在宅勤務率70%! 働きやすさとクリエイティビティを両立し、成長を続けるKADOKAWAの「働き方改革」とは
在宅勤務からオフィス回帰へ――。アフターコロナを迎え、従来の働き方への揺り戻しが多くの企業で起こっています。そんな中KADOKAWAは、時間や場所にとらわれない自律的な就業スタイルを変わらず推進しています。
在宅勤務がメインか、オフィス勤務がメインか。従業員が自らの働き方を柔軟に選択できる「ワークプレイスチョイス制度」は、いまのKADOKAWAを象徴する制度のひとつ。これにより、現在も在宅勤務率は70%※ を超えています。
一方で、多様な働き方にフィットしたオフィス環境の整備にも注力しています。2022年には飯田橋オフィスのレイアウトを一新し、2023年4月には東京・地下鉄九段下駅直結の複合ビル「北の丸スクエア」にオフィスを新設。出社時も効率的に働ける快適な環境づくりを進めています。
KADOKAWAでは、こうした「個々のパフォーマンスを引き出す環境・仕組み作り」をベースに、「パフォーマンスとモチベーションをさらに引き出す各施策」を実施するという2階建て構造の人事制度によって、従業員の働きやすさを実現しています。
今回は、人事制度の”1階”にあたる、従業員の多様な働き方を支える環境・仕組み作りをテーマに、人事総務グループ担当執行役員の松田肇さんとグループ人事局 人事企画部 部長の菊本洋司さんに話を聞きました。
※2025年3月時点

KADOKAWA 人事総務グループ担当執行役員 兼 グループ人事局 局長 松田肇(まつだ・はじめ)さん
2014年KADOKAWA入社。人事局担当部長、人事企画部部長などを経て2020年グループ人事局長に就任。2022年より現職。
働きやすさとクリエイティビティの両立
「今のような柔軟な働き方が実現する前には、『在宅勤務を許してしまったらクリエイティビティが十分に発揮されなくなるのでは?』といった声が上がっていました。従業員同士のふとした雑談から発想や企画が生まれることもあるので、ここを一番懸念しておりました。でも現在、懸念したほどの問題になっているとは考えていません。
一方で仕組みの見直しやツールの活用で業務の効率化が進んだ結果、クリエイティブな業務に割ける時間を犠牲にすることはなく、さらに経営層や従業員の意思決定のスピードも格段に向上した実感があり、今の働き方が事業成長を阻むことはないと確信しています」
これまで推し進めてきた働き方改革の効果について、こう語るのは人事総務グループ担当執行役員の松田肇さんです。
働きやすさと高パフォーマンスを両立させるKADOKAWAの働き方は、一夜にして実現したわけではありません。今につながる働き方改革が始まったのは2018年でした。
「起点となったのは、2020年に開業を控えていた『ところざわサクラタウン』のプロジェクトです。埼玉県所沢市にある本施設に当社のオフィスもあわせて新設されることになり、ABW(Activity Based Working)を推進する方針を固めたのです」
業務内容やライフスタイルに合わせて、時間・場所にとらわれず、従業員が自律的に働く場を選択する。こうしたABWの取り組みを経て、KADOKAWAはオフィスのフリーアドレス化や新オフィス開設などに着手。すでにこの時期から様々なデジタルツールの導入にもトライしていました。
デジタル化によって未曾有の危機を乗り越えた
2019年には全社横断型のABW推進チームも立ち上がりました。このときメンバーの一人として活躍したのが、現在グループ人事局 人事企画部で部長を務める菊本洋司さんです。
「従業員が使うデスクトップパソコンをノートパソコンに切り替えるところから始まり、チャットツールのSlackや社内WikiツールのConfluence、Google Workspaceなど、新たなデジタルツールの導入支援を地道に進めていきました。これにはデジタルツールの活用が得意なドワンゴのエンジニアの働き方を元にガイドラインを定めたことが功を奏しました。また、エンジニアではないKADOKAWAの従業員が親しみを持てるように、マンガを使った定着支援などを進めました。

マンガを使って楽しく学べるようにしたのもKADOKAWAらしい文化
(KADOKAWA ©Yoji Kikumoto, Motoko Watanabe, Minori Kambe)
しかし、この頃の在宅勤務率はたったの5%。大半の従業員がオフィスに出社していました。
ブレイクスルーとなったのは、2020年の新型コロナウイルスの流行です。ソーシャルディスタンスが求められた当時、在宅勤務率は90%以上に。ただ、コロナ禍前より他社に先駆けてリモートワーク環境の整備に動いていたことと、従業員の皆様の協力もあり、幸いにも業務は止まりませんでした。これをきっかけに、実際に便利なデジタルツールを経験した従業員が、新しい働き方を自分ごととして受け止めてくれるようにもなりました」
この時期には編集業務のデジタル化も大きく進んでいきました。
「それまで校正は紙に印刷して行うアナログな方法が主流で、在宅勤務時は大量のゲラ(校正用の印刷物)をわざわざ持ち帰る必要がありました。そこで編集者にiPadなどのタブレット端末を配布。従来のフローは変えることなく、文字修正などを指示する赤入れ作業のデジタル化を実現しています」(菊本さん)

