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KADOKAWAがなぜ「麻雀」の世界へ? 元編集者の監督が語る、Mリーグ参戦の狙いと新時代のIP戦略

2026.3.18

2018年の発足以来、麻雀のイメージを大きく塗り替えてきたナショナルプロリーグ「Mリーグ」。かつての麻雀の「ギャンブル、タバコ」といったアンダーグラウンドなイメージとは一線を画し、洗練された競技環境と華やかな演出、そして個性豊かなトッププロたちが織りなす熱いチーム戦は、世代や性別を問わず熱狂的な支持を集めています。

このリーグに、KADOKAWAは2019年より「KADOKAWAサクラナイツ」として加わり、参入以来、書籍・映像・SNSなどを通じた多角的な情報発信やオリジナルコンテンツの提供など、コンテンツメーカーとしてのノウハウを活かしたチーム運営を続けてきました。参戦7年目となる今シーズンは、選手の入れ替えという大きな決断を経て、新体制のもとで新たな「サクラナイツの物語」を紡いでいます。

なぜ、総合エンターテインメント企業であるKADOKAWAが、この勝負の世界へ身を投じたのか。そこには、単なる広告宣伝を超えた「新たなIP創出」への挑戦がありました。
同チームの監督を務めるのは、『甘城ブリリアントパーク』『フルメタル・パニック! アナザー』などのヒット作を手がけてきた編集者としてのキャリアを持ち、現在はその知見をチーム運営に注ぐKADOKAWA社員・森井巧さん。参入の舞台裏や、Mリーグにかける思い、そして自社の多彩なリソースを武器にKADOKAWAが仕掛ける「新時代のIP戦略」の展望を、森井監督へのインタビューを通して深掘りします。


森井巧さん

KADOKAWAサクラナイツ監督・森井巧さん(ブランドプロモーショングループ Mリーグ運営室 室長)


参入のきっかけは一人の勇気と一通のメール

———はじめに、KADOKAWAサクラナイツの概要と、チームの特徴についてお聞かせください。

KADOKAWAサクラナイツは、2019年にMリーグへ参入したチームです。2021-22シーズンには優勝を果たすことができました。

チームには、タレントとしても活躍し圧倒的な発信力を誇る岡田紗佳選手をはじめ、“至高の読み”と独自の感性で勝利を積み重ねる“天才”こと堀慎吾選手、緻密なロジックと明快な解説でファンを魅了する“魔神”こと渋川難波選手、そして今期から加わった最年少Mリーガーであり、若き爆発力を秘めたルーキー阿久津翔太選手という、多様な強みを持つ4名が揃っています。平均年齢は35歳と現在のMリーグ全10チームの中で最も若く、その瑞々しい感性と挑戦的な姿勢も、サクラナイツを象徴する大きな特徴です。

———Mリーグ参入の背景には、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

きっかけは、私個人の体験からでした。
2018年にMリーグが発足した当初から、「これは新しいトレンドになる」という直感があり、自らも一ファンとしてイベントへ足を運んでいたのです。

転機となったのは、2018シーズンの最終戦でした。自身がサイバーエージェントのチーム「渋谷ABEMAS」のファンだったのでパブリックビューイングの会場にいた時に、Mリーグのチェアマンである藤田晋さんをお見かけしたんです。その場で、面識もないまま名刺を持ってご挨拶に行き、「KADOKAWAとしてなにかMリーグに携わることができれば」とお伝えしました。その時は、公式ガイドブックの制作など、出版分野で関われたら……というくらいの思いでした。

すると、2週間ほど経ったころに、藤田さんから一通のメールが届き、「Mリーグのチームを持ってみませんか」と。ほとんど接点がなかったにもかかわらず、そのようなお話をいただけたことに深いご縁を感じましたし、何よりも「これはエキサイティングで面白いことになる」と感じました。

出版社からMリーグに参入している企業はなかったですし、このタイミングで参画すれば、新しいビジネスチャンスを掴めるのではと、スピード感をもって社内で提案・推進していきました。


パブリックビューイング(2018年)

監督になる前、ファンとして通ったパブリックビューイング(2018年)


沢崎誠さん、内川幸太郎さん、岡田紗佳さん

創設当初のKADOKAWAサクラナイツ(左から、沢崎誠さん、内川幸太郎さん、岡田紗佳さん)

KADOKAWAが見出した「ライブエンタメ」の可能性

———新規事業としてMリーグ参入を社内提案するにあたり、どのような点に将来性を見出していましたか?

一つは、Mリーグがもたらした麻雀の「リブランディング」です。アンダーグラウンドなイメージが強かった麻雀を、Mリーグが「頭脳スポーツ」という新しい枠組みで再定義した点に、ビジネスチャンスを感じました。

もう一つは、「ライブエンターテインメント」である点です。KADOKAWAの主力である書籍やアニメは、人気が高い一方で、いつでも楽しめる「ストック型」のコンテンツです。「積読」という言葉もあるように、いつでも読めるからこそ消費が後回しにされやすい側面もあります。対して、Mリーグのようなライブエンタメは、「今、この瞬間しか見られない」という特別な価値があり、人間の本能的な没入感を引き出す力があります。これはKADOKAWAがあまり開拓できていなかった領域でもあり、ここにもチャンスがあると感じました。

———現場の一社員による提案から参入決定に至るまでの意思決定のプロセスや、当時の社内の反応はいかがでしたか?

