本書は、昨年発売した『ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫』『ポー傑作選2 怪奇ミステリー編 モルグ街の殺人』につづくポーの新訳第3弾です。今まで訳出不可能だった表題作他、ダークな風刺小説、謎かけ詩、創作論等知られざる名作23編が掲載されています。
また、巻末付録で100ページ以上にわたって、「ポーを読み解く人名辞典」「ポーの文学闘争」などの解説や論考が掲載されます。こちらは当時の文献をもとに、ポーがアメリカ文学界でどんなふうに受け入れられてきたか、そしてどう闘ってきたが描かれます。
ポーの真骨頂はブラックユーモアにあり!?――いがみあう新聞社同士の奇妙な論争を描く「Xだらけの社説」、大言壮語がこうじて地獄の門が開く「悪魔に首を賭けるな」、ありえないはずのことが起きる科学トリック「一週間に日曜が三度」。ダークな風刺小説や謎かけ詩、創作論など知られざる名作を23編収録。巻末には「人名辞典」「ポーの文学闘争」他、ファン待望の論考が100頁超。訳出不可能だった言葉遊びを見事に新訳した第3弾!
・今までは訳出不可能だった!ポーの真骨頂ブラックユーモア短編を見事に新訳
ポーといえば、ホラーやミステリーを思いうかべる読者が多いでしょうが、ポーの真骨頂はブラックユーモアにあるのではないでしょうか。しかし、ポーのブラックユーモア短編には訳出不可能な言葉遊びが多く、日本ではその真の面白さが訳されずにきました。そして今回、シェイクスピアや『不思議の国のアリス』で言葉遊びの訳に定評のある河合祥一郎が挑戦し、見事に新訳したのです。
本書に収録されている表題作「Xだらけの社説」の一部を抜粋して紹介しましょう。
“Oh, John, John, if you don’t go you’re no homo ? no! You’re only a fowl, an owl; a cow, a sow; a doll, a poll;{i} a poor, old, good-for-nothing-to-nobody, log, dog, hog, or frog, come out of a Concord bog. Cool, now ? cool! Do be cool, you fool! None of your crowing, old cock! Don’t frown so ? don’t! Don’t hollo, nor howl, nor growl, nor bow-wow-wow! Good Lord, John, how you do look! Told you so, you know ? but stop rolling your goose of an old poll about so, and go and drown your sorrows in a bowl!”
いがみあう新聞社同士が、社説でお互いを誹謗中傷するシーンの一文です。口に出して読み上げるとわかるのですが、韻がふまれ、楽しいリズムで読めます。
ポーのこのこだわりの言葉遊びを、河合祥一郎が原文に忠実に訳すと以下のようになります。
「よお、ジョン、ジョン、帰らないなんてよくよくのことだ。なら君は人じゃない。ひよこだ。コヨーテだ。ぶよぶよのレイヨウだ。よろよろのようかいだ。ひょろひょろのヨーヨーだ。ひょうたんだ。にんぎょうだ。びしょびしょでふにょふにょでべちょべちょの蛙がうようよしているコンコルドの沼からきた蛙だ。蛙は帰れ。よお、落ち着け――くよくよするな! なよなよするな! 身をよじるな。よお、ジョン、なんて顔だよ! よこくしたよ――よれよれの顔引っ込めて、よをすねて、よよと泣け」
韻がふまれ、楽しいリズムで読めます。これがこの新訳の最大の特徴と言えるでしょう。
・風刺小説、謎かけ詩、創作論等の名作23編を収録
本書では、上述でも取り上げた「Xだらけの社説」の他、悪魔との対決を描く「悪魔に首を賭けるな」、ありえないはずのことが起きる「一週間に日曜が三度」といった、ダークな風刺小説や謎かけ詩、創作論など知られざる名作を23編を収録しています。これさえおさえておけばOK!なラインナップです。
Xだらけの社説
悪魔に首を賭けるな
アクロスティック(詩)
煙に巻く
一週間に日曜が三度
エリザベス(詩)
メッツェンガーシュタイン
謎の人物(詩)
本能と理性――黒猫(評論)
ヴァレンタインに捧ぐ(詩)
天邪鬼(あまのじゃく)
謎(詩)
息の喪失
ソネット(詩)
長方形の箱
夢の中の夢(詩)
構成の原理(評論)
鋸山(のこぎりやま)奇譚
海中の都(みやこ)(詩)
『ブラックウッド』誌流の作品の書き方/苦境
マージナリア(エッセイ)
オムレット公爵
独り(詩)
作品解題
ポーを読み解く人名辞典
ポーの文学闘争
・100頁超(!)もある巻末特典「ポーを読み解く人名辞典」「ポーの文学闘争」他
ポーの時代、アメリカ文学は萌芽期にあり、ポーは新たなアメリカ文学を打ち立てようと努力していました。そのためには、商品として売れる単なる読み物ではなく、文学として「効果の統一性」を有した優れた作品を生み出す必要があると考えたポーは、過激な文学批評を積極的に繰りひろげました。
当時のアメリカ文学界の人々を「ポーを読み解く人名辞典」で、実際にどんな論争があったのかを「ポーの文学闘争」で紹介しています。また解説「作品解題」も含め、巻末には100頁超(!)の特典を掲載しており、ファン必携の1冊となっています。
- 『ポー傑作選3 ブラックユーモア編 Xだらけの社説』について
◆書誌情報『ポー傑作選3 ブラックユーモア編 Xだらけの社説』(角川文庫)
著:エドガー・アラン・ポー
訳:河合祥一郎
発売:2023年3月22日(水)
定価:990円(本体900円+税)
ISBN:9784041130780
発行:株式会社KADOKAWA
詳細ページ:
https://www.kadokawa.co.jp/product/322206001076/◆著者プロフィールエドガー・アラン・ポー
1809-1849年。推理小説の創始者、ゴシックホラー小説やSF小説の先駆者とも言われるアメリカの小説家、詩人、雑誌編集者。極めて知的に多様なジャンルの物語を紡ぐストーリーテラーであると同時に、音楽性に優れた詩人であり、「大鴉」は生前大ヒットしてポーの仇名にもなった。ボードレールらフランス象徴派詩人や、ジュール・ヴェルヌら後代のSF作家らに与えた影響は大きい。その生涯も謎に満ちており、まさにミステリーを体現した作家といえる。
河合祥一郎(かわい・しょういちろう)
1960年生まれ。東京大学およびケンブリッジ大学より博士号を取得。現在、東京大学教授。著書に第23回サントリー学芸賞受賞の『ハムレットは太っていた!』(白水社)、『シェイクスピア 人生劇場の達人』(中公新書)、NHK 100分de名著ブックス『シェイクスピア「ハムレット」』(NHK出版)など。角川文庫よりシェイクスピアの新訳、『不思議の国のアリス』、「新訳 ドリトル先生」「新訳 ナルニア国物語」シリーズなどを刊行。