企業と地域と参加者が育んだ街ぐるみの祭典「池袋ハロウィンコスプレフェス」はいかにして生まれたのか
池袋の街を舞台にした日本最大級のハロウィンコスプレイベント「池袋ハロウィンコスプレフェス(以下、池ハロ)」が、今年も10月30日(金)〜11月1日(日)の3日間にわたって開催されます。
好きなキャラクターになりきって楽しむコスプレ。池ハロはそんなコスプレの魅力を体験・発信できるハロウィンイベントとして2014年からスタートし、昨年は雨に見舞われながらものべ16万人以上が来場するほど大盛況でした。
池ハロの特徴は何と言っても、公共の場、それも屋外で気兼ねなく思い切りコスプレを楽しめるところにあります。池袋駅の東側、東西約1kmにおよぶ広大なエリアが会場に指定され、中池袋公園のメインステージで繰り広げられる多彩なプログラムや、400名ものコスプレイヤーが街を練り歩くパレードなど、コスプレをせずとも楽しめるコンテンツが満載。そんなエンタメ性の高さに加え、「コスプレをしたままの来場・退場は厳禁(着替えは必ず指定の更衣室で)」など参加ルールを明確に規定することで、秩序と節度のある安心・安全なハロウィンコスプレイベントとして街に定着しました。
マンガやアニメ、ゲームのキャラクターに扮した人たちが街を埋めるという非日常の景色を作り上げるには、たくさんの方々の理解や協力が不可欠なのは言うまでもありません。ここでは、池ハロの立ち上げメンバーのひとりであるKADOKAWAグループ子会社「ドワンゴ」の橋口雄樹さん、池袋を拠点にアニメ文化を牽引してきた「アニメイト」の小山幸男さん、同じくアニメイトグループで独自のコスプレイベントを企画運営する「ハコスタ」の西澤直史さん、池袋のランドマークにして本イベントの重要なパートナーである「サンシャインシティ」の額賀昌之さん、そして行政の立場から池ハロを後押しする東京都豊島区の宇野貢彰さんの5名にお集まりいただき、池ハロ誕生のきっかけや、コスプレイヤーだけでなく、地域の方々からも親しまれる一大イベントに成長していった池ハロの歩みを振り返ります。
コスプレイベントを街の課題解決の起爆剤に
――本日はお集まりいただきありがとうございます。早速、池ハロの開催に至る経緯や背景を伺いたいのですが、その前に、みなさんがどのような役割で池ハロの運営に携わっているのか教えてください。
橋口さん:私は「ニコニコ動画」などを運営するドワンゴのメンバーで、池ハロを企画した立ち上げメンバーのひとりです。立ち上げ当初は池ハロで行う様々な企画やコンテンツのディレクションを担当しており、現在はプロデューサーとして弊社、アニメイトさん、ハコスタさん、サンシャインシティさん、豊島区さんからなる実行委員会を束ねつつ、議事進行や企画の決定に携わっています。
株式会社ドワンゴ クリエイション&ビジネス企画部 プロデューサー 橋口雄樹さん
小山さん:アニメイトはアニメ、コミック、ゲームの専門店で、1983年の創業以来、池袋に本店を構え続けています。以前から豊島区さんとやり取りする機会が多かったこともあり、池ハロでは第1回から豊島区さんや街の方々との調整役、ならびにパレードの運営全般を担当しています。
株式会社アニメイトホールディングス 経営企画部 シニアディレクター 小山幸男さん
西澤さん:アニメイトグループの一社であるハコスタは、コスプレイベントの「acosta!(アコスタ)」や撮影スタジオの運営など、コスプレに特化した事業を行っています。池ハロではその知見やスキルを生かして、参加者が着替えるための更衣室の整備や運営をはじめとするコスプレ全般のオペレーションを担っています。
株式会社ハコスタ 取締役 acosta!統括プロデューサー 西澤直史さん
額賀さん:弊社はサンシャインシティという商業施設の管理運営を行っており、私はその中で大小4つある展示ホールの管理運営部門に在籍しています。池ハロでは展示ホールを参加者向けの更衣室として提供しているほか、館内のテナント様や来館する一般のお客さまとの調整なども担当しています。
株式会社サンシャインシティ コンベンション事業部 IP事業推進プロデューサー 額賀昌之さん
宇野さん:私はマンガやアニメといった文化を通じて地域振興や来街者の促進を担う、「豊島区産業観光部 マンガ・アニメ・トキワ荘振興課」という部署に所属しています。池ハロの実施自治体として、ここにいらっしゃる4社のみなさんや地域の方々と連携しながらイベントのスムーズな運営をサポートさせていただいています。
豊島区産業観光部 マンガ・アニメ・トキワ荘振興課長 宇野貢彰さん
――池ハロは2014年にスタートして今年で13年目を迎えますが、そもそもなぜ、大規模なコスプレイベントを池袋の街中で行うことになったのでしょう?
