原作35周年記念『スレイヤーズ』大規模展レポート──ファンに愛され続けるIPの魅力を再発見
1989年に連載を開始し、1990年に富士見ファンタジア文庫からシリーズ1作目『スレイヤーズ!』※ (著:神坂一 イラスト:あらいずみるい)が刊行されてから35年。
魔術や剣、さまざまな種族(魔族やドラゴン、エルフなど)が登場するファンタジー定番設定の中で、原作者・神坂一先生が描くシリアスとギャグの絶妙なさじ加減に、イラストレーター・あらいずみるい先生が拡大したキャラクターや魅力あふれる世界観は、他に類を見ません。
※リンク先は、新装版『スレイヤーズ 1』商品ページです。
”ライトノベル”ジャンル確立以前に人気を博した『スレイヤーズ』シリーズは、小説だけに留まらず、TVアニメ、OVA(オリジナルビデオアニメ)、劇場版、TVゲームと、今では当たり前となったメディアミックス展開を拡大し、90年代後半を代表するタイトルのひとつになりました。
多くのファンを惹きつけた魅力は衰えることなく、シリーズ関連書籍の累計部数は電子書籍を含め2,200万部を突破(2025年1月現在)。2025年3月にも新刊『スレイヤーズ すぴりっと。』が刊行されるなど、35周年を迎えた今日まで愛され続けています。
このアニバーサリーイヤーに、『スレイヤーズ』シリーズ初となる大規模展示会「原作35周年記念 スレイヤーズ展~ごぅずおん~」を東京・ソラマチにて開催しました(会期:2025年9月13日~28日)。本記事では、長きにわたりファンの心をつかんで離さない『スレイヤーズ』の魅力に迫ると共に、展示会の様子をレポートします!
■ファンの期待、プロデューサーの熱量――愛のぶつかりあい
会期前日・9月12日(金)の内覧会へ参加できるなどの豪華特典がついた「ぷれみあむチケット」(35,000円/税込)は抽選開始と同時に予想を上回る反響ぶりで、内覧会当日は平日昼にもかかわらず、数百人を超えるファンの方々が列を作りました。「遠方から来ました」という方や「明日も来ます!」という方も。会期初日から3日間は時間帯指定チケット制で、こちらも早々に完売枠が出るなど、期待の高さがうかがえました。

展示会プロデューサーの岡 夏希さん(KADOKAWA レクリエーション事業局 イベント事業部)は、ファンの熱量に圧倒されながら「多種多様な楽しみ方がある『スレイヤーズ』の展示のため、”解釈違い”などのご批判も覚悟していたのですが、『よくわかっている』など嬉しいお声掛けを非常に多くいただき、喜ぶ前に驚いてしまうほどでした!」と語ります。
スタッフ一同、なみなみならぬ『スレイヤーズ』愛を原動力に、こだわりのゾーニングや施策を企画。その想いは展示全体に色濃く反映されています。
岡さん「展示デザインを詰めていく上でまず考えたのは、ライトノベルの金字塔たる『スレイヤーズ』初の大規模展示にふさわしいのはどのようなものか、でした」
”原作35周年”にこだわり、「小説」という要素が強く感じられる展示に仕上がっています。
■35年の歴史をまずはおさらい
会場内は12のエリアに分かれており、さまざまな『スレイヤーズ』の魅力を体感できます。
入場してすぐに「導入~スレイヤーズ35年の歩み~」エリアが出迎えてくれました。
1989年から2025年までの年表をたどりつつ、ちりばめられた『スレイヤーズ』らしさ全開のワードたちに早速ファン心をくすぐられます…。


『スレイヤーズ』は2000年に15巻で二部からなる長編が完結。2018年からは〈第三部〉がスタートし、ファンを歓喜の渦に巻き込みました。現在17巻まで刊行されています。
2025年3月には、35周年を記念した短編集『スレイヤーズ すぴりっと。』が13年ぶりに発売!外伝・短編集は、この新刊でなんと36巻目。『スレイヤーズ』の勢いは、令和になっても増すばかりです。

最新のテクノロジーが活用された展示も。
「ライブエリア」では、”美少女天才魔道士”こと主人公・リナ=インバースが歌って踊る3Dライブの映像を見ることができ、30周年記念楽曲やTVアニメでおなじみの楽曲も聴けました!

