「福祉ではなく、事業を創る」 クリエイターのクリエイティビティを促進する、角川クラフト コーヒー事業の魅力
KADOKAWAグループの特例子会社(※)として、2019年に設立された角川クラフト。同社が製造・販売するコーヒーは、その質の高さが評判となっています。KADOKAWAのIPとの連携やクリエイターとのコラボ商品も手がけ、KADOKAWAの株主優待ポイントと引き換えができる特別アレンジ商品は高い人気を誇ります。
※企業グループの障がい者雇用促進と安定を目的として設立される子会社
同社は特例子会社単体で黒字化に成功している企業でもあります。
このコーヒーを製造しているのは、障がいのある従業員の皆さん。どのようにして高品質のコーヒーをつくり続け、利益を創出しているのか。角川クラフトのコーヒーの美味しさの秘密と、その経営スタイルについて、代表取締役社長の河田聡さん、事業企画部の岩井雄生さんに話を聞きました。
左から、角川クラフト 事業企画部の岩井雄生さんと代表取締役社長の河田聡さん
コーヒー事業を始めた理由とは? 障がい者が活躍する黒字経営の特例子会社を目指して
——はじめに、角川クラフトの事業内容と組織について教えてください。
河田さん:角川クラフトは、KADOKAWAグループの特例子会社として、コーヒー事業、地域密着型の児童クラブ事業、そしてグループ各社の業務支援という3つの事業を展開しています。
コーヒー事業では、角川クラフト東所沢焙煎所でのコーヒー豆の焙煎・パッケージングをはじめ、オンライン販売を展開しています。また、東所沢のカフェ「KADOKAWA CRAFT ROASTERY&CAFE」や、ところざわサクラタウンへスクーリングに通うN高グループ生徒およびKADOKAWAグループ従業員向けカフェの運営も行っています。
ところざわサクラタウン内のN高グループ生徒 / KADOKAWAグループ従業員向けカフェ
クリエイターやIPとコラボレーションした特別なブレンドコーヒーをつくり、販売することもあります。
岩井さん:現在の従業員数は55名。そのうち障がいのある方は42名(うち重度14名)で、法定雇用率を上回っている(※)状況です。
※2025年12月末時点
——特例子会社の事業として、「コーヒー」に着目したのはなぜでしょうか?
河田さん:特例子会社を立ち上げるにあたり、事業として成立させるべきだという強い信念を持っていました。設立当初から、単独で黒字化することを目指したのです。
角川クラフト単独で事業展開するために導き出したひとつの答えが、コーヒーです。
コーヒーの特長は、人の手を介して優れた商品を生み出せること。質の高いコーヒー豆をつくるには機械では完結しきれず、異物や欠けた豆を人の手で選別するピッキング作業が必須になります。機械ができる仕事を人手に置き換えるのではなく、人の手によってこそ生み出される付加価値に、着目した次第です。
出版や映像など、エンタメ関連事業との親和性も高いと考えました。コーヒーは昔から編集者やクリエイターに親しまれてきた飲み物です。クリエイターが角川クラフトのコーヒーを気に入り、それが作品のインスピレーションとなり、作品づくりのお手伝いができるのではないか、というストーリー性を重視しました。ストーリー性がなければ、サステナブルな事業になりにくいと思うのです。
そして、コーヒー豆は基本的に劣化しにくいため、在庫を持っても経営への影響が少ないというメリットもあります。こうした背景から高品質なコーヒーを焙煎し始めて6年目になり、今では年間の焙煎量は7トンを超え、黒字化も達成しました。
障がいのある従業員がコーヒーの「品質の要」を担う
——角川クラフトならではの強みや、品質へのこだわりを教えてください。
河田さん:最大の強みは、先ほど挙げた「手仕事」による徹底した品質管理です。
