「バチカンと日本 100年プロジェクト」は、2019年、当時38年ぶりとなるローマ教皇の来日を契機として本格的にスタートしました。その活動は、バチカンと日本の450年以上にもわたる文化交流の歴史を紐解き、その成果を発表するシンポジウムや 「日本二十六聖人」の映画上映イベントの開催、また海外のインフルエンサーから長崎の魅力を発信するツアー企画や潜伏キリシタンの世界文化遺産や当時の食文化を体験する催しなど、多岐にわたって行ってまいりました。 「響け!平和の鐘 プレミアムコンサート」は、そういったこれまでのプロジェクト活動の大きな締めくくりとなります。
指揮をとった西本智実さんは、2013年にアジアで初めてバチカン国際音楽祭に招聘されて以来、毎年、サン・ピエトロ大聖堂でのミサや、サン・パオロ大聖堂でも演奏され、2015年の原爆投下70年の際には、サン・ピエトロ大聖堂に於けるミサの共同祈願で原爆投下による犠牲者に対しての追悼メッセージを世界に向け発信しました。
またバチカンから長崎市長・広島市長への親書を託され、手渡しにて届けるなど、バチカンと日本をつなぐ様々な文化交流活動を行ってきました。本年11月には、コロナ禍で中断を経て再びバチカン国際音楽祭に招聘され、サン・ピエトロ大聖堂でのミサやサン・ジョヴァン二・イン・ラテラノ大聖堂での演奏も決定しています。
- 音楽は、希望や勇気だけではなく、悲しみをも共有しできるもの。コンサートで皆さまに、「調和」というものをお届けしたい!
●西本智実さんはコンサート開演を前に、長崎や本公演への想いを次のように語りました。
*コンサートのテーマは?
バチカンのサン・ピエトロ大聖堂の鐘と浦上天主堂の鐘という、非常に象徴的な鐘の響きから、会場の空間にいる皆さんと心を合わせてコンサートは始まります。「平和への希求」が元にあります。
そして、私はもう一つ「調和」ということをその響きの中に感じています。音や音楽は希望や勇気を共有するだけではなく、悲しみも共有できると強く感じています。私の音楽家としての実際の感覚に最も近い言葉を選ぶとすれば、「調和」ということも今日のコンサートでお届けしたいと思っています。
*長崎やバチカンとの関係や想いは?
私は大阪で生まれ、大阪で育ちましたが、曽祖母は長崎出身で、先祖は潜伏キリシタンでもあったと聞いています。私は、祖父から曽祖母の思い出や、平戸に伝わる不思議な歌のことを聞いていました。 大学の頃、皆川達夫氏の著書などの文献で詳細を知りました。
2009年、「英国ロイヤルフィル」との来日公演で長崎公演がありました。休日を利用し、平戸(生月島)に初めて訪れました。その地で、祖父が話していた不思議な歌(「オラショ」)のことを実際に知ることができました。
その後、2013年にバチカンから招聘されることになりました。現地での選曲会議の際、私は、長崎に口伝で残されている 「オラショ」の存在とその原曲となる3つの曲のことをお伝えしましたところ、詳細を調べてミサの中で演奏が可能か調査しますと告げられました。バチカンからは「ミサの中での演奏に非常にふさわしい」と連絡があり、その秋、サン・ピエトロ大聖堂で演奏することとなりました。
その後も毎年招聘され、今年は11月4日(土)にサン・ピエトロ大聖堂に於けるミサでの演奏、5日(日)にサン・ジョバンニ・イン・ラテラノ大聖堂に於いて「第九」を演奏いたします。
※詳細は後日、西本智実さんのHPにてお知らせいたします。
*コンサートでどんなメッセージを伝えたいですか?