橋口さん:以前から私たちは「ニコニコ超会議」というイベント(*1)を主催してきました。ニコニコ超会議は「好きなことを好きと言える場所」「参加者全員が主役になれる場所」を掲げているのですが、その延長で、コスプレイヤーさんが自分の好きなことを思い切り楽しめる場所を作りたいと考えたのが、池ハロを構想したきっかけです。池袋を開催地にした理由は、ちょうどドワンゴのアンテナショップを池袋に出店する計画があり、豊島区さんとの繋がりができはじめたタイミングだったこと。それと2014年当時の豊島区さんの事情も関係しています。
宇野さん:実はその年の5月に発表された「消滅可能性都市」というリストに、豊島区が23区で唯一挙がってしまったんです。これは、20~39歳の若年女性人口が2010年から2040年までの30年間に50%以上減少するという推計をもとにしたもので、区としても「何とかしなくては」という危機感が芽生えていました。若い女性区民にヒアリングを行うなど対応を模索していく中で、マンガやアニメを通じた魅力発信にこれまで以上に力を入れてみてはどうかという意見が多数挙がったんです。豊島区には、かつて手塚治虫をはじめとするマンガの巨匠たちが暮らした「トキワ荘」があり、もともとマンガ文化と深い縁がある街でもあります。ドワンゴさんから池ハロ開催のお話があったのは、まさにそんなタイミングでした。
橋口さん:池ハロの立ち上げには、「コスプレイヤーさんが主役になれる場所を作りたい」という私たちの考えと、「マンガやアニメを通じて若者を集めて街を盛り上げたい」という豊島区さんの想いが合致したという背景があったんです。とはいえ、いざイベントをカタチにするには、豊島区さんとドワンゴ一社だけの力では難しい。そこで池袋を地盤とするアニメイトさん、コスプレイベントの運営に長けるハコスタさん、貴重なスペースを用意していただけるサンシャインシティさんといっしょに実行委員会を作り、池ハロ開催に向けて具体的に動き出すことになったわけです。
(*1)ドワンゴが運営する動画サービス、ニコニコ動画のユーザー参加型オフラインイベント。毎年春に幕張メッセで開催されている
“ニッチな文化”を認めてもらう基盤作り
――ドワンゴさんからのお声がけを受け、池ハロというイベントに参画することになったときのことを振り返ってもらえますか。
小山さん:アニメイトグループにも以前から、「コスプレを池袋の街中で楽しめないか」というアイデアはあったんです。その実現のためにまず、コスプレイヤーと地元の方々の接点を作ろうということで、2013年のサンシャイン通り商店会のお祭りでコスプレパレードを実施しました。これが想像以上に好評で、商店会からも「来年以降もぜひやってほしい」というお声をいただくほど。このときをきっかけに、地元のみなさんにコスプレというカルチャーを認めてもらえる下地ができたように思います。
西澤さん:そうした基盤を足がかりにして、2014年3月に開催したのが「acosta! @池袋サンシャインシティ」というコスプレイベントでした。当時、企業が主催するコスプレイベントはめずらしかったのですが、安心・安全な運営のために重要だと考えたのが、しっかりとしたルール作りでした。この考えはのちの池ハロにも通じるもので、「更衣室での着替え」や「撮影エリアと移動エリアのゾーン分け」などは、すでにacosta!で採用していたアイデアになります。奇しくもそんなタイミングで池ハロの話を聞き、「ドワンゴさんと組めれば、街中でのコスプレイベントがもっと大きなカルチャーになるぞ」と期待が膨らみましたね。
橋口さん:acosta!は池袋だけでもほぼ月1回、他の会場も含めると週1回ペースで行われている人気のコスプレイベントなんです。池ハロは年1回のイベントなので、開催のたびにハコスタさんが1年間積み上げてきた知見やノウハウを活用できるので、とても心強いんですよ。
額賀さん:サンシャインシティは2012年に、アニメイトさん主催のコスプレイベントで会場を提供したことがありました。しかし当時はコスプレイベントに協力することには消極的で、社内で理解を得るのにとても苦労したのを覚えています。ところが、2014年頃から豊島区さんがマンガやアニメを通じて街を元気にしようという姿勢を打ち出し、コスプレ文化そのものも徐々に市民権を得ていき、さらに池ハロも立ち上がり、弊社の中でアニメやコスプレといったカルチャーに対する理解が少しずつ高まっていきました。今では「数ある催事のひとつとしてスペースを貸す」という姿勢から、「サンシャインシティを新たな文化の発信地にしたい」というふうに、コスプレイベントに対する社内の意識が変化したのを感じています。
――そうして立ち上がった池ハロですが、第1回の開催にあたって不安や苦労はありませんでしたか?