正直に言えば、最初は「なぜKADOKAWAが麻雀なのか」という慎重な意見が少なくありませんでした。しかし、Mリーグがすでに具体的な事業モデルを確立していたことに加え、「ライブエンタメ」の可能性がKADOKAWAのビジョンと合致したこともあってか、最終的には非常に短い期間で参入の承認が下りたのです。

当時の経営陣からも「面白いじゃないか、やってみなよ」と背中を押していただきました。30代半ばの一社員による提案を、これだけのスピードで形にできたのは、KADOKAWAの度量の深さであり、挑戦を許容する文化があったからこそだと改めて実感しています。


森井巧さん

コンテンツメーカーとしてのノウハウを業界へ還元

———参入後、KADOKAWAだからこそ果たせた役割とはなんでしょうか?

大きく分けて二つあります。まず一つは、出版社としての貢献です。参入当時はリーグ公式のガイドブックがなかったため、KADOKAWAの編集リソースを活かして、選手や競技の魅力を深掘りするガイドブックを毎年発行してきました。

現在はチームの枠を超え、他チームの選手の書籍や初心者向けの入門書なども積極的に出版しています。プロ雀士の多面的な魅力を伝えられることや、Mリーグを入口に麻雀を知った方に向けた書籍の拡充は、リーグ全体のファン層拡大や熱量を高める一助になれているのではないかと感じています。


麻雀関連本

毎年恒例となったガイドブックから、戦術書、プロ雀士のエッセイまで、手掛ける麻雀関連本は多岐にわたる

もう一つは、総合エンターテインメント企業としての「エンタメ麻雀」への挑戦です。
通常、麻雀プロが対局中に話しながら麻雀をする機会は、公式戦ではほぼありません。そこで、あえて「トラッシュトーク(軽口)」を交えながら打つ、「サクラナイツ最強決定戦」というチーム内対局イベントを企画し、配信しました。チームの仲の良さだけでなく、普段のMリーグとは一味違う、ユニークで見応えのある麻雀の世界をファンに提供できたと思っていて、今では僕らの人気企画の一つになりました。

このほか、他のチームと組んだタッグマッチや、対局中のNG項目を設けた「インディアン麻雀」など、新しい企画をどんどん生み出しています。これが選手の個性や魅力を知るきっかけとなり、一人ひとりにファンがつく「推し活」に繋がり始めていると考えています。


サクラナイツ最強決定戦2023

「神回」「麻雀史上一番笑った」とのコメントが相次いだ「サクラナイツ最強決定戦2023」


推し活グッズ

イベントには推し活グッズを持参するファンも多い(広報撮影)

独自のコンテンツ戦略やブランディングが実を結び、他企業からコラボレーションのお声がけをいただく機会も増えました。ファッションセンターしまむら様やローソン様からオファーをいただき、全国の店舗にサクラナイツのグッズが並んだことは印象的な出来事でした。これまで限られた層に親しまれてきた麻雀を、コンビニなど一般の方々が日常的に訪れる場に広げられたのは、僕の想像を超えて、Mリーグやサクラナイツが世の中に受け入れられ始めている証拠だと感じています。

初心者に寄り添い、共に歩む「ファミリー」のようなチーム

———サクラナイツは「麻雀初心者にやさしいチーム」として、新規ファンを巻き込んでいる印象があります。

まさに「間口を広げること」を大切にしています。選手のメディアでの活躍をきっかけに興味を持ってくださった方々、特に「麻雀を打たない、あるいは始めたばかり」の方々が、麻雀やチームの魅力にも自然に気づけるような接点作りを意識しています。

実際のところ、サクラナイツのファン層は麻雀初心者の方が非常に多く、昨夏に雀荘で実施した「サクラナイツサマーフェス」では参加者の半分以上が初心者でした。プロと打つ機会があっても、点数計算ができなければ躊躇してしまいますよね。そこでイベントでは「初心者カード」を用意するなど、誰もが安心して参加できる工夫をしています。

———既存のファン層に閉じるのではなく、常に新しい風を呼び込んでいるのですね。

そうですね。新しく興味を持った方々が「サクラナイツはファミリー感があって居心地が良い」と感じてもらえるような、温かいコミュニティを意図的に創り出しています。単に競技としての麻雀を見せるだけでなく、選手一人ひとりの個性を知ってもらうことで、長く愛されるチームを目指しています。


集合写真

サクラナイツサマーフェス2025(KADOKAWAサクラナイツ公式Xより)

次世代へ繋ぐ「サクラナイツ」という物語

———今後、KADOKAWAとして麻雀をどう展開・発信していきたいですか?

一つは、「体験価値」の進化です。これまでは配信視聴が中心でしたが、今後はプロスポーツのように現場で熱狂し、グッズや飲食も楽しむ「体験型エンタメ」としての深みを追求したいと考えています。グループ全体で連携を強め、チームの価値をさらに高めるフェーズへと転換していきたいです。

もう一つは、若い世代への普及です。若い世代に麻雀の楽しさや「頭脳スポーツ」であることを伝えていく機会を創出していきたいと考えています。先日も、N高等学校グループの生徒たちに向けて、阿久津翔太選手が直接麻雀を教える講習会を実施しました。こうしたリアルな接点を作り、次世代のファンやプレイヤーを育んでいくことも、教育事業を手がけるKADOKAWAとして果たしていきたい役割の一つだと考えています。

※後編記事はこちらをご覧ください。
元ライトノベル編集者が、Mリーグの監督になって考えたこと。選手の「才能のプロデュース」と、ファンと共に歩む「サクラナイツの物語」

※本記事は、2026年3月時点の情報を基に作成しています



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