KADOKAWA グループ人事局 人事企画部 部長 菊本洋司(きくもと・ようじ)さん
HPE、VMwareを経て、2017年よりドワンゴのインフラ共通基盤チームに参画。2019年に設立されたKADOKAWA Connected(現ドワンゴ)ではCCSO(Chief Customer Success Officer)としてCustomer Success部を牽引し、KADOKAWA従業員を顧客としたITツールを使った業務効率化を推進。現在はKADOKAWAのグループ人事局 人事企画部を担当。
「ワークプレイスチョイス制度」を新設
一方、コロナ禍で大半の従業員が在宅勤務を経験したことで、業務内容やライフスタイル、ライフステージによって、働く場所の最適解は異なるという実情も見えてきました。
こうした気づきを踏まえて、2023年4月より新たに導入されたのが「ワークプレイスチョイス制度」です。これは、従業員自身が在宅勤務メインか、オフィス勤務メインかを選択できる制度で、それぞれ異なるサポートが適用されます。
在宅勤務メインの場合は、自宅の業務環境整備などに使える「在宅チョイス支援金」が毎月2万円支給され、出社の際はフリーアドレスのデスクを利用できます。オフィス勤務メインの場合は、効率的に作業できるよう再設計された最新のオフィスに固定席が用意されます。現在では従業員の9割が在宅勤務メインを選んでいます。(2025年3月時点)
2022年には飯田橋オフィスをフリーアドレス中心のレイアウトに変え、オンライン会議に対応した会議スペースも増設。2023年4月には東京・地下鉄九段下駅直結の「北の丸スクエア」に、出社時の効率性を重視した新オフィスを構えました。いずれのスタイルを選ぶ従業員も働きやすい環境を構築しています。

北の丸スクエアに新設したラウンジスペース
「特に重要なのは、部署や従業員ごとに最適な働き方をより柔軟に選べるようになったことです。
良い作品を作るため対面のコミュニケーションを重視する部署もあれば、業務効率や子育て中の従業員に配慮してフルリモート中心の部署もあります。本人の希望によって就業スタイルは自由に選べる。働き方に選択肢があるという点が、従業員一人ひとりがクリエイティビティを発揮する上では不可欠なのです」(松田さん)
KADOKAWAを支える働き方の多様性
このワークプレイスチョイス制度と様々な人事制度を組み合わせることによって、従業員は多様な働き方ができるようになりました。
遠距離居住地での勤務は大きな変化のひとつ。現在、関東エリア1都3県以外に住む従業員は、北は北海道から南は沖縄まで約70名在籍しています。業務によって出社が必要な場合もありますが、基本的にリモートワークでの業務が可能。遠距離居住地で働く社員に合わせて交通費も月15万円まで支給しています。
仕事と子育てを両立させたいという従業員向けの制度も充実しています。ベビーシッター利用支援や出産祝い金、育児手当、子どもの看護休暇などを用意。介護が必要な家族がいる従業員は、介護休暇やケアサポート休暇などが利用可能です。2025年4月からは育児や介護で休職する方に代わって業務をフォローする従業員への支援制度「産育休・介護休フォロー手当」も開始しました。
そして、KADOKAWAに約40名在籍する外国籍の従業員の働きやすさにも力を入れています。2023年10月に新たに導入したのが「一時帰国サテライトワーク制度」。この制度を使えば、1年度で合計90日間まで一時帰国先でリモートワークが可能です。
※詳細はこちら:https://group.kadokawa.co.jp/recruit/kadokawa/career/environment/info/

働く環境の充実度はエンタメ企業の中でも随一
「同業のエンタメ企業の中ではおそらく当社が一番。
私はキャリア採用の最終面接を担当していますが、ワークプレイスチョイス制度などを理由に応募してくる方は少なくありません。こうした従業員に寄り添った制度が、すでにKADOKAWAの大きな魅力になっていることを日々実感しています。
社長の夏野も大切にしているのが「ユーザビリティ」。それは働く従業員に対しても同じです。働く上で不便・不合理に感じている点があればスピード感をもって改善していく。これまでその姿勢で働きやすい仕組み作りや制度の充実を進めてきました。
新たな取り組みを始める際、マイナス面は考えればいくらでも出てきます。だからといってやらないと決めつけるのではなく、プラスとなる良い部分に注目してとにかく挑戦してみる。これがいまのKADOKAWAのスタイルです。働き方改革の基本的な制度設計はすでに整いましたが、これからも従業員が働きやすくなる施策は積極的に実施していく予定です」(松田さん)
多様で柔軟な働き方を実現したKADOKAWA。時代の変化に柔軟に対応しながら、クリエイティビティを最大限に引き出す組織づくりは今後も続きます。
※本記事は、2025年5月時点の情報を基に作成しています