■『スレイヤーズ』の世界へさらに没入
続く「スレイヤーズとは」エリアからは、『スレイヤーズ』が愛され続け、時代に求められた軌跡をうかがい知ることができます。

すべてのはじまりは「富士見ファンタジア文庫」から。新旧の書影が並んでいるのも圧巻です!

「ドラゴンマガジン」の表紙を飾った回数の多さにも、歴史を感じますね。

■物語を振り返る
「長編エリア」では、ギャグありシリアスありの冒険譚と、魅力たっぷりのキャラクターたちが迫ってきます。神坂先生&あらいずみ先生の最高コンビが作り上げてきた”厚み”を感じます。
岡さんが熱っぽく語ります。
「やはり神坂先生の文章×あらいずみ先生の挿絵=最強というのは揺るがない方程式です!」
きちんと文字を読める展示にすること、書影を楽しめる展示にすること。挿絵をたくさん使用した点もこだわりのポイントとのこと。
長編1冊ずつの書影やあらすじ、先生のコメントがパネル展示されています。


ボークス社のフィギュアシリーズ「キャラグミン」や、「ドラゴンマガジン35周年記念号」でコスプレイヤー・えなこさんが着用したというリナの衣装と、「光の剣」の立体展示も嬉しい!




第一部から第三部まで、思わずニヤニヤしてしまうシーンや、涙なしでは思い返せないシーンまでがよみがえります……。再読したくなること間違いなしです。
軽快なギャグの印象が強い「短編エリア」には、最新刊の表紙イラストが、ドドンと展示されています。

ナーガと○○がついに共演していたり、行方知れずだったあのキャラクターが登場していたり……。最新刊を未読の方は今すぐにチェックすべし!です。


書籍の背表紙を模したパネルにも注目。
■生みの親の愛と、愛に育まれたキャラクターたち
続いては『スレイヤーズ』生みの親・神坂一先生&あらいずみるい先生の展示エリアへ。仕事部屋(再現)を覗いていきます。

神坂先生エリアには、今では知らない人が多いかもしれない家庭用ワープロ機とフロッピーディスク、そして校正中のテキストが置かれています。
フロッピーディスクの中には、本物の原稿データが入っているそうです!

あらいずみ先生エリアにも、数々のアイテムが並んでいます。
イラスト原稿に使用するスクリーントーンやカラーインクなど、こちらも今や貴重かもしれません。

先生方の愛が結集したキャラクターたちが「キャラクターエリア」で待っています!

不意打ちの竜破斬!
ルビがなくともドラグ・スレイブと読める人が多いのではないでしょうか?
”――黄昏よりも昏きもの、血の流れより紅きもの……”
そらで呪文の詠唱が出来る人も多そうです。
背後に近づいてみると……。

『スレイヤーズ』と言えばの擬音が並んでいます!
背表紙を追っていくと、さまざまな魔術の名前も。「火炎球」や「烈閃槍」に「地撃衝雷」……。漢字だけなのに読める……!
岡さん「作品初の展示ということで、根幹にして最大の魅力である2つの要素の合体を、空間で表現したいと思っていました。神坂先生特有の呪文や擬音に囲まれた部屋に、堂々と佇むあらいずみ先生描きおろしのリナたち。まさしく『スレイヤーズ』という演出ができたのではないでしょうか」
■美麗イラスト群から感じる『スレイヤーズ』のひろがり
続いて、雰囲気が一変する「イラスト展示エリア」へ。
「いかにノイズを減らし、先生の絵に集中してもらえるか」を追求したとのこと。




時代と共に進化し続ける、あらいずみ作品がずらり!
シリアスからコミカル、カラーやセル画、モノクロ原稿に至るまで、現物の味を再現した複製原画が並んでいます。


貴重すぎる原画の展示も!



