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株式会社KADOKAWA(本社:東京都千代田区、取締役 代表執行役社長 CEO:夏野剛)は、2025年5月23日(金)に、『ウーマン・トーキング ある教団の事件と彼女たちの選択』(著:ミリアム・テイヴズ、訳:鴻巣友季子)を発売しました。
本作は、NHK Eテレ「100分de名著」(6月期)で話題のマーガレット・アトウッドが絶賛し、同番組の指南役・鴻巣友季子が翻訳を担当しています。なお、内容は、キリスト教系団体メノナイトの村で起きた実在の事件をモデルにしたサスペンスです。
以下に、『ウーマン・トーキング』のあらすじと、今、読むべき4つの理由についてご紹介します。
「私たちは子どもを守りたい」
教団で起きた大量レイプ事件。「悪魔の仕業(しわざ)」「作り話」とされてきたが、実は身内による犯行だった。実話にもとづくサスペンス!
あるキリスト教系団体の村(コロニー)で起きた大量レイプ事件。最年少の被害者は3歳の少女。それは「悪魔の仕業」「作り話」とされたが、実は身内の8人の男による犯行だった。
彼らを保釈させようと村の男たちが外出する2日間。女たちは子どもを守るために未来を選ばねばならない。何もしないか、闘うか、村を出ていくか。文字の読めない女たちの会議(ウーマン・トーキング)が始まる。実話にもとづくサスペンス。マーガレット・アトウッドが「必読」と絶賛。
第95回アカデミー賞脚色賞映画、原作!
2025年6月期のNHK Eテレ「100分de名著」のテーマは、カナダの作家マーガレット・アトウッドの代表的ディストピア小説『侍女の物語』『誓願』(ハヤカワepi文庫)です。
同番組の指南役で、『誓願』の訳者でもある鴻巣友季子氏が本書『ウーマン・トーキング』の翻訳も担当しています。
また『ウーマン・トーキング』について、アトウッドが自身のSNSで絶賛しており、曰く「これは必読! この驚異的で、悲しく、衝撃的にして心を打つ小説は現実の事件を元にしており、まるで『侍女の物語』から抜けだしてきたようだ」とのこと。「100分de名著」を副読書として本作をお読みいただければ、なぜ本作をアトウッドが推したか、今の女性文学の潮流のなかでどうして本作がアトウッドの目に留まったか、などがうかがえて、さらにアトウッドへの理解につながるかと思います。
本作は、キリスト教系団体メノナイトの村(コロニー)で起きた、実在の事件をもとにしたサスペンスです。
本作の内容は、二〇〇五年から二〇〇九年にかけてボリビアにあるメノナイトの宗教コロニーで起きた連続暴行をモデルにしている。メノナイトは非暴力と無抵抗を主張し、迫害を受けながら移住を繰り返してきたプロテスタントの宗派であり、多くは現代的な社会機構やテクノロジーから隔絶して、独自の言語をもつコミュニティを築き、素朴な暮らしを送っている。
この一見平和なコロニーで、百数十人の女性や少女たちが男性たちによって麻酔薬で昏睡(こんすい)させられ、レイプされたのだった。(「訳者あとがき」より)
鴻巣友季子氏による「訳者あとがき」にもあるとおり、3歳の少女までが暴行され、15,6歳の少女が凄惨な姿で発見される記述がありますが、それは実際の出来事に照らしているようです。
ここでポイントとなるのは、著者のミリアム・テイヴズがメノナイト信徒の両親の娘であるということ。ですから、日本に住む我々の感覚からも、本国カナダに住む一般人の感覚からも離れた価値観を持つコミュニティを舞台にしながらも、異質な人たちのなかで起きた異質な事件として安易に片付けていません。彼らの信仰の自由をみとめ、彼らに感情移入できるような描き方をしています。
誰しも同じ立場に立たされたら、女性は被害者に、男性は加害者になるかもしれないという前提のもと作品は執筆されているようで、それは本作のテーマが普遍的な男女間の問題に根ざしているからではないでしょうか。やっかいな男性との問題に女性はどう対処すればよいか、男性はどのようにして女性と向き合えばよいか。そういった切実なテーマについて、ミリアム・テイヴズは物語のなかで現実的な答えを出しています。