コーヒー豆は農産物であり、海外から輸入される際、コーヒー豆が入った麻袋の中に石や虫、衣服の断片やボタンなど、異物が混入していることが少なくありません。日本に到着した段階で、一度すべて手作業で異物を取り除く作業が必要です。
この選別作業が、角川クラフトの品質の要です。
コーヒー豆を大量生産する場合は異物も含めてそのまま焙煎してしまうケースがありますが、手による選別を行うことで、コーヒーの味が段違いに向上するんです。
コーヒー豆に混在する異物の見本
——品質を決める大切な工程を、障がいのある方が担当されているのですね。
河田さん:もちろん個人差はありますが、角川クラフトの従業員は、高い集中力を保ちながら終始一貫粘り強く作業に取り組むことを得意としています。
この特性を活かし、通常の作業では困難とされる長時間かつ丹念な作業を要する現場で真価を発揮して、1日5〜6時間、とても丁寧な選別作業を行っていただいています。
コーヒ豆の選別の様子。石や虫、金属片、衣服のボタンなどの異物が混入した状態で輸入される。これを手作業で除くことで、雑味のない高品質なコーヒーになる
選別作業は、焙煎前と焙煎後の合計2回行います。焙煎前に異物を取り除き、焙煎後は焦げたり欠けたりした豆を除くことで、味のばらつきや雑味を防げるのです。
私自身もこの選別作業をしたことがあるのですが、30分もすれば飽きてしまい集中力が保てませんでした。しかし、この選別作業に高い適性を持つ従業員は集中力を維持し、質の高い仕事をしてくれます。
——各従業員の方の能力や習熟度に合わせて、より高度な作業にも挑戦される機会はあるのでしょうか?
河田さん:はじめは基礎的な業務となるコーヒー豆の選別作業からスタートし、慣れてきたら、パッケージ作業、販売、カフェ対応、そして焙煎作業へとステップアップしていきます。一人ひとりの特性や能力に応じて、担当業務を決めています。
中でも焙煎士になることは、従業員にとって「機械を使いこなせるのはかっこいい」という憧れがあり、働くモチベーションにつながっているようです。東所沢焙煎所の焙煎機は、多いときで1日20回以上稼働することも。従業員が焙煎機を使いこなし、作業内容をノートに記録して管理しています。
東所沢焙煎所の焙煎機を動かす焙煎士
東所沢焙煎所では、安全で扱いやすい特別な焙煎機を導入し、社内資格取得者が操作している
さらには複数の産地のコーヒーをブレンドして、季節限定のブレンドコーヒーをつくる従業員もいます。その他、カフェの接客・店舗づくりに加え、実はパッケージのデザインも障がいのある従業員がそれぞれ担っています。一人ひとりが、できることや得意なことで事業に貢献しているのです。
人気商品のひとつ「東所澤ブレンド」。コーヒー豆の焙煎とパッケージ作業に加え、包装のデザインも従業員が担っている。こちらは人間が愛らしいペンギンに置き換わっているユニークな絵が特徴で、作家活動もされているペンネーム「こっけ」さんのイラスト
カフェ「KADOKAWA CRAFT ROASTERY&CAFE」には近隣のお客様が次々と来店し、店内でゆっくり過ごしていた
日本では、自分が得意なことをわからないまま就職する人が多いのではないかと感じています。障がいのある方が、幼少期から「ここまでできれば十分」と線引きされ、能力や可能性を十分に見出せないまま大人になってしまうのは避けなければなりません。
そこで、当社では従業員が自身の可能性を見つけられるよう、「まずやってみる。もし難しければ、他の業務を担当すればいい」というスタンスで、さまざまな仕事に挑戦できる環境を用意しています。一人ひとりが適材適所で活躍できる組織づくりで、従業員の定着率も高くなっています。
——報酬制度はどのようになっていますか?
