海外に拠点を作る。日本の出版社では少ない、
KADOKAWAだからこその取り組み。
大学を卒業してから約20年、出版ビジネスの中でも、主に海外とのライセンスビジネスに携わってきました。最初の10年は、外から角川書店を見ていたわけですが、まだ海外で出ていないコンテンツがたくさんあり、宝の山のように感じていたことを覚えています。そして2006年に角川書店に転職してからもライセンスに関わるビジネスに携わりました。さらに2013年の統合時には海外局という部署が立ち上がり、私は志願して異動しました。日本の出版社の多くがグローバルな展開を行っていない中、KADOKAWAは海外に拠点を作ってビジネス領域を広げていこうという事業方針のもと、そこでM&A案件など海外拠点開発に従事していました。担当していたアメリカ案件が2016年にクロージングし、KADOKAWAグループ入りしたニューヨークの出版社「Yen Press」へ出向という形で異動したのです。現在はシニア・ディレクターとして、本社との事業連携、電子書籍や流通ルート 開拓などの新規開発、財務・経理含む業績管理など、さまざまな業務に携わっていますが、売上が前年比でプラス16%を達成するなど、ビジネスは順調に推移しています。
作品の世界観を
忠実に表現したことで、
一冊150ドルの本が
予約で完売に。
海外でのビジネスに従事することの難しさ。それはやはり、異なる文化の中で仕事を行うということだと思います。たとえば契約の内容一つ取っても日本とは違いますし、打ち合わせの進め方や何をどう決めるかといったことも違ってきます。もちろん、コミュニケーションの取り方だって違うわけです。ただ、どんなに文化が違ったとしても、目指すゴールは一緒。
このコンテンツを、この国でも成功させましょうというゴールに向けて皆が歩調を合わせ、目線を合わせていく。そこは苦労する点ですし、苦労しなければいけない点だと考えています。そんな中、世界中に読者のいるライトノベル『狼と香辛料』英語版がシリーズ10周年をむかえた2016年に完結。これを記念して、ハイエンド読者向けの豪華仕様の限定版をYen Pressで企画することになりました。一冊150ドルという価格にもかかわらず、初版の3,000部が予約のみで完売するほどの人気に。ファンタジーというこの作品がもつ世界観を損なわないよう、革風のカバーや羊皮紙を想起させる用紙を使用し、レタリングなど細部にまでこだわって作ったことが評価されたのだと思います。発売時に開催されたニューヨークコミコン(北米最大級のコミックマーケット)へ作者の支倉凍砂さんをお招きし、ファンとの交流の機会も設けました。著者の支倉さんにも喜んでいただき、私の中でも思い出深い仕事になっています。
売ったきりで終わり、ではない。
その後が重要なのが
海外でのコンテンツビジネス。
かつて上司から言われたことで忘れられないのが、「海外とのライセンスビジネスは、保険を売るようなものだ」という言葉です。 ライセンスは売ってからが、ビジネスのスタート。その後のケアが重要です。その作品がもつ世界観やどんな人が読んでいるのかといったことは、売る側である我々のほうが理解しているわけですから、販売先にもそれを伝えていかなくてはいけません。我々の後ろには作家さんがいるし、販売先のさらに先には現地のファンの方がいる。きちんとコミュニケーションをとって伝えていかなければ、彼らの意に反するものが出来上がる可能性もあるわけです。「託して良かった」と言われるような仕事を、今後も手がけていきたいですね。
これまでのキャリアではライセンスビジネスを中心に、出版に関わる業務を編集から制作、物流まで幅広く携わってきました。そうした中で海外に身を置いて仕事をするのは、私にとっても初めての経験です。海を渡ったからこそ実感するのは、良質なコンテンツを数多く抱えるKADOKAWAには、海外での伸びしろがたくさんあります。実際に我々が手がける出版物の中でも、KADOKAWAのライトノベルが非常に伸びているんですね。またアメリカでは数年前に電子書籍化の大きな波があったものの、紙媒体への回帰といった流れもある。KADOKAWAのアメリカでの可能性をさらに広げながら、そして私自身の挑戦で成果を出したいと思っています。
※記事内容は、取材当時(2018年1月)のものです。
WORKS 担当制作物
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『狼と香辛料』シリーズ
2006年に発売されて以来、「剣も魔法も登場しない経済ファンタジー」という他に類を見ない世界観で人気を博したライトノベル。2011年に完結するまで全17巻が刊行され、アニメ化、ゲーム化もされた。『狼與辛香料』、『SPICE AND WOLF』というように中華圏や英語圏でも翻訳版が発売されており、世界中にファンの多い作品。