オリジナルへの執念を
一番強く感じた。
物心ついたときにはもう、漫画の世界にどっぷり浸かっていました。小学校時代は、お小遣いをもらっては近所の本屋さんまで自転車を飛ばし、大学時代には年間1000冊読破していた時期もありました。アニメや演劇、インターネットなど一通りのエンタメコンテンツに触れて育ちましたが、やっぱり一番好きなのは漫画。就職活動時、真っ先に頭に浮かんだのも漫画編集部がある出版社でした。ただ、実は当初、KADOKAWAはそこまで志望度が高くはありませんでした。なぜなら当時の私は、「KADOKAWAはメディアミックスの会社」というイメージが強く、「オリジナル作品をつくる機会が少ないのでは?」と思っていたからです。イメージが変わったきっかけは、KADOKAWAのインターンシップ(コミックコース)でした。私が参加したときは漫画誌『ハルタ』の編集長が講師として登壇し、とても印象的な話をしてくれました。「誰も見たことのないものを見せるのが漫画の使命」、「誰かの真似をすることは漫画の本質じゃない」……、強い信念が言葉に溢れていました。私は、「すべての原点となるオリジナル作品にこそ強いこだわりを持つ会社だったのか」と驚きました。その後、いくつかの出版社の選考にもチャレンジしましたが、そこまで強い情熱を感じた瞬間はありませんでした。そして「誰も味わったことのない面白さを届けられる編集者に、なんとしてもなりたい! KADOKAWAならそれができるはず」という想いを強くしました。
才能発掘から、
読者の心を動かすまで。
念願叶い、KADOKAWAに入社。新人研修を終えて配属されたのが、漫画誌『ハルタ』編集部でした。配属初日に言われたのは、「編集部に来たからには、あなたは一人の編集者です。だから、早く漫画をつくりなさい。それ以外のことは特には求めません。」という言葉。入社数ヶ月で、アシスタントなどではなく一人前の編集者としてスタートを切ったのです。うれしさと驚きが入り交じっていました。かつて目にした漫画や映画から、編集者の仕事のイメージは持っていました。でも実際は、想像以上に幅の広い仕事でした。『ハルタ』は、新しい才能とともに新しい物語を生み出していくことを使命とする漫画誌。仕事は、作家の発掘からスタートします。新人賞、同人誌イベント、ネットなど、あらゆる手を尽くして原石を探り当てるのです。そして作品づくり。打合せを重ねる中で、その人の力を最大限に引き出せるような、まだ誰も描いたことのない物語を見つけていきます。作家とともに、“新しい物語”を見つけ出していく作業は、苦しい部分でもあり一番面白い部分でもあります。作品づくりと並行して、装丁や、プロモーションなど、作品を広く読者に届けるべく動きます。才能発掘から読者の心を動かすまで。編集者の仕事は本当に幅広いものなんです。
失敗した数だけ、
階段をあがっていける。
また『ハルタ』は、業界でも珍しく“担当裁量制”という仕組みを編集体制に取り入れています。“担当裁量制”とは、各編集者が自分の裁量で、どの作品を掲載するか、いつどうやって連載化するか、どうプロモーションしていくかなどすべてを決めていくというやり方です。自由度は非常に高くチャレンジしやすい編集環境ですが、新米編集者の自分にとっては同時に大きなプレッシャーと責任を感じる環境でもあります。しかもこの仕事には、正解がありません。誰も見たことのない世界をつくろうとしているのですから、そこに正攻法がないのは当たり前なのかもしれません。ただ、だからこそ失敗を否定されることもありません。逆に、失敗を恐れて躊躇したり、立ち止まったりすることを怒られるんです。編集長からも、「たくさん失敗して、たくさん経験を積んで、3年後、5年後のハルタをつくっていって欲しい」と言われています。入社2年目。まだまだ勉強中。これまでに、読み切り作品はいくつか手がけることができましたが、そこから発展して、一日も早く連載作品を生み出したいと思っています。そのために、今やりとりをしている作家たちとともに、がむしゃらに邁進していきたいですね。
※記事内容は、取材当時(2019年9月)のものです。
WORKS 担当制作物
-
『んねこん』
ネコとオンナノコとモロモロ。まぜてあわせて、んねこん! ケモ耳姉妹のデス&コメディー『レキヨミ』が大好評の著者による、初の作品集。コミックス制作を担当。
-
『峠鬼』
あらゆる願いを叶えてくれる「一言主神」へと向かう旅を描く、古代倭国神々巡礼ファンタジー。毎回登場する個性豊かな神々と、SF的なギミックが魅力。コミックス制作を担当。
-
『手つかずの国』
新鋭・金箱さくらが描く、「大切なもの」を持った人たちの読切連作。一見突飛に見える設定の中に、普遍的な感情を描く。ハルタ70号より隔号連載。