

発売開始から2時間足らずで完売した「【堀慎吾監修】サクラナイツ オリジナル麻雀牌『サクラ牌』」を始め、様々なグッズを企画制作
※撮影に使用している麻雀牌は試作品のため、正規品と色味やデザインに違いがある場合があります


———編集者と監督。異なる分野に見えますが、共通点やこれまでの経験が活きる場面はありますか?

編集者と監督の共通点は、「才能を世の中にどう発信するか」を考えることではないかと思います。

例えばライトノベルの場合、作家さんの頭の中にある面白い企画やストーリーを文字としてアウトプットし、イラストを添えて世に届けることで、作品としての価値を生み出します。
その過程で大事なのは、編集者自らが面白さを分析し、咀嚼して、外に発信することです。魅力を社内にプレゼンして企画を通したり、完成した本を世に送り出したりと、「才能を世の中にどう発信していくか」が編集者の役割なわけです。

麻雀プロに関しても同様です。麻雀の技術や発信力などの個々の才能を見極め、最大限に発揮できる環境を作り、その輝きを世の中に届ける。このプロセスは、編集者が作家さんと向き合うのとかなり似ていると考えています。

僕自身は麻雀のプロではありませんし、麻雀の才能もありません。編集者が超絶面白い小説を書けるわけではないのと同じです。しかし、「なぜこの選手は強いのか」「どうしたら魅力が伝わるのか」そして「Mリーグという舞台で才能を発揮できるか」――それらを常に考え、才能を探し、見つけ、プロデュースしていくことが、僕にとっての監督業だと思っています。

———そうした「才能を世に発信する」という考え方は、チーム運営にも反映されているのでしょうか。サクラナイツはオン・オフシーズン問わず、選手の露出が多い印象です。

選手からもよく言われるのですが、サクラナイツはMリーグで一番稼働の多いチームです(笑)。他のチームは選手個人で活動されることも多い中、僕らは「チーム」としてイベントや配信、グッズ販売を行っていて、オフシーズンの活動もとても多いです。

どの企画でも一番に考えているのは、選手の良さをどう引き出すかです。初期には岡田選手と堀選手の二人に踊ってもらったり、バラエティ配信やゲーム実況に挑戦したりと、とにかく試行錯誤の連続でした。

今では定着した対局の「振り返り配信」も、当時はまだ珍しかった頃からチームとしていち早く取り組みました。シーズン中は『堀慎吾の「好きに言わせろ!」』のように試合に紐づくエンターテインメントを提供し、オフシーズンはバラエティ企画で個人の魅力を伝える。そうやって一年を通じて総合的にチームの魅力を発信していくのが、サクラナイツのスタイルです。


「堀慎吾の『好きに言わせろ!』」

振り返り配信「堀慎吾の『好きに言わせろ!』」に出演する森井監督

ファンと共に物語を紡ぐ。新時代のファンビジネスの形

———ファンの皆さんとの向き合い方について、大切にしている考え方はありますか?

僕自身、もともとサッカーをはじめとしたスポーツが大好きなんです。一人のファンとして「スポーツチームにどうあってほしいか」を考えてみると、日常を彩る「プラスアルファ」のような存在であってほしいなと。試合を見て一喜一憂する、それだけでなく、ファン同士で横のつながりを持ち自分自身の「居場所」を作っていく。それこそがスポーツの醍醐味だと思っています。

そのため、サクラナイツにおいても、ファンの皆さんがつながりを持てるコミュニティの形成を大切にしています。X(旧Twitter)を活用した公式コミュニティ「桜騎士団」で実況や雑談を楽しめる場を設けているほか、パブリックビューイングやリアルイベントを定期的に開催して、選手とファンが共に楽しめる空間を提供しています。
仕事場でも家でもない、第3の居場所である「サードプレイス」が、今の時代にすごく求められているんじゃないかと思います。これからも、この温かなつながりをどんどん広げていきたいですね。


パブリックビューイング会場

ファンと選手らが集うパブリックビューイング会場(サクラナイツ公式Xより)

———監督にとって、サクラナイツというチームはどのような存在ですか?

Mリーグの一ファンが立ち上げたサクラナイツは、今日まで多くのファンの皆さんと共に歩み、支えられてきたチームだと思っています。選手たちの人柄のおかげか、ファンも優しい方が多くて、皆さんの愛を感じています。そんなファンに、僕らも最大限のお返しをしていきたい。応援に報いる一番の形は、やはり試合で「結果」を残すことだと考えています。だからこそ、今シーズンのここまでのチームの「結果」は非常に辛いものであるのは間違いありません。とはいえ、可能性がある限り、最後まで闘い続けたいと思います。

———最後に、今後の「サクラナイツの物語」の展望を教えてください。

麻雀もチームスポーツも、何が起こるか分からないからこそ、これほどまでに興奮し、面白いのだと思います。そこには当然、喜びだけでなく、痛みや葛藤を伴うこともあります。でも、そのすべてをファンという仲間と一緒に分かち合い、ワクワク・ドキドキできるチームであり続けたいと思っています。

サクラナイツという物語は、僕ら運営だけで作るものではなく、ファンと一緒に紡いでいくものです。かつて編集者として作家さんと読者の皆さんと作品を作ったように、今は選手とファンの皆さんと一緒に、このチームの歴史を創っていく。そのために、僕自身が誰よりもサクラナイツのファンであり続け、ファンの目線で歩み続けること。それこそが、僕が監督として全うすべき役割なのだと信じています。

※本記事は、2026年3月時点の情報を基に作成しています



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