手法を凝らしたカラーの表現や、ホワイトの痕などは、原画ならでは。
あらいずみ先生からの”鑑賞のヒント”や”コメント”が書かれており、細部に至るまで愛ゆえのこだわりをひしひしと感じます。
シリーズ10代目の編集者を務める林 颯平さん(KADOKAWA ライトノベル/新文芸局 ファンタジア文庫編集部)は、「あらいずみ先生の画風や制作方法が、時代に合わせて変化しつづけていることへの反響も多く見られました」と振り返ります。
林さん「時代を超えて愛され続ける神坂先生の物語に、時代に合わせて進化し続けるあらいずみ先生のイラスト。『スレイヤーズ』を支える両軸を、ファンの皆さまが再確認する機会となった今回のイベントは、今後10年先、20年先と、たとえ時代に変化があっても、『スレイヤーズ』を推し続けようと思っていただける機会になったと考えています」
続く「アニメエリア」では、アニメ作品の紹介に加え、キャスト陣のコメント付きサインが展示されていました。
声優の皆さんにも深く愛されている『スレイヤーズ』を実感します……!
■リナに会えるコーナー&音声ガイド
会場の最後では、「リナMRグリーティング」が体験できました(500円)。
令和の魔術で、目の前にリナが出現。
小柄な体から元気いっぱいのオーラが弾ける様は、まさに原作通り!!
目の前で笑って喋るリナに、感動のあまり涙腺がゆるみます。思わず手を伸ばしてしまう方もたくさん見かけました。
展示はここまで。
じっくり堪能しているうちに、気づけば2時間、3時間があっという間に過ぎていました。
■展示の余韻を持ち帰る”グッズコーナー”
最後にはグッズコーナーも設けられており、展示の余韻をそのまま楽しめます。お気に入りの場面やキャラクターを振り返りながら選べるのも、このイベントならではの体験です。




■まだまだ”ごぅずおん”していく『スレイヤーズ』
展示会初日の夜には、原作者&TVアニメキャスト陣による対談が行われました。
その模様は、展示会公式図録に収録される予定です。
(詳細は、公式サイトや公式Xをご確認ください)
会期中、「実は昔スレイヤーズ関連の仕事をしていた」という方など、関係者もたくさん駆けつけてくださったとか。「作品の歴史の長さと皆様の愛を肌で感じました」と岡さんは頷きます。
岡さん「『スレイヤーズ』は、ファンはもちろん、関係者からも非常に大切にされている作品であると実感しました。弊社メンバーや共催の東映さま、アニメ・劇場版製作委員会の皆さまだけでなく、音声ガイドや座談会収録をご快諾いただいた声優の皆さままで、『スレイヤーズ』に関わることを心から楽しんでおられ、その熱に背中を押されながら私も邁進してきました。何よりも『スレイヤーズ』やそのファンのためであれば、どんな労力も惜しまない神坂先生&あらいずみ先生の姿勢が、皆の心を掴んで離さないのでしょう」
最後に、『スレイヤーズ』が出版やアニメを軸に長く愛されてきたことを踏まえ、KADOKAWAが掲げる「IPのLTV(Life Time Value)最大化」を体現する好例として、今回のイベントがどのような役割を果たしているのか、編集長の林さんにお聞きました。
林さん 「今回は35周年の節目を祝うだけでなく、近年の『スレイヤーズ』の動きを改めてまとめ直すことで、“昔好きだった作品”から“まだまだ新しい供給のある作品”へと印象をアップデートしていただく狙いもありました。その意味でも、イベントは作品への関心を再燃させるきっかけとなり、“体験”というファンとの直接の接点を提供することで、新しい楽しみ方を広げる大切な場になっていると思います。これからも進化を止めずファンを惹きつけ続けることで、まさにKADOKAWAが目指す『IPのLTV最大化』を体現していきたいと考えています」
現在、日本全国への巡回展も鋭意準備中とのこと。
『スレイヤーズ』は、まだまだ”ごぅずおん”していきそうです!
※本記事は、2025年10月時点の情報を基に作成しています