橋口さん:まず、本当に人が来るのかなって(笑)。蓋を開けてみると、1日あたり3,000人を超えるコスプレイヤーさんが集結し、初回としては大盛況に終わりました。
小山さん:一方1年目の反省点として、ルールやマナーの周知が不十分だったことが挙げられます。参加者が路上で滞留してしまったり、撮影不可の場所で撮影が行われてしまうこともあり、その都度巡回スタッフが声をかけてルールの遵守をお願いしていました。
額賀さん:1日目が終わったあとに、主要スタッフが車座になって反省会をしたのが記憶に残っています。更衣室の列が伸びて参加者さんを待たせてしまったとか、参加費を払わずに紛れて参加している人がいたとか、その日にあったトラブルや気づきを共有して翌日以降の対応策をその場で考えたりもしました。当時はまだ手探りだった部分がたくさんありましたからね。
橋口さん:最初の数年は、地元の方々から少しずつイベントへのご理解・ご協力を得ながら、参加者にはルールとマナーを丁寧に周知していく、そんな土台を築いていく期間でした。
小山さん:当時は池ハロのチラシを持って会場周辺のお店一軒一軒にご挨拶に行ったり、ステージプログラムに参加してもらおうと、地元のお店や企業に飛び込みで営業をしたり。華やかなイベントですが、裏では泥臭くやってたんですよ(笑)。
――第1回の池ハロを終えて得られた手応えや課題はありましたか?
橋口さん:無事に終えられたことに安堵するとともに、参加したコスプレイヤーさんが楽しんでくれたことが何より嬉しかったです。また地元商店会の屋台の売上がよく、出店したみなさんに喜んでいただけたことや、会場周辺の飲食店が賑わったことなど、池ハロによって池袋の街にも波及効果が生まれた点もよかったですね。
額賀さん:参加したコスプレイヤーさんやカメラマンさんが池袋で食事をしたり買い物をすることで、地元経済にかなり貢献してくださっているんですよね。
西澤さん:事前にコスプレ姿でも入店できるお店をリサーチし、それを「コスプレ入店可能店舗」というかたちで池ハロ公式マップに掲載したんです。コスプレイヤーさんが気兼ねなく飲食やショッピングができる環境を整えたことで、池袋の街全体が賑わういい循環が生まれたと思います。近年は積極的にコスプレイヤーさんを歓迎するお店が増え、逆にコスプレでの入店を拒否するお店はほとんどなくなってきたことからも、このイベントに対する地元の理解が進んだことが分かると思います。
コロナ禍が池ハロのターニングポイント
――これまで13年におよぶ池ハロの歴史の中で、イベントが大きく飛躍するきっかけやターニングポイントになったエピソードはありますか?
