造形物としての
書籍の魅力に気づいた。
私にとって書店は、冒険をする場所でした。小学生時代、家族で買い物に出かけた帰りに書店に立ち寄るのが我が家のお決まりコース。そこで「何か一冊、好きなものを選んで来なさい」と言われることがとても楽しみでした。小さかった私にとっては広すぎるほどの書店。それでも端から端まで歩き回って、“読んでみたい1冊”を探し出す。まるで宝探しでした。年を重ねても時間があれば自然と書店に足が向くようになっていましたね。大学生となりバイト代を貯めて海外旅行へ行った際も、現地の書店を訪ね歩きました。ただそこで気づいたのです。日本の書籍の素晴らしさに。海外の書籍と日本の書籍を比べると、圧倒的に日本のもののほうがつくりが丁寧で、工夫が凝らされていた。書籍の中身だけでなく、造形物としての魅力にも惹かれるようになりました。だから今、書籍製造・ものづくりの最前線にいられることはとても幸せなことだと感じています。
私がいる生産管理部門には、様々な仕事があります。新刊担当、電子書籍担当、重版担当、資材調達、システム開発、そして「BEC」という新規事業担当も。そのなかで私は、紙コミック領域の生産管理をしています。納期・コスト・品質を守りながら、編集部や作者、ブックデザイナーの「こんな一冊をつくりたい!」というアイデアやこだわり、そして想いをカタチにしていくのが仕事です。
知識をアップデートし、
頼られる存在に。
書籍製造は、本当に奥が深い世界です。用紙、印刷手法、製本手法と様々な選択肢があり、無数の組み合わせがあります。また、製紙会社や印刷会社でも日々技術革新が行われ、新しい紙・新しい技術が誕生し続けています。だから学んでも学んでも、学び足りないほど。幅広い知識が求められる仕事です。そのため生産管理は、大ベテランの方も多くいる部門でもあります。しかし若手に活躍の機会が少ないかと言えば、まったくそうではありません。日頃から「熊澤君はどう思う?」と意見を求められますし、「新しい意見を取り入れながら、次世代に文化をつないでいこう」という風土がここにはあると感じます。伝統と新しさを融合させたコンテンツ作りは、KADOKAWAの大きな魅力だと思います。
そうやって受け継ぎ、吸収した知識を活かすことで、編集部から頼りにされたときは本当にうれしい。例えば、編集部が当初希望した用紙では大量印刷に耐えられないと想定されるケースがあります。そうした時は自分の知識や先輩の意見を総動員して、類似する質感の別の用紙を提案することも。代替案を提示しながら書籍をつくりあげ、完成した書籍が店頭に並んでいるのを見ると、この仕事のやりがいと嬉しさがこみ上げてきます。
進化し続ける、
生産管理。
生産管理におけるKADOKAWAの強みは、複数の会社の知見・ノウハウがぎゅっと一箇所につまっていることだと思っています。KADOKAWAは数年前から、いくつもの出版社がスクラムを組んできました。つまり、各社が保有する膨大な生産管理ノウハウがここにあるということです。数あるノウハウのなかから、今のKADOKAWAに最適な手法だけを抽出したら最強の生産管理のあり方が築けると考えています。実際に、“出版事故防止対策プロジェクト”として各社のノウハウを集約・整理する取り組みも、私たち若手が中心となって進めています。また、技術革新に積極的なところも強み。その象徴が、書籍の製造物流革命を起こそうとしている「BEC」です。品切れや絶版をなくせる可能性を秘めた「BEC」は、ビジネス的観点・消費者視点の双方から、また文化を残していくという観点からも、すごく革命的な取り組みだと感じています。
これからも生産管理として、印刷技術や用紙に関する知識をもっともっと深めていきたい。知れば知るほど、新しい発見だらけで本当に面白い世界です。用紙メーカーや印刷会社と強い接点があるのも、この部署だけ。ものづくりの最前線で、今しか得られない知識や知見を吸収していきたいですね。そして将来的には、編集者にも挑戦したい。生産管理での経験を活かすことで、自分だけの強みを持った編集者になれるはず。そう思っています。
※記事内容は、取材当時(2021年12月)のものです。
WORKS 担当案件
-
『月刊コミック電撃大王』
『ソードアート・オンライン Re:Aincrad』、『魔法科高校の劣等生 古都内乱編』、『新米姉妹のふたりごはん』など人気作品が連載中。綴じ込み付録がつく号も。
-
『ダンジョン飯』電子書籍版
九井諒子、初の長編連載。襲い来る凶暴なモンスターを食べながら、ダンジョンの踏破を目指す物語。熊澤は本作の電子書籍版の生産管理を担当した。
-
『悪役令嬢レベル99~私は裏ボスですが魔王ではありません』ドラマCD付特装版
最強の悪役令嬢ファンタジー。ここでしか聴けない特別ストーリー『学園の七不思議』収録のドラマCD付特装版。熊澤は、本誌のみならずCD盤製造の生産管理も担当。