河田さん:角川クラフトは、一般的な就労継続支援A型・B型事業所(※)とは一線を画しています。我々は障害のあるなしに関わらず、従業員のモチベーションを高めるために、出来ることに対してしっかり評価していきたいと考えています。
※就労継続支援A型・B型事業所:障害や難病のある方が働く機会を提供するための障害福祉サービス
この考えに基づき、一人ひとりのアウトプットに対する評価を重視しています。アウトプットが出ないときも一定の保証はありますが、会社の業績と個人の貢献度によって賞与を支給する仕組みも設けているのです。
さらに、資格取得に対する報酬制度も用意しています。いわゆる一般的な会社の資格取得よりは間口を広くとっていて、コーヒーマイスター検定から防火防災管理者といった講習で済むもの、ビジネス検定といった一般的なものまで幅広く対象にしています。
当社のスタッフの中からバリスタやコーヒーマイスターが生まれてくれることは、大きな励みになることでもあるので、当社としては積極的に応援することにしています。
岩井さん:当社はグループの障がい者雇用を推進する会社ではありますが、働くために必要な配慮事項や制度内容を充実させている他は一般的な企業就労と変わりなく、報酬制度にも反映させています。
KADOKAWAグループの基幹事業のひとつを生み出すために、障がい者を雇用し、能力を発揮してもらい、正当な報酬を支払っています。
雇用主は従業員に期待し、従業員は会社に貢献する。この双方向の関係性が成立しているのが、角川クラフトの大きな特徴です。
冷めても美味しい角川クラフトのコーヒー。
多様なクリエイターと共創するKADOKAWAならではのストーリー性を生み出す
——KADOKAWAグループの強みである、IPとのコラボレーションもされていると伺いました。
河田さん:コーヒーは出版・映像など、エンタメ関連の事業との親和性も高いことから、さまざまなコラボレーションが実現しています。
具体的な事例として、ところざわサクラタウンで2025年の夏に開催された「パンダコパンダ展」では会場限定のドリップパックコーヒーを販売しました。
写真提供:ウォーカープラス
また、小説家の伊坂幸太郎さんによる大人気「殺し屋」シリーズ最新刊『777 トリプルセブン』発売に合わせて、伊坂さんと一緒につくったオリジナルブレンドコーヒー『伊坂幸太郎監修 777ブレンド珈琲』も好評でした。
そのほか、毎年行われる日比谷音楽祭において、音楽プロデューサーの亀田誠治さんと、毎年オリジナルブレンドを制作し、出演アーティストへ振舞われたり、音楽祭のクラウドファンディングに活用されています。また、KADOKAWAサクラナイツ(※)の各メンバーのオリジナルブレンドや、ゲーム「ペルソナ」イベント向けコラボブレンド、文楽の「切場語り」の名手「豊竹若太夫師匠襲名披露記念オリジナルブレンド」など、現在も続々と、いろいろなクリエイター・アーティストの方からのコラボ企画の依頼が入っています。
※KADOKAWAサクラナイツ:KADOKAWAをオーナー企業とするプロ麻雀のチーム対抗戦リーグ「Mリーグ」に所属するチーム。
角川クラフトは、「冷めても美味しいコーヒー」というコンセプトを意識して従業員がブレンドを開発しています。これは、クリエイターが執筆や創作に集中している間にコーヒーが冷めてしまうことを想定し、冷めても酸っぱくならず美味しく飲めるように意識しているんです。このように、多様なクリエイターと共創する総合エンターテインメント企業であるKADOKAWA×コーヒーならではのストーリー性があるところも、KADOKAWAグループの従業員の皆さんや、お客様から支持されている理由のひとつとなっています。
また、角川クラフトの従業員にとっては、自分が関わった商品がファンに喜ばれ、「人に見える仕事」となることが、働く意欲や自己肯定感につながっています。
あたりまえに、混ざり合う。障がい者雇用が自然なことになる未来を目指して
——今後の展望をお聞かせください。
河田さん:角川クラフトは初期の事業計画を達成し、想定を上回るスピードで成長しています。令和7年度の埼玉県障害者雇用優良事業所にも選出され、地域から認められる存在にもなりました。ただ、まだやるべきことは多いと考えています。
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 理事長努力賞を受賞
岩井さん:障がいのある従業員が、今後さらに社会に価値を届ける存在として活躍してもらいたいと考えています。
河田さん:事業モデルの横展開も進め、角川クラフトと同じように事業収益と社会貢献を両立させる会社を日本に増やしていきたいです。
他社もさまざまな工夫をこらして障がい者雇用を推進していますが、どれが正解ということはまったくありません。各社の工夫や成功事例が共有されて、障がい者がよりモチベーション高く、能力を十分に発揮し活躍できる仕組みが必要だと感じています。
そしていつの日か、障がいの有無に関わらず、働きたい人が必要とされる場所で働いて、ビジネスを成立させる世の中になっていくと良いと思います。
※本記事は、2026年1月時点の情報を基に作成しています