橋口さん:2014年にスタートして以来、おかげさまで年々参加者が増え、2019年頃にはハロウィンイベントとしてすっかり定着した感覚がありました。しかし2020年にコロナ禍に入ったことが、あらためて池ハロのあり方や可能性について見直すきっかけになったと思います。同年の池ハロは一旦オンライン開催としましたが、いずれリアルイベントに戻ることを見すえたときに、より神経を使う部分が増えたと言いますか……コスプレイヤーさんに対しても、カメラマンさんに対しても、街のみなさんに対しても、それまで以上に細かく丁寧に、深いところまで考えたイベント運営を意識するようになりました。
西澤さん:acosta!も他のイベントと同様、2020年のはじめは開催中止に追い込まれたのですが、そう簡単にコスプレイベントの火を絶やしてはいけないという想いは強くありました。そんな中、サンシャインシティさんが、どこよりも早く催事会場を復活してくれることになり、同年7月以降は規模を縮小しながらもacosta! @池袋サンシャインシティをリアルイベントとして再開することができたんです。
額賀さん:当時はコロナ禍だからといってイベントを止めるという考えはなく、ガイドラインがある以上はそれに従いながら「どうすれば安全に、みんなが楽しめる場を作れるか」を前向きに模索していました。その中でacosta!が月1回というペースを変えることなく池袋での開催を続けてくれたことが、翌2021年の池ハロ復活につながったと思います。
宇野さん:2021年は、地域の防災公園として開園したばかりの「イケ・サンパーク」を会場に組み込むことで、開催エリアが拡大しソーシャルディスタンスが取りやすい環境となったことも、イベントを開催する上で功を奏しました。
橋口さん:そして来場者数の制限を緩和し、3年ぶりにパレードも復活させた2022年には、過去最高となる12万5,000人もの来場者が訪れ、コロナ前を凌ぐ賑わいとなったんです。コロナを挟んで我慢を強いられた分、2022年以降はそれまで以上に熱量を持って池ハロにコミットしてくれる参加者が増えたように感じますね。
2022年開催時の様子
――最後に、池ハロの今後の展望や可能性について教えてください。
額賀さん:池ハロはこれまで、安心・安全に街のみなさんが楽しんでもらえるイベントを提供することに力を注いできました。今後もそれを貫き続けることに尽きるかなと思います。
小山さん:公共の限られた場を使わせていただくイベントなので、参加者だけでなく、住民の方々や地元商店の方々も含めて、すべての人が「楽しかったね」と言えるイベントにすることが今後も一番の使命ですね。
宇野さん:区としてもイベントを運営する上で「安心・安全」は最重要テーマですが、13年にわたって大きな事故やクレームがないというのはとても誇らしいことです。豊島区のイメージアップにもつながっているこのイベントを、みなさんと力を合わせてさらに発展させていければいいなと考えています。
西澤さん:池ハロもacosta!もご家族での参加が多いのが特徴で、それだけ安心・安全なイメージが定着しているんだと思います。今後は、コスプレイヤーさんやカメラマンさんだけでなく、地域のお子様も気軽に楽しんでもらえるお祭りにしていくのが理想です。いつか池ハロが「企業主催のハロウィンコスプレイベント」から「豊島区の地元のお祭り」と認識してもらえるようになれば嬉しいですね。
橋口さん:西澤さんがおっしゃったように地域のお祭りとして定着させたいという想いに加えて、外国人観光客の方々にもフレンドリーなイベントにしていきたいとも考えています。池ハロのために各国から人が集まってくるような、池袋発の日本を代表するイベントになるといいなと思います。つい先日、ドワンゴの親会社であるKADOKAWAが、アニメ制作拠点「Studio One Base(スタジオワンベース)」をサンシャインシティにオープンさせました(https://group.kadokawa.co.jp/k-insight/ki76381.html)が、こうした活動と池ハロの相乗効果で「池袋=マンガ・アニメの聖地」というイメージもさらにアピールできたらいいですね。
13年にわたり行政・企業・地域住民が対話を重ねることで、独自の文化と信頼を築き上げてきた「池袋ハロウィンコスプレフェス」。後編ではイベント当日の様子を取材。当日の熱気や安全な運営の最前線、地域の方々や参加者の声などをお届けします。
参考記事・関連情報
・池袋ハロウィンコスプレフェス2026
https://ikebukurocosplay.jp/
・acosta!
https://acosta.jp/
・【K-Insight】約400名のクリエイターが池袋に集結。 新巨大制作スタジオ「Studio One Base」が描くアニメ制作の未来 ー「創る人をつくる。創る所をつくる。」構想が目指す、持続可能な働き方 ー
https://group.kadokawa.co.jp/k-insight/ki76381.html