「生まれつき翻訳」とは、(1)翻訳されることを前提に書かれたり、(2)多言語を作品に組み込んだり、(3)翻訳のふりをしたりする作品のこと。本作には(2)(3)の特徴があるため、「生まれつき翻訳」となります。上述したとおり、メノナイト信徒たちは、独自の言語メノナイト語を話します。
メノナイトの女性たちは教義上、読み書きの教育を受けていないため、語り部のオーガストという男性が英語に翻訳してこの物語を書いた、というのが本作の設定です。
オーガストはかつてメノナイトのコロニーで生活し、その後英国で教育を受けたため、メノナイト信徒と英語圏の一般の人たちとをつなぐ架け橋のような存在です。
彼の視点から「生まれつき翻訳」の形式で物語を描くことによって、メノナイトの世界を私たちはのぞきみることができ、同時に私たちにとってのフツーがフツーではないことを実感させられます。
私たちの価値観のほうが彼らにとっては異質なものなのです。
また、オーガストは男性でありながらも、村(コロニー)では男扱いされず、ドゥンコフ(できそこない)と呼ばれているという設定で、女性と男性の間の架け橋のような存在です。
男女間の問題をテーマにした作品を、オーガストのような中間にいる人の視点で描くことで、一面的ではない、多面的で重層的な、厚みのある作品に仕上がっています。
それもまた、女性にとってのフツーと男性にとってのフツーは異なり、男性の価値観が女性にとっては異質なもので、女性の価値観もまた男性にとって異質なものだという事実を教えてくれます。
フェミニズムをこういった形式で描く小説は今までにあまりなく、新しいタイプのフェミニズム小説ではないでしょうか。本作をアトウッドが評価したというのも興味深いです。
本作は第95回アカデミー賞脚色賞受賞映画「ウーマン・トーキング 私たちの選択」の原作になります。映画は米国で2022年に公開され、日本では2023年に公開されました。
映画と小説で、ところどころ異なる描写もありますが、いちばん大きなところでは、映画ではオーガストの出生の秘密が描かれない、ということです。
本作をお読みいただいて、彼の出生の秘密を知れば、映画をご覧になったかたは、この作品に対する印象がだいぶ変わると思います。
映画がなぜ物語のキモとなるエピソードをカットしたか、ということを考えるのも面白いでしょう。
担当編集は本作を何度も読みましたが、読めば読むほど新しい発見があり、この魅力を一言ではとても言い表せません。読みおわったあとに、あれってどういう意味だったんだろう、と人と話したくなるようなテーマがつまっていて、心にずっとひっかかったまま残るような作品です。
今のフェミニズムの潮流のなかでも重要な位置にある作品かと思いますので、ぜひご一読ください。
書名:ウーマン・トーキング ある教団の事件と彼女たちの選択
著者:ミリアム・テイヴズ
訳者:鴻巣友季子
発売日:2025年5月23日(金)
定価:1,518円(本体1,380円+税)
判型:文庫判
ページ数:288ページ
ISBN:978-4-04-114743-6
発行:株式会社KADOKAWA
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ミリアム・テイヴズ
カナダのマニトバ州出身の作家。祖先はウクライナからの移住者で、メノナイト信徒の両親のもとに生まれる。代表作は本作の他、『Fight Night』『All My Puny Sorrows』『A Complicated Kindness』など(すべて未邦訳)。
著作はアトウッド・ギブスン・トラスト・ライターズ小説賞を二度も授与され、本作はアトウッドから「これは必読!『侍女の物語』から抜けだしてきたよう」と評された。また、本作は2022年に映画化され、第95回アカデミー賞脚色賞を受賞した。
鴻巣友季子(こうのす ゆきこ)
1963年、東京生まれ。翻訳家、文芸評論家。英語圏の現代文学の紹介と共に古典新訳にも力を注ぐ『風と共に去りぬ』『嵐が丘』『灯台へ』(すべて新潮文庫)の新訳を手がける。
他訳書に、マーガレット・アトウッド『誓願』(ハヤカワepi文庫)、『ペネロピアド』(KADOKAWA)、クレア・キーガン『ほんのささやかなこと』(早川書房)など多数。『文学は予言する』(新潮選書)、『ギンガムチェックと塩漬けライム』(NHK出版)など評論書も多い。