ところざわサクラタウンから発信されるKADOKAWAのSDGs

出版デジタル革新による持続可能なコンテンツ・ビジネスの実現へところざわサクラタウンから発信されるKADOKAWAのSDGs

2020年11月6日、総合エンターテインメント企業KADOKAWAの複合施設「ところざわサクラタウン」がグランドオープンした。ミュージアムやホテルなどを備えたポップカルチャーの発信拠点であると同時に、KADOKAWAが推進する出版デジタル革新の拠点となる。同社が目指す持続可能なコンテンツ・ビジネスの姿と、ところざわサクラタウンを中心としたSDGsの取り組みを紹介する。

JR武蔵野線・東所沢駅から徒歩で約10分。「ところざわサクラタウン 」でまず目を引くのは、隈研吾氏が設計した「角川武蔵野ミュージアム 」だろう。巨大な岩石のような外観で、その中には博物館をはじめ、アニメミュージアムやマンガ・ラノベ図書館、さらに高さ約8メートルで5万冊もの本を収蔵する巨大本棚「本棚劇場」などを備えている。ところざわサクラタウンのランドマーク的な存在だ。

約4万平方メートルの広大な敷地には他にも、アニメをテーマにしたコンセプト・ホテルや大小2つのホール、1000人規模の屋外イベントが可能なテラス、レストランやショップ、神社といった多彩な施設があり、この場所をアニメツーリズム(アニメ聖地をつなぐ広域の周遊観光ルート)の一番札所にも設定するなど、日本最大級のポップカルチャーの発信拠点となっている。

ただ、ところざわサクラタウンにはもう1つ別の顔がある。それが、KADOKAWAの1000人規模のオフィス「所沢キャンパス」であり、最新鋭のデジタル製造設備を備えた書籍製造・物流工場だ。オフィスと工場、倉庫が一体となっていることで、企画制作から印刷、物流までワンストップで進めることができる。またワンストップの体制+出版デジタル革新によって、これまで出版業界が抱えていた過剰在庫や大量廃棄といった課題を解決することも可能となる。実は、ところざわサクラタウンはKADOKAWAのコンテンツ・ビジネス全体の心臓部であり、同時に持続可能なコンテンツ・ビジネスを実現するSDGsを体現する施設なのだ。

「所沢キャンパス」と呼ばれているオフィスは、約9000平方メートルのワンフロア。天井が高く開放的な広いスペースには、従業員が気持ちよく働けるようにと、植栽なども多く配されている。

ところで、なぜKADOKAWAは東所沢に新たな拠点を作ったのだろうか。同社はもともと埼玉県三芳町などに製本工場や物流倉庫を保有していた。しかし、すでに40年以上稼働していて老朽化の問題があり、出版のデジタル化を推進するためにも新たな設備の必要に迫られていたところ、所沢市が旧所沢浄化センターの跡地の有効活用を検討していることを知ったのが始まりだ。広い敷地には、書籍製造と物流の設備のほか、新しいワークスタイルを実現するオフィスの設置や文化創造の視点からミュージアムの建設なども検討していった。

一方、所沢市には、人口が減少する中で生産年齢人口を確保するために、産業の活性化が不可欠だという思いがあった。そして、公募型プロポーザル方式によってKADOKAWAへの売却を決定、2014年にKADOKAWAに土地の所有権が移転した。その後、KADOKAWAからの提案がきっかけとなり、KADOKAWAと所沢市は共同で「みどり・文化・産業が調和した地域づくり」を目指す「COOL JAPAN FOREST構想」も推進している。地元である所沢市との共生も、ところざわサクラタウンのSDGsの大切なテーマの1つだ。

ところざわサクラタウンが完成したことで、今後は地域の雇用創出が期待されている。施設内では学童保育を開所していて、働きやすい環境づくりにも力を入れている。他にも、一般客も利用できる社員食堂「角川食堂」では、地元の食材を多く使用したり、障がい者を雇用している特例子会社で焙煎したコーヒーを提供したりしている。KADOKAWAは、ところざわサクラタウン全体でSDGsに配慮した運営に取り組み、国内屈指のSDGs拠点とすることも目指しているという。そして、SDGsの取り組みの中核にはすでに触れたように、企画制作から印刷、物流までワンストップで行える体制と、出版デジタル革新がある。

  • 7.94×2.408メートルの高精細な大型LEDビジョンが設置されたオフィスのロビー。自社のコンテンツやインフォメーションなど、迫力ある映像がロビーの表情に常に変化をもたらす。
  • なるべく扉を設けず、床や天井の高低差やデザインの変化で空間の役目を変えるオフィス。各自が業務に集中する場所は4段の階段の上にあり、高さの変化で意識の切り替えを図る。
  • オフィス内には多彩なチェアやテーブルが各所に配され、気分や用途によって使い分けできる。階段状のオープンスペースは、社内のプレゼンなどにも利用可能。
  • ロビーのカフェスペース。特例子会社「角川クラフト」のスタッフが丁寧に焙煎した豆を使ったコーヒーが好評だ。障がい者が能力を発揮しながら働けるダイバーシティの取り組みの1つ。
  • 一般の人も利用可能な”社員食堂”の「角川食堂」は、こだわりのカレーが特に人気。地元の人たちや観光客も気軽に利用している。地域食材の活用やフードロス削減にも積極的に取り組む。
  • すぐ隣には東所沢公園があり、「ところざわサクラタウン」と地元の公園の両方を意識することなく利用できる。散歩に訪れる地元の人たちも多く、地域に密着したスペースとなっている。

その出版デジタル革新という側面を中心に、ところざわサクラタウンで実現しようとしている持続可能なコンテンツ・ビジネスの取り組みについて、KADOKAWAの松原眞樹取締役副会長に聞いていく。

次のページインタビュー「ところざわサクラタウンを拠点に業界の新スタンダードを創る」

『MITテクノロジーレビュー[日本版]Vol.2 / Winter 2020』(発行:株式会社角川アスキー総合研究所)より転載。
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