鐘の音というのは、多くの振動と音色が響きます。その日、その時の心身のコンディションを鐘の音から確認することができる、そういう存在でもあります。
バチカンのミサは鐘の音から始まります。異なる文化的背景の人達とも声を合わせ心を合わせて祈ります。非言語コミュニケーションである音や音楽を通して、伝統知、人類の叡智をバチカンで感じました。
現代は様々なことが隔てられ、細分化されています。それらをより良く重ねあわせる事で、超越していくものが必ずあると信じています。それは、音や音楽が持つ「調和」の力ではないでしょうか。
長崎は、言葉の隔たり、分断を超えて、新しい時代を築いてきました。そして、様々な文化に寛容性、柔軟性をもって、その「調和」を今の時代に残してくれました。
本日は、天正遣欧少年使節が聚楽第で豊臣秀吉の前で演奏した16世紀の作品も再現いたします。時代を経ても、言語を超えて、音楽を通じて、悠久の時が命を紡いで、私たちは今ここにいるのだということに、皆さんとご一緒に想像を巡らせたいと思います。
長崎から世界へ。古き時代から新しい時代へ。音や音楽の「調和」をお届けしながら、温故知新、21世紀のルネッサンスを目指していきたいと思っています。
- 「平和への願い」とともに会場に響き渡るサン・ピエトロ大聖堂の鐘と浦上天主堂のアンゼラスの鐘。約1時間のコンサートの最後を締めくくるのは、長崎少年少女合唱団との美しい共演!!
*長崎少年少女合唱団との共演は?
子どもたちの声は最も美しい自然の摂理に近い声だと思います。私は音楽の「調和」というものは、自然の摂理を感じることだと思っています。
今回、長崎少年少女合唱団の皆さんとの共演が、とても楽しみでした。昨日のリハーサルでは、今回の編成の中で自分たちの声の作り、形というものを、すぐにキャッチしてくれました。
*浦上天主堂で演奏される想いは?
ここで初めて音を出した時、「非常に温かな音色」という印象を持ちました。この教会自体が持っている音響です。素晴らしいと思いました。今回の公演を通じてアンゼラスの鐘のことを知り、小聖堂では被爆マリア像を見ました。とても衝撃を受けました。長崎は、様々な文化を受け入れ、新しい時代を築いてきました。そして、悲しい歴史の中からも、見事に復興を遂げ、再び世界の大きな扉を開いてきました。そんな様々な長崎の歴史が、ここの場所に立った時に胸に響きました。これはなかなか言葉にすることはできませんが、そういう想いを込めて演奏したいと思っています。
*最後にメッセージを!
私はバチカンで色々な文献も見させていただきました。例えば、ルイス・フロイスのような方が日本の歴史を詳細に観察し、バチカンに報告し、その史料が残っている事は、ご承知の通りです。そこには、いつも必ず 「長崎」が最初に出てきます。いかにこの長崎という地が重要で、そして様々な文化を多くの人々に届けてきた地であるかということを再認識しています。かつての私にとって遠い地であるバチカンという場所で、改めて長崎の素晴らしい歴史を確認できたことも、是非、市民、県民の皆さんに届けたいと思っております。
*演奏曲
1.「オラショ」原曲 グレゴリオ聖歌より 「O gloriosa Domina」
2.パッヘルベル作曲 「カノン」
3.ジョスカン・デ・プレ作曲 「はかりしれぬ悲しさ」
(天正遣欧少年使節がヨーロッパより帰国した後に聚楽第の豊臣秀吉の前で披露したとされる楽曲を再現)
4.レスピーギ作曲 「リュートのための古風な舞曲とアリア」より 第3組曲より抜粋
5.ヘンデル作曲 オラトリオ 「メサイア」より〈ハレルヤ・コーラス〉(長崎少年少女合唱団12人が加わって共演)
●尚、この模様は近日、ウェブにてアーカイブ公開される予定です。詳しくは、公式サイト(https://vj100.jp/event/)にてお知らせいたします。
●「バチカンと日本 100年プロジェクト」公式サイト(https://vj100.jp/)